唐突な終焉そして告白
「去年もだったが、こんな炎天下の中ずっと立たされたら干からびちまう」
「まったくだ。もう少しで天国へ旅立つところだったぞ」
「先生には、ちゃんと生徒の立場も考えてもらいたいものだね」
体育祭が始まる前の閉会式がとにかく地獄だった。こんな猛暑の中だから熱中症で倒れた人が十人ぐらいいて、俺ももう少しで仲間入りするところだった。倒れる人が続出するくらいなら閉会式じゃなくて、別の方法を用いて伝えたいことを話せばいいのでは? と思う人も少なからずいるだろう。
なにはともあれ体育祭が本格的に始まるのだ。
「倒れた人たちの分まで頑張るぞ!」
最初は俺たち二年生男子の徒競走だ。
「面倒くさいし、無駄な浪費もしたくないし、ゆっくり走るとするか」
「あれ? さっき倒れた人の分まで頑張るって言ってたような気がしたんだけど気のせい?」
「いや、気のせいじゃないぞ。俺たちの本当の目的を果たすために頑張るって意味以外にないだろ」
「そういうことか。道理で変態の芳が張り切ってると思ったよ」
「まさか種目のことかと思ったのか? 俺が競技を頑張るなんてあり得ないだろ」
「確かにそうだな」
自分で言ってて悲しくなってくるが、変態が張り切ることなんてせいぜいそのくらいだろう。
「芳、もうすぐ順番だぞ」
「おう」
俺の列は前から四番目で、一緒に走る人はみんな結構足が速い人ばかりだ。まぁ俺には関係の無いことだが。
「もう俺の列か」
「走るのは面倒くさいだろうが頑張って来いよ」
「あぁ」
「それでは、いちについて、よーい」
「パン!」という音とともに走り出したのだが、誰も本気で走ってなどいなかった。一番足の遅い俺が一番にゴールするという不自然極まりない結果だった。皆やる気なさ過ぎだろう。それにしてもなんで睨まれるんだ。一位というのはこんなにも嫌な思いをするものなのか? いや、俺に対してだけだろうな。
その後、隼は余裕で一位になり、俺にドヤ顔してきやがった。そして次々と皆ゴールしていき、徒競走が終わりを迎えた。
次は二年生女子の徒競走だ。
「さて同志よ、準備はできてるか?」
「なにを今更、完璧な状態だよ」
さて、ここからがおっぱい祭の始まりだ。
「最初の列が位置についたぞ」
「一番でかい奴は三組の斎藤瑛梨だな。十七歳にしてバスト92、ウエスト62、ヒップ84という大人にも勝らずとも劣らない体型の持ち主だな」
「さすがというべき能力だね。変態なら皆がほしがるスリーサイズを知る能力」
異能バトルもののラノベ主人公よりも現実味があり、変態の極地とも言えるであろう能力を俺はもっているのだ。継続は力なりって言うし、このまま能力極めてたら透視能力とかいう究極スキルだって、ゲットできるんじゃないか?
まぁいい、これこそがおっぱい祭と名付けた理由だ。思春期の中高生ならば、俺たちの考えが分かる人たちも少なからずいると思うのだが、おっぱいを見て興奮するのではなく、誰がでかいか、誰がまな板なのかを知ることで、なぜかは知らないが自己満足してしまうのだ。変態は。
「そして胸が揺れている光景をこの大衆の中だから気づかれずに堪能することができる。最高だな、おっぱい祭」
「当たり前だ。気づかれないから女子に睨まれることもないしな」
「あぁ、その通りだ。走っている女子を見て何をしていたのか、聞かせていただこうじゃないか」
「い、いい委員長! どうしてこんなところに!」
「貴方たちが不気味なオーラを醸し出して、女子のことを凝視していたからだが、なにか、私が来るとまずいことでも?」
「いやぁ、そんなことはないですよ。ただ、男同士だからできる会話をしていたものですから。委員長は興味ないかと思いましてですね」
「いや、お前たちが話していたことには、私も興味があるぞ」
「本当ですか!」
うそだろ! あの卑猥な発言や行為、風紀を乱す者をことごとく罰してきた委員長がまさか俺たちと同じ変態だったとは。
「あぁ、特にスリーサイズを見事に当てたところはさしもの私も自分の目を疑ったぞ。まさかこんな淫乱獣がこの学校に住み着いていたとはな」
やはりそちらに興味をお持ちでありますか。バッドエンドの文字が必然的に脳裏に思い浮かんだ。
「さて、貴様らにはどんな処罰を下そうか。いつもの様に注意するだけじゃ直らないようだし」
「まさか暴力とか振るわないですよね?」
「そうか、暴力を委員長の特権で正当防衛ということにすればいいのか。女の敵を屠ったってことにすれば、私の功績にもにもなるだろう」
「ですが委員長。いくら正当防衛といえど暴力。委員長といえど所詮は生徒。いくら立場があっても、証拠なしに許されるはずがないと思うのだが」
「そこはレディファーストで押し通す」
この人、他人事みたいに注意してくるけど、確実に俺らよりドス黒い感情秘めてるよな。将来世界征服とか企んでるでしょ。絶対。
そう思いを巡らせていたとき、なんの前ぶれもなく俺の顔面にストレートが打ち込まれた。
「これで少しは懲りたか?」
不意打ちをくらって倒れた俺を見下し、問いかけてくる。だが、
俺は変態だ。純情などあいにく持ち合わせていない。だから。
「委員長も結構大胆ですね。黒のレース生地、凄く似合ってます」
こんなこともできるのだ。委員長はぼんっと音が聞こえるのではないかと思うほど一瞬で赤面に至った。変態って最高だなぁと感動していたところでおもいっきり顔面を蹴ってきた。
「殺してやる! この淫乱獣!」
こうして芳のおっぱい祭はたった一人の女子生徒により幕を閉じたのだった。
目が覚めたのは保健室のベッドの上だった。
「やっと起きたか」
「隼か。俺はどれぐらい寝ていた?」
「それは自分で外を見ると良いよ」
そう言われて芳は外を見た。外はすでに夕日が沈みかけていて、生徒たちは皆帰ったようだった。しかも、体育祭にほとんど参加していなかったから、終わった後に残る独特の余韻に浸ることすら叶わなかった。
「しょうがないよ。倫理的にみてもやって良いことではないと解釈するのが一般的な見解だと思うし」
「確かにそうかもしれない。だが、それでも懲りずに立ち上がるのが俺たち変態だ」
このことだけは忘れてはいけない。たとえそれが人間性や道徳的に欠けているとしてもだ。もちろん犯罪だけは例外だけどね。
「そうだったね。来年こそは最高のおっぱい祭にしよう」
「その意気だ。我が同志よ」
こうして二人は互いに決意を表明しあったのだった。この内容が純粋なものだったらかっこよく見えるのだろうが、俺たちには酷すぎる願望だろう。
「そうだ。先生に目が覚めたこと伝えてくるよ」
隼は「待ってて」と言い残し、保健室を去っていった。
隼が出て行った直後に扉が開いた。そこにいたのは、この学校の人なら誰もが知っていて、俺とは全く面識のない人物だった。
「せ、生徒会長! どうしてこんな時間まで学校に?」
生徒会長の安藤妃加里。この学校の男子全員が美少女と認めている存在だ。良識を持ちまえていて、そのおかげか校友関係が深くとても慕われている人だ。
「生徒会の仕事が長引いたのよ」
「でも保健室に来る必要は無いかと」
「保健室に用はない。君に用があるんだ」
「ぼ、僕に用ですか!」
「あぁ」
ま、まさか体育祭でのことがばれたとかじゃないだろうな。そんな俺の怪訝な顔に気づいたのか。安藤が微笑みかけてきた。
「そんなに張りつめた顔しなくても良い。個人的なことだから」
個人的? まさか女子の代表としてわざわざ生徒会長が罰則を言い渡しにきたのか。そんな芳の想像は次の安藤の言葉によって、真っ白になった。
「前から芳君のことが気になっていたの、それでもし良かったら、私と付き合ってくれませんか?」
「えっ?」
こうして俺は生徒会長。安藤妃加里に告白されたのだった。