余禄、或いは、一匙の救いを。
※この物語は、実在の人物・事件・事柄とは関係ありません。
色々混ぜた現代物です。
「は?見届ける為と武器の横流しの為じゃねぇのか?」
「私は、そうね。
後、情報拡散は裏と闇だけよ、表に流すとこっちの命まで危ないものね。
・・・そろそろ良いわよ。」
過激派のアジトの見える丘。
若い女とそれよりも少々、年嵩の男が会話をしていたようだ。
捕捉されない様に、伏せた上での会話。
色っぽい雰囲気など微塵もない。
変わりに漂うのは、硝煙のような剣呑な雰囲気だけだ。
若い女は、地域に合わせてか、長いダーバンのようなものを身につけていた。
特徴的な髪を晒さないようにしているかのように。 『情報の拡散よろしく頼むぜ』と最後の確認をしたら、若い女・《風舞姫》と呼ばれた彼女が断ったのだ。
そして、曖昧な微笑とともに、青年・・・ロニー以外の誰かに声をかけた。
潜んでいたのだろう、黒地に銀の装飾のアニメめいたPMCの軍服を着崩したのが半分。
残りは、マルチカム・・・砂漠迷彩のエレファントな紳士共だった。
そして、一人だけ更に異質な老爺に差し掛かった男も加えた荒野にあっては異質すぎる面々。
ちなみに、老爺を一言で表現するなら、担いでいるトンプソン機関銃も相まって、『マフィア』で済むだろう。
頭頂部が禿げ上がった白髪交じりの金髪が多少残る頭には、どぎつい火傷や引きつれ傷があり、柄シャツとストライプのスーツから覗くのも同じような傷だ。
米神には、銃痕すらある子どもが見たら、確実にちびりそうなおじいちゃんだ。
一応、まだ幼い孫娘がいるが、泣かれるのが通常運行なのだ。
「・・・おまえら。」
そして、ロニーには全員に見覚えがあった。
あの基地で生き残り、次の任地へ行ったはずの面々、そして、社長、もとい、彼が言うところの「おやっさん」であった。
PMC連中はともかく、正規軍連中とは、巡り会わせがあれば何処かの線上で再会したかもしれないが、それも、確率の低い賭けであっただろう。
なのに、一部とは言え、此処にいた。
「・・・大好きなミーネ姉様。
或いは、大切な妹の生き写しだったその妹の孫娘。
エンデファング家は、身内を何よりも大切にする。
そして、お祖父様も君個人のことを気に入っていた。
お祖父様の依頼と合わせた形になるけれど
・・・それが、答えじゃダメかな、依頼人殿。」
言葉を失った彼に、《風舞姫》はいっそ、凄艶な笑みでそう言った。
こちらのエゴを通しただけ、とでも言うように。
「おう、大事な出世頭を殺されたんでな。
そもそも、ウチとしても報復する気だったんだよ、お前は聞かずに飛び出したがな。」
「・・・おやっさん、それなら、うちのPMC連中はともかく、正規軍の連中は?」
「キム少尉だったか、説明してやれ。」
「はっ、イエスボス。
私達は、マムのことを尊敬申し上げておりました。
そのマムを殺した可能性のある(ピー/自主規制/ピー )野郎共の指揮下に居たくないであります。
此処にいる連中は、依願退職をしました。
それで、ボス・ヴァルフレードに拾ってもらったのです。」
凄みのあると言うか、チビりそうになるレベルの微笑みもどきで鷹揚にヴァルフレードは言う。
PMC連中には、通常運行ではあるが。 そして、正規軍・・・元・正規軍と言うべきだろう・・・の言葉を聞いて、ロニーは顎を外したかと思うほどに開いた口がふさがらないようだ。
下士官以上もいる上に、少佐もいたりする。
出身国軍では、士官である以上はエリートだと言ってもいいだろう。
なのに、マム・・・ヘルミーネ=ラヴェンデル少佐の為に、此処にいるのだ。
合わせて百人近いこの連中は。
独身と言えど、安定した刺激的な正規軍からこちらへと。
うっかり、泣きそうになったロニー。
「さて、ハミルトン大尉。
行ってきなさいな、NATOのクソ親父共は、明日の夜まで、私とお祖父様が責任持って足止めしとくから。」
此処から先は語ることは少ない。
テロリストのデカい基地とNATO軍の基地が一つ。
それぞれ、姿を消した こと。
特に、NATOのお偉方はほとんど、全滅し、生き残ったのも精神に異常をきたしていたと言う。
そして、しばらく後、最強クラスの傭兵チームが出来たこと。
ヘルミーネ=ラヴェンデルこと、ヴィルヘルミネ=バウムモルゲンの墓にはいつも、花が絶えなかったと言う。
その墓碑には、こう記されていた。
『我らの愛した戦場 此処に眠る。
その魂が安らかであることを我ら一同心から願う。
我らの主人は彼女らの他に無し』
シンプルにして、彼ららしい言葉だろう。
「これは、ミーネ姉様と私のわがまま。
姉様は、自分よりも貴方を優先した。
・・・だから、生きて帰りなさいな、ロニー=ハミルトン。」
割と最近の米軍の場合、戦争/紛争のたびに退職者多いと聞くからこの話しに入れてみた。