ハーレム部の結末 2
「すみません。ハーレム部を作った変態がいるって聞いたんですけど、先輩ですか?」
ん? 誰この子? その姿を一言で表すなら幼女という言葉が相応しいだろう。身長は一三十センチ未満といったところだな。
髪型はショートカットでその幼い身体は言葉通り全てが発達しきっていない、まさにライトノベルなどでよくある純真無垢を連想させる様だ。まさしく美の骨頂。
特に一際目立っているのは一切の穢れがないことを主張するかのような純白の肌だ。その肌からは、誰にも触らせたくないという独占欲。そして、穢されるくらいなら命を賭けてでも守ってやりたいという庇護欲に駆られる。
なぜそんなに語ることが出来るのかというと、俺はこの高校生になってからの一年足らずで幼女についてある程度学んだからだ。今でも幼女という存在は俺の中でとても大きいと思う。
そんな俺の分析と体験談はどうでも良い。それよりどうしてこんなロリロリの幼女がこの学校にいるのだろうか?
「君はどこから誰とここへ来たのかな?」
「先輩は何か勘違いをしていませんか?」
「勘違いをしているのは君の方だと思うよ。ここは小学生が来て良いところじゃないよ」
とても可愛いけど幼女を連れてくるのはいくらなんでもだめだよな。とても可愛いけど。
「私は高校生です」
「えっ、そうだったの」
マジかよ。てっきり小学生位かと思っていたけど………って待てよ。この子は小学生ではなく高校生である。てことは法的にもセーフな合法ロリということになる。つまり………
「諦めかけていた念願の『幼女と青春を謳歌する』という夢がついに実現するときが来たんだー!」
「はい?」
俺はこの時をずっと待ち望んできたんだ。本物の幼女と一緒にキャッキャウフフな展開になっていると、周りの視線がそれだけで突き刺さるようなものになる。
今の時点でもう十分似たような目に遭っているだろとかそういう事は思うなかれ、俺が変態として長けているという事は既に自覚しているのでね。直しようがない。
「あのー先輩は何か卑猥なことを考えていませんか? ていうか何で笑っているんですか? 気持ち悪いですよ」
「変態なんだからやむを得まい」
何度もいうが悪評が立っているにも関わらず、悪行を働くのがこの俺様だ。気持ち悪いなんて褒め言葉にしか聞こえない。ただ、俺だけが一方的に悪いかといったらそういう訳でもない。
四字熟語に悪因悪果というのがある。意味的には割と世の中で思い当たる節がいくつかあると思うのだが、もちろん例外も存在している。
俺がいつも突拍子もないことを言い出すと、必ずと言っていいほどそれを聞いたり、噂を耳にした生徒は俺を見て嫌悪感がにじみ出ているようなオーラを発する。それに対して学校側は積極性に欠けているところがあり、認めてしまうことが多々ある。
結論から言って、学校側の対応が悪い。そして、図に乗って好き勝手していた俺はもっと悪い。調子に乗ってしまってすいませんでした。反省反省。
「それで、合法ロリは何故この変態を探していたのかな? 襲われたいのかな?」
「先輩が言うことは冗談に聞こえないので、今みたいなのはやめてください」
「幼女にはっきり言われると、俺の感性を持ってしても結構傷つくのでやめてください」
いや、本当に。普段から悪口を言われることは前述したとおりなれているのだが、それが直接となるととてつもなく憂鬱になる。それに加えて体型が幼女となると尚更だ。
「ハーレム部の活動に興味があるので仮入部してみたくて探していました。それと、あの生徒会長がバレー部を退部する決断に至った理由も知りたいなーと思いまして」
「まさかの仮入部希望者!」
正直、仮とはいえど入部希望者なんて一人もいないと思って、半ば諦めかけていたのに来てくれる生徒がいるなんて。それが美幼女となると一入だ。
こんな風にさっきとは真逆の感慨を抱いていると、合法ロリが補足で付け加えてきた。
「一応言っておきますが先輩には全く興味がありません。別に嫌いとかじゃないですよ」
「それは無関心ってことですよね。好き嫌いとかの前に根本的に無理なやつですよね」
俺が主人公のはずなのにヒロインが無関心とか、この物語始まったばかりなのに期待薄すぎでしょ。ハーレム要素ゼロでしょ。
「とりあえず、仮入部ありがとうございまーす。可愛い女子生徒はだいかんげいでーす」
「うわー男の欲って儚いですねー」
「そう思うならこの際嫌いでも良いですから興味ぐらい持ってくれると助かります。精神的な疲労をこれ以上増やしたくないので」
現状から推測するに、俺の欲情を満たす部が個々の自由を尊重する変な部活になってしまう気がする。可愛い美幼女や美人の生徒会長がいる部活なのにどうしてだろう?
「とりあえず放課後に生徒会室に来てくれ、そこで説明するよ」
「分かりました。あまり期待しないで待ってます」
それからまもなくして予鈴が鳴り、俺たちはそれぞれの教室に戻ったのだった。
そして約束の放課後。合法ロリは時間通りに生徒会室の前にやって来た。言うまでもないが安藤先輩にはまえもって伝えてある。
俺はドアをノックした。
「安藤先輩。入って良いですか?」
俺が一応確認したら、生徒会室の中から「どうぞ」という声が聞こえてきた。
「失礼します」
俺たちがドアを開けた瞬間、安藤先輩が走ってきた。
「まさか本当に来てくれるとは思わなかったよ!」
ぞっとするほどの喜色満面の笑みを湛えて合法ロリを連れて行く。部活といっても他の女子生徒が一人もいなかったのだ。これは俺の私案にすぎないが、同姓同士でする様な会話はもちろんの事、活動をするにあたっても人数が少ないから出来ないことがたくさんある。そう考えると不安でしょうがなかったのだと思う。合法ロリは露骨に嫌そうな顔をしているけど。
「安藤さん。それくらいで止めておいた方がいいですよ。天敵を目の前にした小動物並に怯えていますから」
「あっ。ご、ごめんね」
「き、気にしてないので、だ、大丈夫です」
目に涙を浮かべているせいか、言葉が途切れ途切れなってるよ。なんか萌えるよねこういうシチュエーション。
「それでどんな活動をしているのか早速説明してもらっても良いですか?」
「うーん。そのことなんだけど、説明できそうにないな」
「どうしてですか? もしかして疑わしいことでもしているとか」
「まだしたことはない」
「まだですか」
「まだだ」
俺が断言すると同時に合法ロリはため息を吐いた。当たり前じゃないか。疑わしい部活じゃなかったら論理的に考えてハーレム部なんて名前にしないだろ。
「それはともかく、活動どころか部活動の方針も決まってないんだよ。なんせ、昨日できたばかりの部活だからな」
「それを先に言ってくださいよ」
「わざと言わなかったんだよ。だから今日はハーレム部の活動方針について話し合おうかと思う」
と言ったところで、安藤がようやく口を開いた。
「ねぇ芳君。この子とはどういう関係なの? 見た感じとても仲良さそうに見えるけど」
「そうか? むしろ逆だと思うけどな。まだ名前も知らないわけだし」
「そ、そうなんだ」
焦燥感を感じさせる表情から安堵したような表情になったのは何故だろう。大体理由は分かるけど。
「でもあまりイチャイチャしないでね。芳君は私のものにするんだから」
「あっ」
「え?」
今のは爆弾発言だぞ。ほら見ろ、合法ロリの会長への憧れが打ち砕かれて目が虚ろになってるから。
「かおる…くん…は……わたしの…ものに………する?」
「お、落ち着け。お前の聞き間違いだって。そ、そうだよね、安藤さん?」
「いや、聞き間違いじゃないよ。私が望む本心を伝えただけだよ。芳君は私の恋人にする!」
この生徒会長さんはなにを宣言してくれちゃってるの。状態をより悪化させてどうするの。奴隷にでもする気なの? 結構おもしろそうだけど。
「取り敢えず活動方針を決めようかと思います」
興奮しきった安藤。未だに目が虚ろな合法ロリ。この議論が波乱の幕開けになることは疑う余地もないのだった。