冷たい標的
雨がアスファルトを叩く音が、私の鼓動と重なっていた。 路地裏のビル、4階の窓。ここが私の「仕事場」だ。
ターゲットが現れるのは、向かいのホテルのラウンジと決まっている。情報は正確だった。 私はケースから愛機を取り出し、慣れた手つきで組み立てていく。黒く冷たいボディ。長く伸びた筒状のバレル。その重みが、私の掌に心地よい緊張感を与える。
「……来たか」
午後8時ちょうど。 豪奢なシャンデリアの下に、その女は現れた。真紅のドレス。透き通るような白い肌。 事前に渡されていた写真よりも、実物は遥かに魅力的だ。これが「最後」になるのが惜しいほどに。
私は三脚を微調整し、スコープを覗き込む。 距離は約150メートル。風は微風。雨の影響も計算に入れる必要がある。 指先が震えないよう、深く息を吐き出す。
女がワイングラスを傾け、ふと窓際へ視線を向けた。 今だ。この瞬間を待っていた。
彼女の視線がこちらを向いた気がした。だが、こちらの姿は見えていないはずだ。私は闇に溶け込んでいる。 スコープの中、彼女の笑顔が十字の中心に重なる。 なんて無防備で、美しい表情だろう。
「さよならだ」
私は静かに引き金を絞った。
カシャッ。
乾いた音が狭い室内に響く。 手応えは完璧だった。
私はすぐにモニターを確認する。 そこには、雨に濡れた窓越しの、憂いを帯びた美女の笑顔が鮮明に「保存」されていた。
「いい画が撮れた。今回のスクープは高く売れそうだ」
私は満足げにカメラのレンズを拭き、撤収の準備を始めた。




