幸福な絶望を抱きしめて 逝きましょう(本編)
※この作品は、実在の団体・事件・人物等とは、関係はありません。
色々と混ぜた現代物です。
その人を見たとき、俺は綺麗だと思ったんだ。
モノにしたいとかじゃなくて、ただ、守りたかったんだ。
あの人と居たいと願った戦場を。
いや、あの戦場で果てたかったんだ、きっと。
ヘルミーネ=ラヴェンデル“少佐”特別大佐。
白っぽい金髪に紫色に近い瞳が印象的なあの人の名前であり、仇名と階級。
ウチの軍服を大体着てる。
一応、勤務時は別だけど、それ以外はこっちが私服扱いになる感じかな。
黒地に銀の縁取りに飾りボタン。
切り替えしが腰で丈がふくらはぎ半ば。 ついでにいうなら、ロングブーツが男女共用なのは良いとして、女性のは黒い膝丈タイトスカートなのは誰の趣味だ。
しかも、ガーターが標準装備。
他のベルトなんかの小物は銀か赤なモンだから、コスプレというかジャパニメーション風と言えば通じやすいのかもしれない。
哨戒任務に就く時は、マルチカムっていうベージュベ-スに近い砂漠迷彩の作業服使ってるけどね、そっちは米軍でも制式されてるぐらいのもんよ。
少佐に似合ってるけど、PMC側の経理のオバちゃん・ミズ・クラリスも同じ軍服だから、毎月給料日は死屍累々になってんだよな。
少佐の名前は偽名だな、PMCで本名を名乗るほうが少ないし?
俺は、ロニー=ハミルトンって名乗ってるアメリカ系・・・を称してる。
一応、アメリカ国籍は持ってるからな。
1/4は、日本人だけどね、知ってるのアンタか、死んだ母さんぐらいだけど。
あの人の副官役が俺ってことになる。
おやっさんも分かってるから、一緒の任務が多かったしね。
一応は、傭兵である以上は体術や射撃も一般水準以上に出来るけど、兵器のプログラムを弄るなり、クラッキングなりのほうがメインだけど。
・・・ああ、ハッキングじゃないかって?
それ、俺の前で言わないでね、一緒にしないで欲しい。
クラッキングは犯罪なんだし?ハッキングはバレないことも含めてのそれなんだしね。
PMC【ワールド&ピース】って言うちょっと特殊なだけど、PMCとしては大手な方じゃないのかね、多分。
ああと、PMCってのは簡単に言えば、傭兵専門の派遣会社ってところかね。
うち以外を経験してから来る連中が多いってんで特殊かね。
かつ、一般的な生活の送れない人でなしの落伍者の集まりって言えば分かりやすいかな、うん。
俺も色々あって、両親が死んで伯父にパソコン仕込まれて、人を殺して刑務所行く代わりに軍に行って其処でも色々あった。
んで、退役したわけだ、二十歳そこそこで。
いやぁ、一応ね、捨駒の指揮できるの手放したがらなかったけどね、軍も。
PMCのおやっさん・・・社長のヴァルフレード・イレ・フェニーチェ、つまりは、“不死身のヴァル”って呼ばれる六十過ぎの爺様に拾ってもらって此処にいるわけだ。
今、三十歳そこそこだけど、割と古株の範疇に入るし、一応、“大尉”と“中尉”を行ったりきたりを維持してる。
それでも、古株ってなるわけだ。
なんせ、ポンポン死ぬからね。
うちのPMCが特殊って言ったのは、そこも一つ。
一応、アメリカ陸軍ベ-スだけど、始めは二等兵から始まって、仕事を受けてその報酬の何割かを納めて、その回数と成績から昇進するわけ。
初めは九割納めてたのが、大尉の俺で三割弱ぐらいかな。
契約期間とかにもよるけど、「紛争地域」「週二回以上の戦闘」に「3ヶ月」で、五千ドルから一万ドルぐらいが相場。
円にしてだいたい六十万から百二十万がぐらいかね。
衣食住つき装備費つきでだから、二等兵でも1000ドルはほぼ確実に手にはいるわけだ。
犯罪歴があったり、身につけてる技能で、上下するにしろ。
少ない?
あのなぁ、俺が育ったゲットーだと多少贅沢しても2ヶ月3ヶ月は暮らせる金額だからな。
後、傭兵って言ったら、取り分が十分の一でも高給な部類だぞ?
そうだな、日本人基準で言うなら、最初から手取り月給二十五万とかそういうのだな。
あくまでも、俺の感覚からしたら、だが。
そうそう、二等兵は九割納めてたのが、大尉の俺で三割弱ぐらいかな。
さっきの例なら、八十万少々が報酬になる。
実際は、実績なんかで足されて、百四十万ぐらいは俺の取り分になるからまた計算が面倒なんだ。
そうそう、元もとのお金もお高いの。
んで、指名のない依頼の場合、おやっさんが内部階級で目安の階級を公示して誰でも受けれる。
それこそ、自分の階級以上の依頼でも、だから、ポンポン死ぬんだ。
ウチの階級ってのはそういう意味もあるわけだ、一応の目安な。
んで、一定金額以上納めれば、俺は次は少佐ってことになるし、全然納めなきゃ中尉って事になる。
けど、昇格したら、少佐の下から離れることになってるし、それはイヤだから、おやっさんには見逃してもらってる状況なんだよね。
適当に納めて、『今』を維持してんの。
アン時は、中東のどっか、ISだのアルカイダだのごろごろしてる地域の国連軍基地・・・と連中の支配地域の間の小さい基地が勤務地だった。
そんなに、飛行機なんかないし、うちの基地みたいに谷をふさぐ形で基地を作って通せんぼしてた形になるのかね。
一応、一年だったのが二年に延長されてそれ以上の延長なしでの契約終了なんだが、きな臭ぇ状況だったワケ。
そもそも、期間の延長が決まったのも、前任者の正規軍の大佐が襲撃ででしゃばって死んだからなんだねぇ。
正規軍ってのは、国連の加盟国らの混合軍。
詳しくはググってくれ。
さっきの例に倣うなら、、「紛争地域」「不定期に戦闘」「哨戒」で「一年」だったし。
基本的にっても、あんまり延長しないのよ、うちのPMC。
長期任務だからか、それなりにお金は納めなくても、態度保持か昇進があるし、少佐も請けたから一もにもなかったよ。
だけど、延長て時点で二階級降格でも逃げたほうがよかったのかもね、今からすれば。
他に後方支援組含めての1000人弱が少佐の下にいる傭兵組。
倍ぐらいは、国連正規組はいるわけだ。
あん?
少佐は強いよ、少なくとも、射撃と武器なしの無手だと俺勝てねぇもん。
最低でも、ナイフは欲しいね。
俺の本領は、兵器のプログラム更新とか情報収集・・・リアル斥候とヴァーチャルクラッキングと両方ね。
そっち特化タイプだからしょうがないけどね。
少佐の場合、射撃というより狙撃だけども。
担当時間の数時間、伏射でミリ単位ですらほとんど動かない。
ウィンチェスターのスナイパーライフルの整備は自分でもするけど、細かい改造は俺もやってる。
結構、狙撃に関してはなんていうのかね、当たり前だけど凝る部分あるんだよね。
とっと、話が盛大にずれた。
一応、経験という意味を取れば、経理のミズ・クラリスですら向こうの連中に勝つことは難しくないぐらいに、経験は豊富だ。
息子も独立したからって、レジのパート並に軽い理由でPMC勤めてる元・イスラエル人だな。
と言うか、普通にフライパンスマッシュは怖い。
それでも、多少考えなしでも正規の頭がいる間はよかったんだけども。
詳しく聞いたことはないけど、多分、たたき上げ系統で机上の指揮しかした事ないお偉方には煙たがられるタイプだったしね、死んだ指揮官。
正規軍っても、前線に配置されるのが、クソマトモでエレガントな紳士だと思う?
思わねぇだろ、正解。
下手な話、米軍にいた頃の捨駒連中より少しだけ上品なだけのエレファントな連中なわけだ。
だなもんで、次の司令官殿なんかはもうこっちに来たくないってはっきり言うわけで。
そしたら、その下の中佐や少佐なんかが正規組の指揮を執るもなんだけども。
相当する中佐殿・・・何と言うか、あの第二次世界大戦の時のちょび髭日本大好きドイツ親父辺りが見たら、よだれたらして、SSに欲しがりそうな感じって言えば何割か通じる?
柔らかそうな金髪に空みたいな瞳に、均整の取れた肢体。
これで女だったら、早速口説いてるレベルにカッコイイ、毛並みのいい奴なんだよね。
ちょっと、調べたら、アメリカ系でメイフラワー号まで遡れるレベルの名家のボンらしいんだわ。
だけど、ちょっと問題起こしてこっちに流されたとかって感じらしいね。
エルドレッド=レイブンズクロフトだったか。
そうそう、アンタのご親戚のあのボン。
アンタの親戚って言うには遠いけど。
少佐の方が近いぐらいの遠縁だな。
何と言うか、物腰柔らかな王子様って感じなのに軍隊語(物理)堪能って感じで。
それなりってレベルだけど、少なくとも平時なら上司向きと言える感じなんだよな。
少なくとも、俺でも許容できるもん。
んで、少佐の階級、最期、特別大佐になってただろ?
うん、基本的に内部階級とは別にその任務任務で任地で階級もらえるけども、誰の指揮下ってのがデフォルトなわけで。
どういう交渉したのか、あのボン。
少佐が、この基地限定だっても、正規軍も指揮下に置けるようにしちゃったんだよな。
身の程を知ってると言うか、少なくとも、自分の力量不足をちゃんと認識してたからな。
・・・嫉妬してたな、うん。
必然、あの二人が一緒にいるの増えたからさ。
正規軍分の書類仕事も、アイツが手伝っても少佐がメインでやってたし。
半年が過ぎる頃の二人の空気が違ってることに気づかないほど子どもじゃねぇしな、俺も。
甘いってわけじゃねぇのよ、それも皆無じゃなかったけど、少佐のこと可愛いって思ったんだよな、初めて。
なんつかな、少佐って可愛いってよりも、綺麗って感じだしそれよりも、格好良いと思うタイプの迫力美女なわけ。
ナイスバディのボッキュッボンだし、普通にコルト・パイソン振り回すし。
うん、昔いた『教官』殿からもらったらしいぜ、それ。
男でも慣れないと、肩外すってのは伊達じゃないじゃじゃ馬銃。
軍服のせいか、守ってあげたいってよりも、一緒に並び立ちたいと言うか、そういう人。
だから、なんだろうな。
好きだの、尊敬しているだの言っていても、そういう意味を想定していなかったんだから。
特別大佐になって半年近く経った頃かね、少佐とエルドレットが、執務室でキスしてたのみちまったの。
いやね、そういうアハンなことした事ないわけじゃないし、少佐と。
だけど、妙に綺麗と言うか可愛いと言うか。
・・・そう、「女性」を初めて少佐に見たんだよね。
それまでも、セフレな関係はあったよ、だけど、なんて言うのかね、普通の意味での「女性」な少佐をみたわけだ。
うん、それこそ、「結婚して子どもを育ててその子が独り立ちして孫が出来て、それでその子達に看取られて死ぬ」ような『普通』。
なんて言うかねぇ、負けた、うん、エルドレットに負けたと思ったんだ。
俺じゃ、キスしても、「夜、ヤろうぜ」にしかならないから。
・・・・・・うん、少佐には、その時でもう、『家族とコーヒーを飲む』程度の幸せを得て欲しかったんだよ。
もう、叶うことないけれど、そんな願い。
それからしばらくして、後数ヶ月ってとこ、契約の一旦終わりが近い頃の日だったな。
クリスマスが近くて、ちょっと浮かれてた。
ケーキは流石に無いけど、PMCの経理・ミズ.クラリスと正規軍側の経理・ミスター.ルドンが、ちょいと節約して、いいシャンパンとチキンを食事につけてくれたりしたわけだ。
油断・・・油断だよねぇ、うんしてた。
ほぼ壊滅。
正確に言うなら、人員は一割二割減だから、まだ良いんだが。
基地がダメだな、使えん。
しっちゃかめっちゃかになってたからな。
武器庫も壊されて誘爆して跡形もねぇのよ。
・・・言っちゃ悪いが、少佐の悪名は向こうにも知られてる。
何度かあった直接の白兵戦。
イマドキ、珍しいけどな、銃剣とナイフで、シャムシールみたいのと殺りあう訳だ
練度と士気だけなら、イケイケな向こうだったのに、少佐が出てきただけでケツまくって逃げるようなレベルだった。
それなのに、基地責任者執務室を重点的に、攻撃破壊してた。
手前の迎撃に出た俺たちにランチャーの類をあてるよりも、その後の基地の更に奥を狙ってた。
威力を多少犠牲にしても、距離を稼ぐようなピーキーカスタムをしたランチャーだぜ?
かつ、時限性の爆弾の跡があった。
・・・おかしいよなぁ、基地で一番、正規軍側にあって警備も厳しいのに、さ。
だから、全滅した後、アンタに依頼したわけだ。
情報収集と武器集め。
結果は、真っ黒黒過ぎて、笑いすらこみ上げてきやがる。
・・・ああ、あの二人。
少佐とエルドレット。
寄り添って、死んでた。
腹とか、腕とかは傷だらけだったけど、不思議と顔だけは無傷だった。
顔だけ見たら、ホントに眠ってるみたいだって思える位の、ね。
ぼやぼやしてたら、二人は引き離されるからね、そこは生き残った正規とPMC連中も分かってたから、ミズ・クラリス達裏方が中心になって、とっとと二人を搬送したわけ。
正規軍連中も、慕ってたから、少佐のこと。
結婚してる連中は、流石に無理だったけど、独身連中の何人かは少佐の任期が終わるのに合わせて正規軍を辞める気だったぐらいにはな。
どこに搬送したかって?
うん、少佐が生前、綺麗だって言ってたフランスのパリ。
最近、きな臭いけど、自業自得だろ、アレ。
テロでも何でも起こっても不思議じゃないけどあの人が、褒めたの聞いたのあこぐらいだからな。
キープしといたモンマルトル墓地に、適当な名前で夫婦として埋めといた。
PMC連中でも、口堅いのかおやっさんにしかばらしてない。
・・・・・・正直ね、少佐の死んだ原因聞いたときは、テロリストのやり口を知ってる俺だけどさ、寝返ろうかと思ったよ。
正規軍連中には、邪魔なの知ってたけど、それでも、基地司令官大佐の職を蹴ったのは向こうだぜ。
直接に殺したテロリスト共もムカつくけどな、安全な場所にいた奴に殺して欲しくなかったね。
だから、あのテロリスト共の基地潰したら、正規軍の基地もつぶす気なの。
情報拡散よろしくな、情報屋・《風舞姫》さんよ。
一応、用語解説。
分からない単語があったら言ってくださいませ。
※傭兵
正規軍以外。
基本的に、捨て駒要員。
※PMC
民間軍事会社の略。
この作品内に置いては、少々特殊な人材派遣として描いている。
本社は、アフリカ某所に籍はある。
※パイソン
正式には、コルト・パイソン。
デカイゴツイ銃の一つ。
バリエーションには、ライフル弾で撃つものもある。
※エレファント/エレガント
スラングで、「くそったれた・良くない/上品な」を意味する。
どっちかと言うと、エレファントの方が作中の問題児達には褒め言葉。