にチラ
「まさか泣くとは思わなかった」
「…………」
「鷹野がそんなに怖かったか? トモ?」
「……あのね、いーくん、怖いんじゃないの。驚いたの。……色んな意味で」
……そう、私は助けてもらった鷹野くんのアップに驚いて泣いてしまったのだ……。
強面系の鋭い眼光だけど、す、す、好きな人のなのに、泣くとか……
あーりーえーなーい―――――!!!
「鷹野の奴、地味に気にしてたぞ」
「う"……!」
「小学生を泣かせたって」
「しょ、小学生、違うから! ちゃんと同じ高校の制服着てたでしょ!?」
そう言って、行き着けパン屋の数量限定の"トロトロぷりんのシュークリーム"の中身である、トロトロぷりんを"ちゅう"と吸い飲む。
それにしても、いーくんのバカ! イジワル!! 一言多い!!!
「……トモはシュークリーム"飲む"の上手いな」
「年季が違うんですー。こうした方が、この手のはクリームとか零さなくて済むんだもん。シュークリームは半分飲み物です!」
中身をある程度、"ちゅぅちゅぅ"吸ってから、パクリと食べ始めると、中身のプリンが出てこない……つまり、零れない。
まぁ、それはおいておいて……鷹野くんに何かお礼がしたいなぁ……。
「トモ……シュークリーム、好きか?」
「ン? 好きだよー?」
いーくんの言葉に軽く返しながら、今度は駅中の早朝から営業しているケーキ屋さんのチョコシューに齧り付く。
濃厚チョコがちょっとビターな感じで美味しい~。
実はこのシュー、泣き出した私に鷹野くんがくれたの……。
泣き出した私の手を引いて、
「…好きなのを選べ」
と言うから、咄嗟にこのシューを選んだんだけど、正解だった。
実はこのシュー……気になっていたんだよね。
「甘い食いもんでも食べて落ち着け」
そして私にこれを手渡して、鷹野くんは直ぐに私に背を向けて行ってしまった……。
私はシューの入った箱入りの小袋を手渡されて、鷹野くんが少し離れてから慌ててお礼の言葉を言ったけど……聞こえて無さそう……。
いーくんは私に「トモ、気をつけなよー」と言いながら鷹野くんの後を追い、彼に何か話し掛けていて、それに鷹野くんが答えているのが雑踏の中に見え隠れしていた。いーくんが羨ましい……。
まぁ……私は買って貰ったシューを持って、暫らく……動けなかった。
本当に買って貰った甘いシューを直ぐに食べても、私の心臓は落ち着きそうに無かった……。
そのぐらい、ドキドキしていた。
……理由として、だから、だけではないけど、現在そのシューを有り難く食べている。
そして本来自分が昼用に買っていたパンを少し、いーくんに食べてもらっているのだ。
シューが増えた事で、私のお腹にはちょっと多いのだよ……。
いーくんは軽く「良いよ」と答えてくれて、現在、私と屋上でお昼を共にしてくれている。
私といーくんは普段から結構交流して一緒に行動している幼馴染だと周囲の友達も分かっているから、ここに居るのはいーくんと私だけの、お昼空間なのだ。
ああー、それにしてもこれ、美味しい。美味しいよー。
そして屋上のポカポカ陽気の中、鷹野くんから貰ったシューを夢中でモグモグしていた私は、いーくんが何かボソリと言葉を零したのに気が付かなかった。
「……そうか。俺の長年のトモ情報は間違ってなかったな。……俺も鷹野に何か奢って貰おうかな~……」