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過ぎし人々の世界 〜屋台喧騒編〜

作者: Ria

「今日はカレーかな?」

会社帰りの装いをした青年が手元の紙切れを見ながら呟いた。

にんじん、じゃがいも、青菜。最後はともかく・・・彼は妻の得意げな顔を思い浮かべ上機嫌だった。

警備員が立ち並ぶ屋台、そしてそこに並ぶ野菜を見比べつつ青年は日常の買い物を済ませていく。会計をしていると、突然傍らに積んであった玉ねぎの棚が崩れ落ちた。

店員は呆れたような表情で近くの警官に大声で、客寄せとは明らかに違う怒りと悲壮に満ちた声で

「また万引きだよっ!・・・ってさすが!慣れたもんだねおまわりさんは!」

と呼びかけるころにはすでにひとりの老爺が警官に取り押さえられていた。

現行犯逮捕、白髪とみすぼらしい服装以外何一つ持ってないはずの老人は警官に拘束されている。

近くにいた警官の相方らしい人物が老人の顔を一瞥すると「初犯ですね、少なくともこの区域の記録では。他次元格納かテレポーテーション、まあ万引きとして処理しましょうか」と早口でつぶやいた。

屋台のそばにあった台で野菜を包み終えた青年は愛妻へに送るメールの内容を考えている傍らで、店員と警官のやり取りが屋台街の喧騒をより一層濃くする。

「えーっ、そらないよ。このじいさんうちの商品戻せないのかよ」

店員の声色が一層呆れかえっており、警官のうちひとりが同情を含んだ返事をした。

「もうしわけありません。どうやらこの人制御が下手なようでして、手につけた対象は消滅したようです」

「第三紀発現者でしょう。最近はまた老年の発現者も出てきてますので恐らく能力の使用に慣れていない。盗難ではなく単なる嫌がらせの可能性もありますが」

その後食い気味で相方が付け加えた。

「しらねえよ、んだけどこんなしょうもない被害じゃ保健も効きゃしねえ。帳簿と聴取でめんどうが増えちまったじゃねえか、まったく」

店員は老爺を睨みつつ悪態をついていた。

しかし、店員はそれっきり老爺に追求せず警官とのやりとりを始めた。

青年は最新式の二つ折り携帯を閉じ、家路に向けて足を動かし始めた。

しばらくして、路地に入ったところで暗闇から彼を呼び止める声がした。目の前に火の玉が浮かび上がり、少し熱気を感じた。

「ようにいちゃん、金かしてくれや」

彼を呼び止めた声の主は胸の前に手の平を天に向けた状態で、またその上に火の玉を浮かび上がらせている。

ライターで起こした火ではない。青年は彼が発火系の超能力者であることを察した。そして、彼は先ほどの喧騒に引き続き起こったこの事態に少々呆れた。

「おっと大声出すんじゃねえよ、俺の炎は一瞬でお前をブッ殺せんだからな」

青年は呆れた。これはハッタリだと。しかし今夜のカレーのためにも、そしてまた今週末にも愛妻がアイロンをかけてくれるクリーニングされたこの一張羅のためにもこの男からの火の粉を全てかいくぐらなければならない、と彼は呆れを飲み込み決意を改めた。

「おいおい、ビビってんのか?まあしゃあねえよな。見た所あんた無能力っぽいし?まあまあおとなしく・・・」

青年は逃げ出した。

発火男は目を瞑り諸手を肩の上にすくめつつ炎を出し、海外俳優を気取ったポーズをしている最中だったため、青年の行動に気づくのはポーズを決めきった後だった。そして彼はそのポーズには似つかわしくない仰天の表情を露わにした。

「お、ちょ、待てよ!」

男が気取りを残したまま走り出した瞬間、突然進行方向の反対側に弾き飛ばされた。その姿は滑走路から飛び立つジェット機のように、路地から往来に響き渡るほどの衝撃音を出して全身をゴミ溜めに強く打ち付けた男の意識は暗闇に溶け込んだ。

そして、次に目覚めた時には警官に囲まれていた。

青年は近くにいた警官へ声高に

「正当防衛です。買い物帰りに近道をしようと保護区域から出た私の責任でもありますが、とにかく不可抗力です」

と主張していたがすぐに先ほどの喧騒を制した警官が柔らかな物腰で言い伝えた。

「ご安心ください、あなたの潔白は私の能力で証明されております。対能力者法に則り犯行時刻周辺の過去視を行いましたが、明らかにあの、発火能力者がクロです、要はあなたは潔白です。大変でしたね」

青年はほっと胸をなでおろした。事態の記録、犯人の確認を終えた早口の相方が青年を覗き込みながら引きつった笑顔を向けた。

「どうも、ああ私は笑顔が下手なのですが、ああちがう。それはいい。いやあなたはいい。すばらしい、あなたの能力は我々向きではないでしょうか、あなたがいれば私たちも少しは仕事が楽になっ」

食い気味で詰め寄る相方を柔和な態度の警官が慌てて引き止める。

「すいませんすいません、こいつ能力のせいでちょっと余裕がありませんでして・・・失礼しましたね、勧誘の件は聞かなかったことにしてください。ご存知の通り我々はスカウトではなく公募による・・」

「大丈夫ですよ、それに私は今の生活が気に入ってますし、なによりも決まった時間に帰れるのはいいことだ」

と青年は笑いまじりに答えた。警官は食い気味の同僚を抱えて頭を下げつつ青年を保護区域まで送り届けた。

青年は今度こそ安全な家路につき、携帯を取り出し電話をかけた。

「もうすぐ着くよ、大丈夫、野菜はちゃんと買ってきたよ。うん、愛してる」

青年は穏やかな表情で家の玄関に着くと、扉を開きながら愛妻に声をかけた。

「ただいま、今日も平和な1日だったよ」

文字書きの練習用に書き始めた現代日本を舞台にした異能力バトル・・・の背景に横たわる日常を描いた作品です。時代設定は日本にスマホが普及するよりちょっと前の2000年代前半です。本当はもっと綿密に、時には激しいシーンの描写がボンボコ入った濃密な作品を出してみたいのですが、実力も経験も無いので小ちゃなお弁当のようにチマチマと色んなシーンを詰め合わせた作品を量産して場数を踏みたいなあと思っております。

しばらくは形式がコロコロ変わることが予想されますが、気ままにやっていきたいです。

一つの世界観を背景にした、それぞれに関連性がない作品群にする予定なので短編小説の形式をとってます。読みにくそうだったら後々長編にまとめ直します。

今回はパッと思いついたネタをその場で書いて、さらにその場の勢いで推敲して投稿してしまいました。ただ、私の性格から言って次回以降もこの自惚れた投稿スタイルを貫くことが予想されます。この自惚れた駆け出しの文字書きの鼻を明かすコメント、お待ちしております。

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