6話 予定外?いいえこれはむしろシナリオ通り
「今日は全学年で“魔物の討伐実習”を行う!」
先生の声が拡声器で森に響き渡った。
学園には、実習用に管理された“魔物の森”がある。
魔物が湧く核が設置されており、弱い魔物が周期的に発生する仕組みだ。
定期的に魔物を倒すことで核が暴走せず、授業に向いた安全な環境が確保されている。
(そういえば……こんな行事あった気がする)
ぼんやり周囲を眺めながら思い返す。
でも小説にあったような、なかったような……。
そもそも原作が始まるのは、皇子とヒドイン(私)に理不尽に婚約破棄された悪役令嬢エミリアが、復讐に立ち上がるシーンからだ。
つまり——
(ここ、原作開始前の“空白期間”なんだよね)
細かい描写がないのも当然だ。
私は一年生なので、三年→二年→一年の順に森へ入る。
先輩たちがある程度魔物を掃除してから動き出すので、今は待機時間だ。
(早く終わらないかな〜。週末はエミリア様の家に行くんだし、対策練らなきゃなのに)
そんなことを考えてあくびをした瞬間。
「魔物だ!! 巨大な魔物が現れたぞ!! 避難しろーーー!!!」
悲鳴とどよめきが起こり、森の奥から木々をなぎ倒しながら“巨体”が姿を現した。
そこで私は思い出す。
原作の断罪シーン。
——「訓練中に魔物を召喚してリアナを殺そうとしたのも、お前だエミリア!」
と、皇子がエミリアを断罪したあの場面。
そしてリアナが光魔法を発動させ皇子に目を付けられる大事なイベント。
(これかーーい!!!)
私は慌てて駆けだすのだった。
***
(なんとか……リアナさんからの、予定を断らないと)
森の中を歩きながら、エミリアはため息をついた。
皇子アンヘルに「平民に深入りするな」と言われたばかりなのに、家に招く約束をしてしまった。
リアナは嫌いじゃない。
むしろ、助けられた時は本当に嬉しかった。
でも婚約者の皇子を裏切りたくもない。
(……また、あの“がっかりした顔”をさせたくない……)
皇子は優しい言葉をかけてはくれるけど、皇子の言ったとおりにしないとすごく悲しそうになる。
彼をそんな気持ちにはさせたくない。
そう思っていると——
「おい、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。ちょっと強い魔物が出るだけだろ。先生が何とかするさ。
あとは“エミリア様のせい”にすればいいだけなんだから」
という声がした。
(——私の、せい……?)
声のほうへ忍び寄ると、生徒たちが“魔物の核”に魔石を放り込もうとしていた。
「あなた達、何をしているのですか!?
そんなことをしたら強い魔物が湧いてしま——」
エミリアが叫んだ瞬間。
核が魔石を吸い込み、
続いて——エミリアの身体から 闇の力を吸い始めた。
「えっ……!? や、やめて……!」
エミリアは息ができず、膝が崩れ落ちるのだった。
***
(……ここまでやれとは言ってないけど?)
木々をかき分け狩場に現れた“巨大魔物”を見て、アンヘルは顔をひきつらせた。
本来の計画はこうだ。
・エミリアが“闇の力を暴走させて”魔物を呼ぶ
・生徒達に責められる
・最後に自分(皇子)が庇って“絆が深まる誘導”をする
そのために“少し強い魔物”を出すだけの予定だった。
——なのに。
生徒たちの前に現れたのは森の木々すらゆうに超える魔物なのだ。
(教師が勝てるかも怪しいレベルの魔物が出てきてるんだが!?)
悲鳴、避難指示、生徒の混乱。
そして——巨大魔物が森ごと踏み潰す勢いで動き出した。
***
「おい、どうなってんだよ!?」
「エミリア様が来るとは聞いてないって!!
あの闇の力まで吸われるなんて、想定外だろ!!」
巨大化した魔物から逃げながら生徒が言う。
「お、おい、止めないと……!! このままだと魔物が——」
核は暴走を始め、エミリアの闇の力を止めどなく吸い続けている。
その成果魔物はどんどん大きくなっている。
「やっ……たす……けて……」
エミリアは呼吸もままならず、手を伸ばす。
だが、魔物が巨大になるやいなや、生徒たちは恐怖で逃げ出した。
(どうしよう……動けない……)
巨体の影が覆う。
足が振り上げられる。
(——踏み潰される)
エミリアが覚悟したその瞬間。
「ダムブラスト!!」
轟音と爆風が巻き起こり、
エミリアの身体がふわりと抱き上げられた。
彼女を救ったのは——
リアナだった。




