最悪な入学初日と、彼女の手招き
校舎の入り口に着いた俺達は、昇降口の扉に張り出されているクラス分けの紙を見ようとしたが、新入生、保護者、在校生と想像以上に人が多く中々前へ進めない。
「お、思ったより人多いね…」
「うん、しばらく進めそうにないね」
「そうだね…」
数分が経ち、徐々に前へ進めては来たものの、後ろ側にも人が押し寄せて来て、俺達は完全な団子状態になっていた。
そういえば、白川さんは親と一緒に来てなかったよな。入学式の日なら親と一緒に学校へ行くのも珍しくないと思うけど。俺の親と同じで、用事とかで後から来る感じなのかな?
「そういえば、白川さんは親と別々にき───」
「は?キモ」
「…え?」
白川さんがいるであろう場所に話しかけると、そこには白川さんとは正反対な、なんというか、いかにも今時のギャルっぽい雰囲気の女の子が怪訝そうに俺を睨んでいた…。
「あ、ご、ごめん人間違いで…」
「あっそ、てかどもり過ぎでしょ」
「───、、ご、ごめん」
俺はこの"今時ギャル"に完全に気圧されていた。女子に言われて傷つく言葉ランキング上位に入ってるであろう『きもい』その言葉が俺の心を抉り取った…
「あ!ゆうーなはっけーん!!!」
「え、ちょ、陽乃!?」
突如現れた、元気一杯という言葉がぴったりな女の子が、俺の心に深い傷を負わせたギャルを人混みも構わず強引に連れて行った…
……あのギャル『ゆうな』とか呼ばれてたよな。あれでゆうなの"ゆう"が優しいの優だったらちょっと面白いな…名前負けしてて。
いやいや今はそんな失礼なことを考えてる場合じゃない。白川さんだ、白川さんどこ行った?まぁこの人混みじゃはぐれても仕方ないか…。とりあえずクラス分けの紙が貼られてるとこまで行くしかないな。そこで白川さんとも合流できるかもしれない。
人混みに揉まれながら俺はようやくクラス分けの紙が貼られている昇降口の扉まで付くことができた。
えーっと、俺は1年2組か。
「おわッッッ!」
俺が自分のクラスを確認したと同時に後ろの人混みが一気押し寄せて来た。
───痛ってぇ、、、。自分のクラスはわかったけど、クラスのメンバーまでは確認出来なかったな。白川さんは何組なんだろ…気になる…。そういえば白川さんどこにも見当たらないな…。
ま、まぁいつまでもここで探す訳にもいかないな。とりあえず自分の教室まで行こう…。俺は下駄箱で靴を履き替え1年2組へと歩みを進めた。
ふぅ、なんか今になってまた緊張して来たな。ここに来るまで色々あったから緊張なんてする暇なかったけど。どうしよう、教室入ったら多分皆んな俺の方向くよな。そう考えると余計に緊張して来た…。いや、案外俺なんかには目もくれず、新しいクラスメイトと喋ったりしてるのかな…?それはそれでなんか悲しいな…。全員じゃなくてもいいから、何人かはこっちをチラッと見てほしい。6人くらいは俺に注目してほしい。
そうこう考えている内に1年2組の教室の表札が見えて来た。よし、一回深呼吸しよう。緊張で吐きそうだ。すぅーーーーーーはぁぁ。ふぅ、少し落ち着いたぞ。第一印象は大事だ、ガチガチに緊張したまま教室に入ったらあれだ、舐められる可能性がある、それがいじめに発展したりとか、そういう可能性も無きにしも非ずだ、、。姿勢伸ばして、胸張って、出来るだけ自信に満ち溢れてるみたいな感じで教室に入ろう。
よし!!!!
「───ガラガラッッッッ!バンッッッッッッッ!!!!!!」
「………………………………………」
やってしまった…やって、やってしまったぁぁぁぁぁああ!
力みすぎてドアをめちゃくちゃ思いっきり開けてしまった…。開けたドアが反動で半分くらい戻って来ている。どんだけ強く開けたんだよ俺…
今、この状況で俺に残された選択肢は2つだ。1つは何事もなかったかのように、すました顔で教室に入る。2つ目は『いや〜このドア軽すぎだろ〜ww』とかおちゃらけた事を言って教室に入る。
選択肢は2つとか言ったけど、実際のところ俺に残った選択肢は1つしかなかった。
「ガラ、トン」
俺はドアをこれでもかというほど、丁寧に開け閉めした後、何事もなかったかのように、すました顔で教室に入った…。
くそ、くそ、俺の第一印象最悪じゃねぇか。周囲からは言わずもがな冷笑の声が聞こえて来た。俺は一刻も早く自分の机で寝たフリをしたい気分だったので、黒板に書かれている座席表を見ようと、早歩きで向かおうとした瞬間、見覚えのある、艶やかな髪と白い肌、涙黒子が特徴的な美少女がちょいちょいとこちらに手招きをしているのが視界に入った。
「し、白川さん…?」
俺の体は白川さんの座ってる席へ、反射的に向かっていた。




