24話 僕のもの?
「どこへ行くつもりかな、公爵?
出ていく前に――婚約解消の手続きを済ませてもらおうか?」
皇子は喉の奥で笑いながら言った。
そう。
“契約を結んだ相手には手出ししない”。
しかし――あの場に公爵夫人(エミリアの母)はいなかった。
(つまり……皇子は“殺せる相手”を先に押さえていた……)
すべてお見通し。
私たちの行動も、逃げるタイミングも、契約の穴も。
「さぁ、公爵。
契約書にサインを。
時間以内にサインしなかったら……彼女がどうなるか、分かっているよね?」
大時計を見上げ、わざとらしく指でとんとんと叩く。
公爵様は悔しさで顔を歪め、私へ
「……すまない」と小さく呟いてから、震える手で署名を始めた。
ペン先が紙を走る音だけが、やけに大きく響く。
そして――サインが終わる。
皇子は、まさに勝者の笑み。
「これで婚約破棄は正式に成立!!
我が婚約者はリアナだ!!」
高らかな宣言と同時に、打ち合わせしていた一部の貴族たちが歓声を上げた。
「おめでとうございますー!!」
「いや……めでたいのか……?」
「でも皇子殿下が言うなら……」
会場は戸惑いごと飲み込まれ、拍手が広がる。
皇子はリアナへ向き直り、ねっとり笑う。
「君の作戦を僕が見抜けなかったとでも?
さぁ、リアナ。これで君は“僕のもの”だ。
ずっと、可愛がってあげるからね」
リアナの肩に手が伸びかけた――その瞬間。
ゴーン ゴーン ゴーン……!
0時の鐘が鳴り響いた。
次の瞬間。
どたどたどたどた!!
大勢の兵士たちが、舞踏会会場へ雪崩れ込んできた。
「な、何事だ!?」
皇子が叫んだ瞬間――
ガシャン!!
槍の穂先が、一斉に皇子へと向けられた。
「なっ……!?
皇子である私に槍を向けるなど、貴様ら――!」
私の肩を抱き寄せながら怒鳴る皇子。
だが――
「皇子?
皇妃を殺し、民の命を人質に取る者に、
この私が皇位を渡すとでも思ったのかね?」
会場の空気を裂いて、落ち着いた重い声が鳴り響いた。
――皇帝陛下だった。
「父上!?なぜここに!!」
皇子は慌ててリアナの顔を見るが、彼女はうつむいたまま動かない。
皇帝は兵に顎で合図した。
「さぁ、大人しく捕まれ」
皇子は狂ったように剣の柄をつかむと、引き抜いた。
「来るな!!
来れば――この帝都の民が全員死ぬ……っ!!
皇家の剣が光り輝き、呪いが発――」
そこで、皇子は息を呑んだ。
剣は――光っていなかった。
本来なら“皇族の血”を捧げた時点で、眩い光を放つはずの神器が。
「な……なぜ光らない!?
なぜだ!? なぜなんだリアナ……!!」
ぎぎぎ、と音がしそうなほど顔を引きつらせながら、
リアナへと縋りつくように見た。
そして。
静かに、ゆっくりと顔を上げたリアナは――
「ごめんねぇ♡ 皇子様♡
私のほうが二枚も三枚も上手だったみたぁい♡」
ぶりっ子ポーズでウィンクした。
その瞬間――
皇子の表情は絶望で凍りつくのだった。




