7話 設定の有効活用♡
「やっほーエミリア様、きちゃった★」
私はエミリア様を抱えたまま、光魔法で身体能力を跳ね上げ、森の中を駆け抜けた。
巨大な魔物はノシノシと一年生の方へ向かっている。
それより先に、私たちが到着しないと!
「エミリア様! いまから皆さんの所に行きますから、闇魔法で皆さんにバフをお願いします!」
「え……でも……」
エミリア様はうつむく。
闇魔法は嫌われていて、効果があるのは“魔族だけ”。
人間には恩恵がないとされている。
(そう——彼女の力が真価を発揮するのは、 婚約破棄されて魔族の地に追放されてから なんだよね)
「エミリア様思い出してください。教科書に書いてあったはず。
魔物は纏っている属性で“狙う相手”を決めるって。
だから闇魔法でみんなを黒く“塗っちゃえば”——」
「……あ!」
私の言葉にエミリア様は察したようで顔をあげた。
そう、闇魔法をまとわせれば魔物の捕獲対象ではなくなり、攻撃されなくなる。
エミリア様はぎゅっと拳を握り、小さくうなずいた。
「……わたし、やってみます!」
「お願いします!!」
エミリア様が呪文を唱えると、逃げ惑う生徒や先生たちの身体に
“黒い薄膜”のような闇の属性がふわりと纏った。
すると——魔物の動きがピタッと止まる。
「おい……魔物がこっちを見なくなったぞ……?」
「闇魔法のおかげか……?」
ざわ……と空気が揺れる。
「や、やりました……!」
エミリア様の頬がぱっと赤く染まった。
可愛い。こういうところは年相応の少女という感じ。
「それじゃあ、あとは任せてください♡」
「え……?」
私はエミリア様をそっと降ろし、
全身に光魔法を纏わせて一気に発光させた。
ぐおおおぉぉぉ!!
魔物の敵意が、完全に私へ向く。
「よし、釣れた!」
このイベント、本来は——
エミリア様が悪者扱いされ、リアナが光魔法で撃破して皇子に惚れられるという設定。
このイベントでの罪が断罪される大きな理由。
(絶対小説と同じ展開になんてさせない!!)
私は魔物をみんなの視界から引き離すため、森の奥へ全力疾走した。
木々が途切れ、目の前に大きな崖が広がる。
魔物は面白いように私についてきてくれる。
ここなら——誰にも見られない。
「はい、はりきっちゃいますよー!」
崖へ飛び込み、落下しながら魔物を釣り込む。
ドォォォォォン!!
魔物も勢いのまま私を追って崖下へと落ちていく。
「おっしゃぁぁぁ!!」
落下しながら、私は指先を魔物へ向け、ひとこと。
「ごめんね♡ ヒドインって、こう見えてスーパースペックなんです♡」
「輝く審判!!」
眩い閃光が崖下から天にも届く勢いで光の柱をつくりだしーー魔物をそのまま貫き焼き尽くすのだった。




