4話 ヤンデレ皇子の刺客を光魔法で逆利用しました♡
「うわ〜♪ 美味しぃ……! 最高ですぅ!
こんなおいしいもの、初めて食べました〜!」
レストランで私がもぐもぐ頬張りながら言うと、
「それはよかった」
「喜んでもらえて嬉しいです」
皇子は爽やかな笑みで、エミリア様は頬を赤らめて答えた。
「君みたいに美味しそうに食べる子って、見てて楽しいよ」
爽やか好青年スマイル。
——普通の女子なら“キュン”とする場面。
……が。
(はい出ました“外面スマイル”。中身は胸糞ヤンデレ。絶対いま、私の食べ方見てムカついてる)
だって小説でも、
「本当は下品で嫌いだった。だから悪役令嬢のほうがいい」
とか、リアナに言い放ってたし。
なので私は今日は、あえて全力で皇子が嫌う食べ方を披露しながら、レストランの料理を堪能した。
(理事長(大賢者)バリアがある限り、こいつ私に手を出せないもんね〜)
光属性大好きの甘やかし大賢者おじいちゃん。
小説でも最終盤まで私を溺愛していたから、皇子でも私には迂闊に手が出せない。
(悪役ムーブするためのヒドイン特権、こういうとこで役に立つのね……)
「エミリアに、君みたいな優しい友達ができてよかったよ」
皇子が微笑むと、エミリア様はうつむいて頬を染めた。
見た目だけなら微笑ましい。
——見た目だけなら。
(虐めてるの“お前”だろうが……うげぇ)
なんかムカつく。
「私も嬉しいです! これから仲良くしてくださいね、エミリア様!」
ぐいっと顔を寄せると、エミリア様が照れ笑いした。
その隣では皇子が穏やかに微笑んで——青筋を立てている。
本当マッッッジでこいつサイテー。
***
「随分調子に乗ってるみたいだな、平民のくせに」
レストラン帰り。
路地裏で、学生服に紙袋マスクという妙な格好の男たちに囲まれた。
棒を持ってニヤニヤしている。
(あー。“典型的にやってきた”って感じだわぁ)
皇子直々に手は出せない。
だから皇子には関係ない虐めという風を装った刺客……というつもりなのだろう。
でもさ。
「マスクに学生服って……正体隠す気あるの? なんかシュール」
思わず漏れた私の感想に、
「う、うるさい!!」
図星だったらしく逆ギレしてきた。
(子どもかよ。やること陰湿〜)
考えられる皇子の脳内プランはこう。
①私がやられる→怯えてエミリアから離れる
②私が反撃する→同じ学校の生徒に暴力をふるったと捏造して退学
ってことなんだろう。
けどさぁ。
私は深呼吸し、光魔法を発動した。
——ぼわっ!!
赤と黄色の光が混ざり合い、一帯が“炎に包まれたような光景”を作り出す。
「な、なんだ!?」
「ねえ、知ってる?
パパとママが教えてくれたの。
“助けて”って言っても人は出てこないけど——
“火事だー!!”って叫ぶと、人がすぐ集まるって♡」
「はぁ!?!?」
私は肺いっぱいに空気を吸い込み——
「火事よーー!! 燃えてるーー!!
みんな火事ーーーっ!!」
すると周囲から、
「どこだ!?」「水持って来い!!」
わらわらと大人たちが走ってきた。
「ちょっ……!?!?」
「あの人たちが火をつけてましたーーー!!」
私の言葉を聞いた瞬間、大人たちの目が変わった。
「なんだって!?」「逃がすなーー!!」
男たちが蜘蛛の子散らすように逃げ出す中、私は人混みに紛れてしれっとその場を離れた。
中身大人の私に勝とうだなんて500万年はやいでーす★
と、心の中で思いながら。
***
「いい子だったね」
帰り道。馬車の中で皇子——アンヘルは微笑んだ。
「はい。とてもいい子です」
エミリアは嬉しそうに微笑む。
「でも……少し心配だな。
君のお礼につけ込んで、奢ってもらうつもりで来ただけかもしれない」
「そ、そんな……! リアナさんは助けてくれたんです!」
「うん、それは分かってるよ。でも“事実として”、貴族からたかっているという噂もあるんだ。
交流をやめろとは言わない。ただ……気を付けてほしいんだ」
「……はい。ありがとうございます」
エミリアは寂しげにうつむく。
アンヘルは優しげな眼差しを向け——
その奥に、冷たい支配欲を隠していた。




