9話 ヒドインの図々しさは万能です♡
「うわぁぁ、すごい~~!!」
エミリア様のお屋敷の広い玄関で、ずらりと並んだ使用人たちが一斉に頭を下げた瞬間、
私は思わず声を上げてしまった。
高級デパートの開店直後でも、こんな歓迎されたことないよ……!
——ちなみに私は、断られるのが嫌だったので、当日エミリア様と目が合う前に
押し込み訪問スタイル で突撃してきた。
いい子だから押されたら断れないという良心に付け込んだ完璧な作戦♡
「リアナさん、本当に来てくださったんですねっ」
エミリア様がぱぁっと笑顔で迎えてくれる。
「はいっ、お招きいただけて光栄です〜♡」
招かれていないで押し掛けたという事実はきれいさっぱりなかったことにする私。
「学園のお友達を招くのは初めてで……至らないところがあればごめんなさい」
そう言って微笑む姿は、
貴族なのに質素なドレス をまとった優しい少女そのものだった。
平民の私に合わせてくれたんだろう。
やだ……この子、本当に天使では?
などと思っていたら
「今日はよく来てくださいましたね」
「エミリアと仲良くしてやってください」
と、お父様とお母様も顔を出した——が。
「ちょ、ちょっと!! お父様! お母様!
リアナさんが気を遣っちゃうから出てこないでって言いましたよね!!」
エミリア様は真っ赤になって二人を扉の向こうに押し戻してしまう。
「あ、あはは……気にしませんよ♡
むしろご挨拶したかったくらいです!」
「……リアナさんがそう言ってくれるなら……よかったです」
うっすら肩を落とすエミリア様。
ちょっと可愛すぎる。
あの腹黒皇子の件、家族に先に忠告したかったんだけど、まぁそれはまた今度。
親睦を深めてからでも遅くない。
「こっちです! 行きましょう!」
エミリア様に手を引かれ、私は屋敷の奥へ進んだ。
***
「負けました……!」
「うふふふ、勝利〜♡」
中庭のテーブルでトランプ勝負をしていた私たち。
エミリア様は悔しそうにカードをにらみつけている。
「この“トランプ”という遊び……とても面白いですね!」
「でしょでしょ〜?私が頼んで学園長が作ってくれたやつなんですよぉ♡」
と、談笑する。
そしてテーブルの上には、エミリア家特製のお菓子が山ほど。
「エミリア様のおうちのお菓子……最高です〜♡」
「気に入ってくれてよかったです。
よかったら日持ちするものは包んでおきますね?」
「ほんとですか!? エミリア様だいすき〜!」
思わず抱きついたその時——
「君が、エミリアを助けてくれた“光属性の子”か?」
突然、低く落ち着いた声。
振り向くと、騎士団の制服を着た金髪長身のイケメン が立っていた。
(き、きたぁぁぁぁ!!!
エミリア兄=腹黒皇子をぶっ潰すためのキーパーソン!!!)
さすが女性向け小説のサブキャラ。女性向けはネームドキャラは全員無駄にみんな美形だが、主役の兄ということだけあってキラキライケメン具合が半端ない。
「お兄様!? なんでここに……!」
「エミリアの学友が来ていると聞いて、挨拶にね」
柔らかく微笑む。イケメンスマイルが眩しい。
年上イケメンまじやばい。破壊力がすさまじい。
私は目をキラッキラに輝かせ、
勢いよく彼の手を握りしめた。
「かっこいい!!!
もしよろしければ——
私と付き合ってください!!」
私の言葉にーー中庭にいた執事が紅茶を落としそうになるのだった。




