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第二話 八月二十一日

 村をこっそり出た後、どこか他に街や村がないかとあちこち見て回ったものの、結局何も見つからず、野宿で一夜を過ごしました。

 まあ住んでいた家もあまり野宿と変わらないようなものでしたから、大して気にもしませんでしたよ。

 目を覚ましたのは、やはりお日様が登るころでした。いや、勘違いですね。空が明るくなっただけです。太陽もないのに、どうなっているのでしょうか。


 おおっと、行商の方が馬車を引いてやってきました。少し話をしてみましょう。


「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが」

「あん? なんだい? もしかしてあんた、新入りかい?」


 新入り? ああ。この世界へのってことですね?


「そうです。何もかもよく分からないうちにこうなってしまって……」

「なあに気にするな。みんな最初はそうなんだから。とりあえず街まで行くから、乗ってくかい?」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」


 荷台の方に乗せてもらうとゆっくりと動き出しました。

 道が荒いので荷台はかなり揺れますが、歩くよりは足も楽ですし、助かります。


「それであんた、家族とかはどうしたんだい? 一緒に来たんじゃないのかい?」

「家族はいません。皆こちらに来る前に死んでしまいました」

「そうかい、そりゃ悪いこと聞いたね」

「いえ、お気になさらず」


 少し気不味くなってしまった。今度はこちらから話しかけてみよう。


「あの、落ちてくるときにお城が見えたんですが……」

「ああ、ランデブル城だね。この世界の王様が住んでるんだ。たくさんの魔法使いを従えて、踏ん反り返ってるだけの情けないやつだけどね」

「魔法使い?」

「そう。この世界では魔法が使えるのさ。使える奴は珍しいけどね」

「そういう資質がある人もいるんですか。羨ましいです」


 魔法。物を浮かせたり、何もないところから炎を出したり、夢が膨らみます。


「残念ながら資質なんて単純なものじゃないんだよ、これが」

「どういうことです?」

「この世界では、ある行為を二十年休まずに続けると、自然と魔法使いになれるんだ」


 なんですって?それじゃあ私も魔法使いになれるかもしれないじゃないですか!


「それは一体どんなものなんです? ぜひ教えてください!」

「もちろんだ。それはなぁ……『日記』だ」

「えっ……? あの一日あったことを記録していく、あの『日記』ですか?」

「そうだとも。その『日記』さ。あとは何も要らないんだよ」

「じゃあ、もしかしたら私にも……」

「ああ、成れるとも」


 これはすごい!今まで畑仕事しかしたことのない農民が、魔法使いなれるなんて!


「ただし気をつけなよ? もし一日でも書くことを止めたら、その時点で魔法使いにはなれない。再挑戦はできないんだ」

「そんなに難しいことでしょうか?」

「なんせ二十年だ。風邪を引いたり、事故にあったり、いろんなことがあるだろう。自分がどんな状態であろうと、一度書き始めたら情けはないよ。最後までやり遂げるしか、方法はないんだ」


 た、確かに。そう考えるとなかなか大変なことですね。


「あと、『日記』はできるだけ詳しく書いた方が良いらしいぞ。魔法使いになった時の力の大きさが変わってくるらしいからな」

「なるほど……」

「おっと、そろそろ街だな。あんた、魔法使い目指すなら注意しなよ? 大事なのは挑戦を始める環境を整えることだ。しっかり稼いで、万全の状態で挑むんだね」

「はい。何から何まで、ありがとうございます」

「いいさ。そりじゃあ、またいつか会おう」

「さようなら」


 良い人に巡り会えたおかげで、私はこの世界でやっていけそうです。

 まずはお金を貯めなくては。


 私は本気で、魔法使いを目指します!

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