選ぶ声
スタジオ。
ブースの前。
――――
空気が、張っている。
――――
名前が呼ばれる。
――――
「白瀬」
――――
短い。
――――
白瀬は、立ち上がる。
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歩く。
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ゆっくり。
――――
マイクの前。
――――
静か。
――――
「……」
――――
目を閉じる。
――――
今まで。
――――
ズラしてきた。
――――
残してきた。
――――
でも——
考えていなかった。
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何を残すか。
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誰のためか。
――――
「……」
――――
思い出す。
――――
レオンの言葉。
――――
『その正しさ、誰のもの?』
――――
黒崎の声。
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『消えねえだけだろ』
――――
――――
混ざる。
――――
でも、
今回は違う。
――――
選ぶ。
――――
自分で。
――――
「Ready?」
――――
声。
――――
白瀬は、目を開ける。
――――
決めた。
――――
全部は残さない。
――――
全部は合わせない。
――――
一つだけ、
置く。
――――
「……来たのか」
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流れる。
――――
止めない。
――――
でも——
一瞬だけ、
深くする。
――――
ほんの一瞬。
――――
感情を、
落とす。
――――
そこだけ。
――――
あとは、
崩さない。
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流れに乗せる。
――――
壊さない。
――――
でも——
消さない。
――――
終わる。
――――
「カット」
――――
沈黙。
――――
長い。
――――
誰も、すぐに言わない。
――――
ディレクターが、
ゆっくり息を吐く。
――――
「……」
――――
目を細める。
――――
「…That」
――――
一言。
――――
短い。
――――
でも——
続く。
――――
「That stays.」
――――
――――
残る。
――――
選ばれる。
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初めて、
はっきり。
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空気が、少しだけ緩む。
――――
でも——
完全じゃない。
――――
「Again」
――――
続く。
――――
まだ終わらない。
――――
でも——
違う。
――――
さっきとは。
――――
“選んだ声”が、
通った。
――――
――――
外。
――――
廊下。
――――
白瀬は、ゆっくり歩く。
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息を吐く。
――――
少しだけ、長く。
――――
「……」
――――
疲れている。
――――
でも——
悪くない。
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レオンがいる。
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壁にもたれている。
――――
目が合う。
――――
一瞬。
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「……やったじゃん」
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小さく言う。
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軽い。
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でも、
ちゃんと見てる。
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白瀬は、少しだけ首を振る。
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「……まだです」
――――
短く。
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レオンは、少しだけ笑う。
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「そうだね」
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即答。
――――
否定しない。
――――
でも——
「でも」
――――
一歩、近づく。
――――
「今の、君のだよ」
――――
――――
白瀬は、少しだけ止まる。
――――
自分の。
――――
初めて。
――――
ちゃんと、
選んだ声。
――――
「……」
――――
少しだけ、
息を吐く。
――――
「……そうですね」
――――
静かに言う。
――――
ほんの少しだけ、
実感がある。
――――
――――
空気が、
変わる。
――――
ズラすでもない。
――――
合わせるでもない。
――――
選ぶ。
――――
その場所に、
立ち始める。




