ハーレム部の結末 1
生徒会長から告白されてから一週間後。俺は安藤先輩を連れて学校の屋上に来ている。もちろん、目的は告白に対する返事だ。
こんな事今まで一度も経験したことが無い俺は、極度の緊張感と不安に駆られているのと同時に、対照的な期待や希望などの感情も少なからずある。安藤もきっと似たような心境なんだろうな。さっきから無言で俯いたままだ。
そんな気まずい空気が漂う中。静寂を切り開いたのはもちろん俺だ。
「こ、この前の告白の返事。しても良いですか?」
「お、お聞かせ願います」
それから俺は一拍おいて話し始めた。
「結論から言わせてもらうと、はいともいいえとも言えません。理由は明白だと思いますが、安藤先輩の事を生徒会長としてしか見てこなかったからです」
今までは厳しい生徒会長としてしか見てこなかった俺が、いきなり彼女として関わりを持つ。結果的に安藤の好みも知らない俺との関係は長くは続かず終わるだろう。
「そ、そうだね。でもそれならどうしていいえではないのかな?」「知らないなら知ればいいだけですよ。お互いが理解し合うことによって、友達が出来るのと同じです。だから先輩。友達から始めてみませんか?」
「は、はい! よろしくおねがいしましゅ! あっ」
うわっ、あの高貴な生徒会長が噛んだ。しかも頬まで染まっているよ。何これ超可愛い。
「芳君! なんでニヤニヤしてるか言えー!」
思わず変態の俺も、純情になってしまったのでは? と勘違いするほど怒った顔も可愛い。
「それと、友達だけとなると学年が違うということもあり、あまり進展が期待できないと思って、具体的に計画を立ててきました」
「本当か! それでどういう計画なのだ?」
「名付けて『ハーレム育成計画〜淫らな夏を満喫』です」
「興味深い名前だね。察するに相当大それた事だってのは、理解したよ。それで内容は具体的に何するの?」
「ハーレム部っていう部活を作っちゃうんですよ!」
「はーれむ部? そんなの本当に作れるのか?」
そう、これが今回の最大の難点だった。部員が規定の人数以上揃っていなく、活動場所もあるかどうか分からず、顧問の先生だって当てがない。どう見ても絶望的な状況に加え、ハーレムを作るための部なんて学校の為にならないのは当然だ。だから本来なら認められるはずがないのだが………
「それに関しては問題無いと思いますよ。既に許可を取ってきましたから」
教師陣にも変態として十分定評があったおかげか、このまま断っては何をしでかすか分からないということで、特別に許可してもらったのだ。変態が校則までねじ曲げたとなると異例すぎて、流石の俺でも一時は罪悪感に浸っていたのだが、やはり最終的に自分の欲求には敵わなかった。
「でも良く許可を出してもらえたね。うちの学校はそういう規則に結構厳しいところだと思っていたのだけれど?」
「それは………聞かない方が良いと思います」
うわーそれ聞いちゃう。芳は思わず苦笑いをしてしまった。
「それで、俺が作るハーレム部に入ってくれないかな?」
出来ることはしたつもりだ。俺が出した結論は結局のところ、自分に一番利益があるように考えたものだ。それを相手に受け入れてもらうのは、たとえ俺に恋愛感情を持っていたとしても虫が良すぎるというものだろう。だからこれは俺の挑戦であり、安藤の告白がどれほど本気なのかという確認の意味が込めてある。
安藤は既にバレー部のエースとして活躍している身である。生徒会長としての立場を重んじるのならば、この勧誘は断るべきだ。エースという立場でもありながら易々とほかの部に入るような真似をすれば、生徒の支持も憧れも尊敬もほとんど失うと思う。さて、安藤先輩はどちらを選ぶのかな? 変態か、それとも名誉か。
「いいよ」
「いいんだ!」
こうもあっさりと即決されるとなると俺の苦悩が馬鹿みたいに思えてくるのだが、最近いろんな事がありすぎて、もうよく分からなくなってきた。でも、理由もなしに決めたわけではないだろう。そんな愚行、生徒会長の安藤がするはずがない。ならどうして? それもまた明白だった。
「私は確かに生徒会長です。生徒全員の意思を総括する立場にあります。ですが、私もこの学校の生徒の一員です。周りの意思だけじゃなく自分の意思を伝える立場にもあります」
俺は勘違いをしていた。確かに生徒会長という立場は規律に厳しく、羨望の的になる。でも、そんなのは立場上でしかなく、人間としての価値が変わるわけではない。友達だって恋人だって作ることができる。同様に生徒の意思が尊重されるべきものだとしたら、自分の意思だってそれに等しく値するだろう。
「だから生徒として私は、周りの羨望より私情を優先しただけのことです」
そこまで安藤が自分のことを優先してくれていたとは思わなかった芳はただ一言、精一杯の感謝を込めて言った。
「ありがとうございます」
思えばこれが物語の始まりだったのかもしれない。
翌日、俺は早速家で作成してきた広報紙を提示板に貼ったり、呼びかけたりしてハーレム部の広報活動を始めた。もちろん学校側には許可をいただいている。
「新しくハーレム部を設立しました。ぜひ仮入部でも良いので来てみてください。なお、男子は一切歓迎しないので来ないことをオススメしまーす」
こんな風に朝から活動しているのだが、生徒から返ってくる言葉は決まって悪声ばかりだ。
「学校でハーレム作るとか気持ちわるっ」
「てか、女子を弄ぶとかどんな悪趣味してるんだよ。男子が禁制じみているところも、私欲が見え見えじゃないか」
「さすが校内随一の変態。マジ半端ねぇ」
少し耳を澄ましただけでもざっとこんなものだ。それだけでも苦痛なのに、嫌悪感が込められた視線までぶつけられると、この俺でもメンタルが傷つくというものだ。
大体まともに将来のことを考えていない俺の唯一の願望だ。それを悪趣味だとか言うのは理屈や道理関係なしにひどすぎるだろう。 ともかく、こんな調子だと一人も来てくれなそうだな。芳が諦めて、教室に戻ろうとしたその時。