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魔女ラクトアのお取り寄せシリーズ

もしたいやきを異世界の人(王様)が見たら【お歳暮編】

作者: 紅葉

 創世記。闇に光が生まれた。

 光からは男神と女神が二柱生まれた。

 やがて二柱の神は世界を作り、植物や動物、そして人を作った。

 最初に作った人は四人。彼らには神の力に近い自然や世の理を操る魔力を与えた。

 それが今も四大魔女と畏れられる存在である。

 北の凍りついた大地に住むラクトア=イス。

 南の孤島に住むブルーハ=ワイ。

 大陸の東にあるの金の国のどこかに人に紛れて住むコガネ=ムーシ

 大陸の西の端にある砂漠に住むデザート=ベツバラ


 彼女たちは年に一度、新年の夜に集まってお互いの誕生を祝い宴会をする。それはこの世界ができた記念日でもある。

 そして酔っぱらったコガネが毎年のように夜空に花火を打ち上げる。火薬ではなく魔法での打ち上げ花火だ。

 

「ラクトアの持ってきたこのアイスクリーム美味い!」

「うふふ、そうでしょ」


 デザートの手にはサクサクとしたパンのようなパイのようなカップの中に二色のアイスクリームが入っていた。ラクトアが異世界の地球から取り寄せたスイーツだ。


「お姉様方、もう年が明けましたよ。今年でおいくつになられ……ゴフッ」


 ペンギンに見える遣い魔ルーが、ふかふかとした絨毯に沈んだ。ピクピクとヒレにも似た翼が痙攣している。


「全く、歳のことはお聞きでないよ、ルー」

「そうそう。見た目年齢第一」


 くすくす、あはは、と笑い合う魔女たちの見た目年齢は、二十八前後だった。

 それぞれの魔女にゴブレットや葡萄を差し出し、甲斐甲斐しく世話をするのは、それぞれの遣い魔。

 そのどれもが正体は猫だったり、鮮やかな色の羽根をもつ鳥だったり、コウモリだったりするのだが、今はルー以外は人間の姿をとっていた。見た目の歳はバラバラだがどれも見目麗しい少年や青年の姿をしている。


「だいたいラクトアのところのルーは、どうして人形ひとがたにならないんだい?」

「そうそう。一番男前じゃないか。ルーが恥辱に顔を歪めていたり、苦痛に堪えている姿を見てみたいもんだねぇ。きっと酒がすすむよ」

「やぁだぁ、コガネはいつも飲んでるじゃないか」

「ねぇ、もう葡萄酒は飽きたよ。生き血が飲みたいねぇ。飛びっきりの美少年のさ」


 絨毯に沈んだルーを愉しげに見ながら魔女たちの悪趣味な会話が続く。

 まさしく魔女の饗宴である。




◇◇◇


 時間は少し遡る。

 年の暮れ、侍女や侍従たちが王宮の大掃除にてんやわんやになっている中、王さまのところに小包みが届いた。

 ペンギンマークのコールド宅急便である。


「どうも御苦労様」


 サインをした侍従は、伝票に書かれた品名と差出人を見て目を見開いた。

 王さまが待ちに待ったお届けものである。




「王さま、ラクトアめから贈り物が届きました」

「オチュウゲンとやらが届いたのか?」


 暑い季節に届いたオチュウゲンのタイヤキがいたく気に入った王は、一口だけしか口に入らなかったタイヤキが再び届くのを夢に見るほど楽しみにしていた。

 だがもう同じ轍はふまない。

 ラクトアから届いたカチンコチンに凍ったタイヤキの食べ方は完璧だ。

 侍従は片眼鏡をくいっと直しつつ伝票を読んだ。


「今回はどうやらオチュウゲンではないようです」

「なに!? それではタイヤキではないというのか。ワシがタイヤキと再び合間見えることをどれだけ楽しみにしていたと思うのだ!!」

「王、お静まりください。まだタイヤキではないとは申し上げてはおりません」

「む……読み上げてみよ」

「ははっ。なになに、フムフム。此度の贈り物はオセイボだそうです」

「オセイボ……それはどんな贈り物か」

「詳しいことは書いてはおりませぬが、ラクトアめ、度重なる贈り物をみても、とうとう王の威光にひれ伏したとみえまするな」

「うむ、苦しゅうない。箱を開けてみよ」


 侍従がその小さな箱を開けると、ひんやりと冷気を発しながら黄金の魚が整然と並べられていた。


「こ、これは……!!」

「前回と同じ、タイヤキなる黄金の魚でございますな」

「うむ。ワシは満足じゃ。ラクトアから贈られたタイヤキを再び食そうと、国中の漁師に多額の謝礼さえ辞さぬ触れを出したものの、誰ひとりとしてこの黄金の魚を釣り上げることはかなわなんだ」

「王……お痛わしや」

「さっそく調理せよ! オーブンのパンもローストチキンも全て出しても構わぬ。タイヤキの調理がなにより優先と伝えよ!」

「はっ!」

「毒見はせずともよい! 全てワシの前に並べるのじゃ」

「王! それはなりませぬ。せめて通常通り二十九人の毒見は必要かと! もし王の身になにかありましたら、我等家臣も国民も……ウウッ」

「……分かった。そちは忠義ものよ。なるべく迅速にいたせ」

「かしこまりました」


 侍従はラクトアから贈られたタイヤキを王宮のコックに手渡した。

 タイヤキはコックの手によりオーブンに入れられた。

 そしてラクトアから贈られた三十匹分のタイヤキは、解凍され……焼き直された。


 二十九人の毒見を経て、安全を確認されたタイヤキは王の前に差し出された。


「ここにこれがあるということは、毒は無かったのであろうな」

「はい。全ての毒見が生きておりますゆえ、ご心配には至りません」

「……まるごと一匹の黄金の魚タイヤキ。そなたと再び会えることワシは夢に見ていた。そなたはかような姿をしていたのだな」


 王はしばしタイヤキをじっと眺めると、両手でそれを持ちあげた。


「はて、前回は一口であったがゆえ気付かなんだが、このように水っぽかったか。まるで海から揚がったばかりのようではないか」

「は、ですが、調理は前回の成功例を参考に致しましたが」

「うむぅ、さては種類の違うタイヤキだったのかも知れぬな。どれ」


 王はタイヤキに頭からかぶり付いた。

 水分を大量に吸った皮はべしゃりと舌に貼り付いた。中からはドロリと白いはらわたが流れ出し、王の着物を汚した。


「此度のタイヤキの腸は白いのか。やはり種類が違ったのだな」

「ラクトアめ、謀ったと見えますな。大軍を差し向けますか」

「いや……数千万騎の兵を差し向けてもラクトアには勝てまい。腸の黒いタイヤキが食べたいのう……」

「王、お痛わしや……」



◇◇◇


「ラクトア様、王さまはタイヤキアイス気に入ってくれたでしょうかね」

「声は聞こえないけど、泣いて喜んでるみたいだよ」

「本当ですねー。でもどうしてラクトア様は王さまにお歳暮送ったんです?」

「そりゃ、娘の旦那の上司だからさ。そうするもんだってニホンの箱の中でしゃべる人間が言っていたからね」

「そうだったんですか。で、リサ様には何を贈ったんです? そっちは私が配達してませんから気になっていたんですよ」

「聞きたいのかい?」


 ラクトアは蠱惑的な笑みを見せた。


「そうだねぇ、ルーが人形になって目を楽しませてくれるなら教えてもいいよ」

「……分かりました。約束ですよ」


 ゴニョゴニョ……。


「え!? きりたんぽですか? リサ様食べ方分かるのかなあ」

「人間、創意工夫が大事だよ。どんな風に食べてもいいのさ」

「まあ、それはそうですけど……って! ラクトア様ずるい! それ、濃厚チョコレートアイスじゃないですか!? 私の分は?」

「残念だねぇ、もうひとつしか残ってないのさ」

「そんなぁ~」




 

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