25話 完全勝利♡
「なぜだ!!
なぜ剣の力が消えている!!」
兵士に押さえつけられたまま、皇子が叫ぶ。
その視線は、真っ直ぐリアナへと向けられていた。
「えぇ? だってぇ――
契約が成立しなかったんですもの♡」
リアナはくるりと片足を上げ、ぶりっ子ポーズで笑う。
「皇族の《誓約書》にはね?
“契約の義務不履行=皇位継承権はく奪”って基本条文がありまぁす♡
皇子様、そんなことも知らなかったんですかぁ?」
「契約は成立したじゃないか!!
サインだって確認した!!」
皇子は震えながら吠える。
確かに、公爵の名は書かれていた。
形式上は問題ないように見えていた。
「確かに、父は記入しました。
ですが――」
静かな声が響いた。
アルバート様がリアナの隣に歩み出る。
「“効力を発揮するサイン”は、
当主の署名でなければ無効です」
皇子の表情が、みるみる蒼白に変わっていく。
「ま……まさか……」
「そのまさかでぇす♡
爵位はすでにアルバート様へ譲ってありましたのでぇ、
元公爵様のサインじゃ発動しませぇん♡残念ッ♡」
リアナは笑顔で片足をひょいッと上げ、ウィンクまで添える。
「うそだあああああああああああああ!!!!!」
皇子の悲鳴が会場に木霊した。
エミリアは震える声で父を見上げる。
「で、では……舞踏会の直前に、
父は兄に爵位を譲って……!?
父のサインを無効化するつもりで……!?」
「ああ。皇子がこちらの策を理解した上で動いてきた以上、
“さらに上を行く”しかなかったからな」
公爵はエミリアの頭をぽんっと軽く叩く。
「でも、父も兄も知っていたのですよね?
なんで教えてくださらなかったのですか……」
エミリアがむっと頬を膨らませる。
父は視線を逸らしながら小声で答えた。
「……エミリアは、顔に出やすいから……」
「むぅーー!!」
エミリアはさらにほっぺを膨らませる。
そこへ――皇帝が歩み出た。
「礼を言おう、リアナ。そして公爵。
わが愚息が迷惑をかけた」
その横では、羽交い絞めにされ、
必死に暴れながら罵声を浴びせられている皇子がいた。
「いえ、すべては皇子の独断です。
陛下が謝る必要はありません。
……ですが、どうして陛下がこんなに早く?」
公爵が疑問の声を上げる。
皇帝に独自連絡をした者はいないはず――
「ああ、それならば……」
ふわり、と背後から勢いよく抱きつかれた。
「流石光の子ですぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「学園長ーー!?♡」
学園長がリアナにぎゅうっと抱きついていた。
「学園長、約束守ってくれてありがとうございますぅ♡」
「彼女が教えてくれたんだよ」
学園長は懐から通信魔道具を取り出す。
「夏休み前、光の子――リアナ嬢から“置手紙”が届いてね。
この魔道具で、皇子や公爵殿のやり取りを逐一聞けていたのだよ」
「ま、まさか……全部聞かれて……?」
皇子が蒼白になり震えた。
「もちろん♡
こうなることは――全部予想済みでしたぁ♡
さすがにぃ皇妃たちを殺すのは予想外でしたけどぉ」
リアナは無邪気に笑う。
彼女は知っていた。
“原作のバッドエンド”で皇子が使った契約書の存在も、
帝都の人間を人質に取る禁呪の発動条件も。
だからこそ――
契約書そのものを無効化し、
皇子の武器を根こそぎ折る準備をしていた。
「私の、完全勝利ですね……
お・う・じ・さ・ま♡」
その一言を聞いた瞬間――
皇子はがくり、と崩れ落ち
そのまま卒倒した。




