天使さんを倒しましょ!
短編小説を書いてみた。思い付きだから文がしっかりしてない様な…
長きに渡る魔族と人間の争いについに終止符が打たれた。魔族の王は人間の勇者に討たれ世界に平和が訪れた。魔王と勇者の伝説は語られる・・・何時までも、何時までも。
「魔王、お前を倒しに来た!姿を現しなさい!」
魔王の城最上階の魔王の間、そこに勢いよく飛びこんできた少女。何処にでも有りそうな鉄の鎧を纏い、腰には鋼で作られた剣を付けている。だが、彼女が持っている神の加護により鎧と剣は神々しく輝いている。彼女は勇者である。
「ん?読書の途中だったのですが。まぁ、良いでしょう。それにしても随分と可愛らしい勇者が来ましたね。お一人ですか?」
果たして、次に現れたのは魔族の王、恐怖の象徴である魔王。眼鏡を掛け右手に本を持った細身の優男が魔王の座に座っていた。魔王の服装は勇者の神々しい鎧に比べて特徴が無い。何処にでも有りそうな旅人が着る服にマントを付けただけだった。
「お前など私一人で十分だ!いくぞ!」
腰の剣を抜き魔王の元へと走り出す勇者。その姿はまるで銀色に光る弾丸の様だ。
「では、私も一人で戦うとしましょう。サンダー!」
迎え撃つ魔王は立ち上がり右手を勇者に向けた。すると手の平から稲妻が現れ、向かってくる勇者を襲う。稲妻の進む速さは人間の反応速度を大きく超えている。普通の人間では防げるはずが無い攻撃、だが勇者は普通の人間ではない。立ち止まった勇者は臆する事無く見事に稲妻を剣で斬ってみせた。稲妻は魔力へ戻り霧散する。
「ほう、今のに反応できますか。さすがは勇者ですね」
攻撃は防がれた魔王は余裕の表情で次の稲妻を勇者へと放つ。今度は先ほどよりも更に早いモノだ。
「この程度では私には届きはしない!」
またしても斬られた稲妻、だがその稲妻によって死角になっていた所から現れた新たな稲妻に勇者は気が付けなかった。いや、当たる寸前で気が付いてはいたが反応できなかった。新たな稲妻が勇者に直撃した。
「それにその鎧の耐久度も素晴らしいですね。神の加護と言うのはそんなただの鉄の鎧をここまでのモノにしてしまうほどなのですね」
勇者は無事だった。神の加護を受けた勇者の鎧は見事に稲妻のダメージから勇者を守っていた。だが、もしもこれが勇者以外の者だったならば黒焦げになっていただろう。
「・・・うぅ、少し痺れたぁ。でも、もう大丈夫!今度はこっちから行くぞ、魔王!」
再び走り出す勇者。魔王は同じように稲妻を放つ。勇者は剣を槍のように構え走りながら稲妻に突き刺した。稲妻は霧散し勇者は魔王に迫る。
「魔王ぉ!」
「その剣もただの鋼ですね。さすがです、がこれはどうでしょう?」
魔王は稲妻を今度は攻撃範囲を広くして放った。先ほどの稲妻がビームだとするならば今の稲妻は砲撃。普通なら避けることはほぼ不可能だ。上に避ければ無防備になり左右に避けようとしてもその攻撃範囲内を出る事は出来ない。だから、勇者は上に跳んだ。
「確かに上ならば避ける事は出来るでしょう。ですが、空中では避ける事は出来ませんよ」
魔王は上に稲妻を放つ。勇者は空中に居るため避ける事は出来ない。稲妻は直撃した。
「うぅぅぅ、あああああああッ!!!」
「なッ!?」
だが、勇者は止まらなかった。剣を構えて空中から魔王に斬りかかる。
「光剣一閃!!!」
「―――ッ!!!」
防御の為に魔王はとっさに右腕を出し魔力壁を張った。だがそれでは勇者の技を防ぐ事が出来ない。神の加護を受けた勇者の剣が魔王の右腕を指から肘辺りまで一気に斬り裂いた。
「よし、右手をとった!これで魔王は魔法を使えないはず!」
勇者は魔王から素早く距離を取った。いかに魔法を封じたと言っても相手は魔王、どんな事をしてくるか分かったものではない。勇者は油断なく剣を構えて様子をうかがう。
「ック!・・・痛みが引かずに一向に治りもしない。神の加護のせいか、それとも。とにかくこのままにしていても今は邪魔にしかなりませんね」
魔王は右腕を引き千切った。千切った腕は捨て置いた。次に魔王は魔力を左手に集め雷の剣を作りだした。
「勇者、まさか右手を失うとは思いませんでした。私の中に少し相手は人間だと侮っていた所があったのかもしれません。ですが、後はもう相手との剣の実力勝負になりますね」
「ふふ、望むところ!次はその首を取る」
たがいに剣を構える。2人の距離は約2m。静寂に包まれた魔王の間、2人の心臓の鼓動する音だけが響く。先に動いたのは魔王だった。勇者の眉間を狙い振り下ろされる素早い一撃。
「はッ!」
「たァ!」
勇者はその一撃を己の剣で受け止めた。魔王の剣撃は耐えられないほど重くは無く押し返した。その勢いのまま魔王に斬りかかる勇者。魔王はそれをうまく受け流し反撃する。互いにそんな攻防を紙一重で繰り返す。力の勇者、技の魔王。どちらも実力は互角。なかなか決着は付かず、剣を何合と打ち合わせた。すでに周りは剣の打ち合う衝撃でクレーターばかりだ。だが、どちらも止まる気配はない。これはどちらかが死ぬまで行われるモノ。剣の打ち合いをやめる時、それはどちらかが倒された時かあるいは・・・。
「勇者様ぁ~」「勇者!」「勇者殿」
「魔王様ぁ~」「魔王様」「我が主」
剣が打ち合う音が絶えず響く魔王の間に新たに6人現れた。それは勇者のパーティーだったり魔王の側近だったりするのだが。今の勇者と魔王には関係の無い事、たがいに止まる事無く殺し合う。すでに何合目の打ち合いか分からない。互いに分かっている事は一つだけ、どちらが負けてもおかしくない、少しでも力を抜けば殺られるという事。そして思った事はなんと互いに同じ、もっとこの戦いを続けていたい。睨みあう6人を余所に勇者と魔王は楽しんでいた。
「その愚かしい行為をやめなさい、魔王。そして勇者」
光は突然二人の間に現れた。勇者と魔王は本能的に光から離れた。当然殺し合いも中断せざるを得なくなった。かなり不機嫌な2人と外野の6人が光を見た。光からは大きな力を感じる事が出来た。
「この場に居る下等な生物たち良く聞きなさい。私は天使です。今や人間や魔族が増えすぎたこの世界を元の綺麗な、神聖な世界にリセットしようと思います。勇者、ご苦労様です。よくぞここまで戦い抜きましたね。もう貴女の役目は終わりです。魔王、あなたの魔族の反映と言う義務も、もはや必要ありません。後は消えるのみです。やりたい事があるのなら今の内にやっておきなさい」
「要するにこの世界と共に死ねと言っているのですね?天使、私がそれを許すとでも?」
「いくら天使様でもやっていいことと悪い事があるのよ。この世界を滅ぼすなんてダメに決まってる!」
なんと言う理解力でしょう、いきなり現れた天使の言葉をすぐに理解する能力はなかなか付くモノではありません。後の6人のうち4人ほど会話についていけていない事は触れてはいけません。
「フン、下等な生物風情が生意気な」
そう言ってこの場を去る光。魔王はそれを確認してから口を開く。
「やれやれ、困りましたね。これでは続きどころではありません。人間が滅びるのは構いませんが魔族までもとなると看過できませんね。どうでしょう、勇者。ここは休戦と言う事で。互いに協力する事にしてはどうでしょうか?」
先ほどまで殺し合っていたとは思えない魔王のセリフ。勇者は少し悩んで了承した。他6人の反対意見は採用されなかった。
「これからどうするのよ、魔王」
「はい、もちろん。天界に乗り込んで 天使さんを倒しましょ」
こうして魔王と勇者の伝説はスタートする事になる。
結末は最初から決まっています。魔王は滅び勇者は英雄として伝説になる。凶悪で粗悪な魔王を綺麗で素晴らしい勇者が倒したという何処にでもあるような勇者像で伝説が語られていく。伝説なんてそんなもんだと思いながらも事実はどうだったかというのを書きたいと思った…。