表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネクロノミコン~神話生物と暮らす~  作者: @素朴
第三章
43/60

26-1 豊穣の女神

 水魔法の使い手である魔女ジーンがインスマスで暮らすようになってから、インスマスは一つ発展を遂げていた。


 ジーンはその卓越された水の精霊との親和性から、水脈を探し出すことができた。


 インスマスの北側には海が広がっており、他は全て枯れた大地と呼ばれる荒野が広がっている。


 海水は申し分ないほどあったが、実は飲水や生活用水等といったものは不足していた。


 数少ない水の魔石を節約して使っていたたが、それでも水不足であった。それを魔女ジーンはあっさりと解決したのだった。


 インスマスの南側、枯れた大地の向こうユピの森を超えた先にある大山脈。グリグア山脈から伸びてる水脈を探り当てたのだった。


 現在インスマスでは井戸の建築が優先されて行われていた。


 水不足を解決できれば、もしかしたら野菜や穀物を育てられるかもしれない。何より、水を気にせず使えるようになるというのは、優先すべきことだ。


 現場監督は言わずもがなイアンが行っており、その補佐をジーンが務めていた。


 ムーン=ビースト達も要領を覚えると、イアンの指示が出されるよりも早く作業を進めていった。


 更には、今までは漁の手伝いを行っていたインスマス面の一部の男衆も、土木業に従事するようになっていった。


 自分達の暮らす村であるインスマスを、自らの手で良くしていこうという意識を持ち始めた証拠だろう。


 アルハードもムーン=ビースト達と荒野に狩りに行ったり、現場作業を手伝ったりしながらの日々を送っていた。


「ジーン、進捗はどんな感じ?」


 今は午前中の狩りも終え、井戸の建築作業を行っていたジーンに進捗具合を聞きに来ていた。


「メインとなる井戸は三つとも完成した。今は村の何処に井戸を繋げていくか視察して回っているところ」


 ジーンはあまり質の良くない紙に村の見取り図を描き、そこに今後作っていく井戸の位置を落として回っているところだった。


 イアン達は少し空き時間ができていたので、教会の増築に着手しているようだ。


「ふーん……まぁ、俺は専門的なことはわからないからな、完全におまかせだ」


「私だって村おこしの専門ではないから、ここら辺なら皆が不便なく井戸を使えるかと思う場所を探しているに過ぎない」


「そうか、本当は全部の家に作れればいいんだけどな」


「それは無理。ムーン=ビースト達がいるから人手は十分なのだけど、材料が圧倒的に足りない」


 眉間に皺を寄せ、難しい顔をするジーン。アルハードも村の資源が不足していることは重々承知しているので、できる範囲でやってくれればいいという考えだ。


 改めてジーンの事を見るアルハード。


 相変わらず着ているものはダボッとしたローブで飾り気などないのだが、ハイドラと魂の契約を行ったことで、不老の力を得たためかなり若返っている。


 皺だらけだった顔は、美女とまではいかないまでも、美熟女と言って差し支えない。エルフの彼女は若い頃かなり整った顔立ちをしていたのだろう。全盛期の頃までは若返らなかったが、それでも妖艶な雰囲気を醸し出している。


「何?」


 アルハードの不躾な視線に気付いたジーンは、訝しげな目でアルハードを見ている。


 後ろめたいことはないアルハードだったが、つい戸惑ってしまう。


「い、いや、改めて見るとだいぶ若返ったなぁと思って」


「あぁ、ハイドラと魂の契約をしたから……神話生物だっけ? 凄いと思う。まさか不老になるとは思わなかった」


「まぁ神話生物は色々規格外の奴らが多いからな……特にハイドラとダゴンはインスマスでは頭一つ抜けてるし、クトゥルフに至っては邪神と呼ばれる存在だからな」


「流石私の神様と言ったところだ……ハイドラには本当に感謝している。彼女のお陰で私は今とても幸せな日々を送れている」


 あのままジーンは寿命を迎え死ぬはずだったが、今は活き活きとしている。


 自らの神と謳うクトゥルフに仕えることが、本当に嬉しいようだった。


 アルハードは無宗教なので、いまいち理解しづらい感情であったが、本人が嬉しそうなのであればそれでいいだろうと思っていた。


「ジーンは契約で不老を貰ったんだっけか、ハイドラには水魔法をあげたんだっけ?」


「えぇ、流石に特級魔法までは使えなかったけど、上級魔法までは使えるようになっていた」


「え? ジーンって特級魔法も使えるの?」


「詠唱にかなりの時間を要するけど、一つだけ使える」


 特級魔法とは上級魔法の更に上の魔法だ。クレイアデスで宮廷魔術師になるためにはこの特級魔法が使えることが条件だ。


 上級魔法ですら、習得にはそれなりの時間がかかる。その上の特級魔法は才能の壁があり、誰もが扱えるものではない。


 消費魔力が尋常ではないが、その分威力が高く、対多数に置いてその真価を発揮する。天候を操る魔法もこの特級魔法に分類される。


 あれ程の水魔法の腕を持ちながら、三百年以上生きているジーンが習得していても不思議ではないが、それでもアルハードの衝撃は大きい。


「特級魔法を使えるなんて凄いな……そう言えばハイドラが水魔法使えるようになったのを、ダゴンがやたら悔しがっていたな」


「ダゴンからも水魔法を教えてくれと頼まれた。けど、何故かダゴンはクトゥルフ様に先輩と呼ばれていて、私はそれが羨まし過ぎたから教えてない」


 おっと、これ以上はいけない。そう思ったアルハードは即座に話題を変える。


 ハイドラだけではなく、ジーンまで先輩呼びに過激に反応しているとは思わなかった。クトゥルフの信者(主に女性陣)は色々と厄介である。


「ははっ…‥そ、そういえばもう海では泳いだか? 魂の契約で水掻きが生えてきたって聞いたけど」


「泳いだ。慣れるまで少し時間がかかったけど、あれは中々に気分がいいものね」


 海で泳いだことを思い出したのだろう。ジーンは笑みを作る。水の中を自由自在に動くことは思ったよりも楽しいことはアルハードも知っているので、自然とアルハードにも笑みが浮かぶ。


「そうだ、ジーンから見てインスマスはどんな感じだ?」


 新たにインスマスの一員となったジーンに、アルハードはインスマスの印象を聞いた。


 ジーンは三百年以上も生きてきたエルフだ。なので、もしかしたらインスマスの発展に有力な話が聞けるかもしれないと思ったからだ。


 ジーンは顎に指を当て、少し考える仕草をした。


「そうね……文明が全体的に遅れていると思う」


「そりゃ他所と比べたらインフラも整ってないし、娯楽なんかもまったくないしな」


「後は、今まで自分のことを蔑ろにしてきた私が言えることではないけど、食生活が酷いと思う」


「うっ……」


 痛いところを指摘されてしまったことに、アルハードは息を詰まらせる。


「タンパク質しかない食事はどうかと思った」


「知ってる」


「とは言えこの枯れた大地で野菜なんかを作るのは難しい。水がいくらあっても、大地自体にその力がない」


 ジーンのお陰で水問題が解消されたからと言って、やはり枯れた大地で農業をするのは難しいのだろう。


 ロージー達が有用な人材を連れてきてくれる手筈になっているが、流石にこの大地で農業を行うことができる人材となれば、そうそういないだろう。


 やはりその点に関しては、アルハードは自分でなんとかしなければならないと思っていた。


(なんとかならないか?)


(なんとかなりますよ)


(は? なんとかなるなら教えてくれよ!)


(嫌ですよ)


 相変わらず相棒はなんでも知っているようで、何も教えてくれない。


 この前も魂の契約の危険性について、ハイドラとジーンの会話で知ったばかりのアルハードである。あの後小一時間程問い詰めたが、ナルはどこ吹く風であった。


「うーん……神話生物で、枯れた大地を復活させられるやつがいないかな」


「神話生物に関しては私はわからない。ただ、クトゥルフ様は海に恵みをもたらせているから、あるいはそういった存在がいるのかもしれない」


「え? クトゥルフってそんなことできるの?」


「……あなたはもっとあの偉大な御方のことを知るべきだ。そしてもっと敬ったほうが良い」


 若干虚ろな目で睨みつけられたアルハードは、思わず一歩後ずさりしてしまう。


 アルハードのクトゥルフに対するイメージは、見栄張で寂しがりやのお爺ちゃんというイメージだったので、神だからといわれても敬う気持ちはなかった。


 ジーンもそのことを察しているのだろう、攻めるような視線だ。


 確かに思い当たることはあった。クトゥルフがインスマスに来てから、漁は毎回大漁であったからだ。そのためインスマス面達が漁に出ずとも、十分な食糧確保が可能になり土木業に従事する余裕ができた。


 ただ、それはクトゥルフが居るため深きものやダゴンが張り切って漁をしているからだと思っていたが、どうやらクトゥルフの力のお陰だったようだ。


(いい線行ってますね)


(え? どういうこと?)


(クトゥルフが海に恵みをもたらしているように、大地に恵みをもたらす邪神がいるということですよ)


(まじ?)


(えぇ、ここまで考えたご褒美ですよ)


 くふっっと小さく嗤うナル。その嗤いに不安な気持ちが芽生えるが、活路は見出された気がした。


 これ以上は教えてくれそうもないので、後は自力で見つけ出すしか無いだろう。そう考えると、アルハードが持つ神話生物を知る手段としては、クトゥルフに聞くか、アル・アジフを読み込むことだろう。


 とりあえず手短なところから、クトゥルフに話を聞きに行くことにした。


 もしかしたら大地に恵みをもたらしてくれる神話生物がいるかもとジーンに伝え、クトゥルフの元へと話を聞きに行った。


 しかしクトゥルフは、私は今のままで十分だと思うぞ。と何処か歯切れの悪い返答しかしてこなかった。


 何か知ってるなという雰囲気はあったが、何故か渋っていて教えてくれない。


 ナルといいクトゥルフといい、どうして邪神どもはすんなり教えてくれないのかと、アルハードは不機嫌になりながらも、仕方なくアル・アジフを開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ