18話 勝利の確信|д゜)?
「――いやぁぁぁぁぁぁ!!」
森を引き裂くようなエミリアの悲鳴が轟いた。
闇の光が暴走し、彼女の身体から力が“むしられる”ように吸い上げられていく。
アルバートが必死に手を伸ばすが、渦巻く魔力の奔流が壁となって近づくことすら許さない。
「エミリアっ!!」
叫ぶ声は魔力の轟音に掻き消された。
その光景を、遠く皇城の暗室で眺めている者がいた。
皇子だ。
彼は、ただ静かに、満足げに笑った。
(これで強大な魔物が生まれる……公爵領は壊滅。
公爵も、その息子アルバートも、この場で死ぬ。
リアナが生き残ったとしても――あの規模の魔石から生まれる魔物は倒せまい。
逃げるのが精いっぱい。あとは“魔物を生んだ罪”を公爵家にかぶせ、リアナも罪人として取り込めばいい)
皇子の瞳は、穏やかな恋慕の色をしたまま、底なしに冷たい。
皇妃も隣で硬直していた。
「……すごいわ。ここまでの魔物になるなんて……。
皇子、これで邪魔者は全て消えるのね……!」
皇妃の声は震え、しかし期待に満ちていた。
映像の中では、魔石がメキメキと音を立てながら“変形”していく。
魔力の渦が闇の森全体を巻き込み、大地が震える。
兵士たちは恐怖で足をもつれさせながら逃げ惑う。
アルバートは剣を構えたまま歯を食いしばるしかない。
「チッ……なんて魔力量だ……っ!!」
リアナは腕で目を庇いながら、必死にエミリアへ近づこうとする。
だが魔力の奔流はまるで意志があるかのようにリアナを拒絶した。
「まずい……!ここまでの暴走……!」
公爵が叫ぶ。
皇子はそのリアナの姿を見て、ゆっくりと笑みを深くした。
「ほら……君は僕がいないと何もできない。
でも大丈夫。全部片付いたら……君は僕のもとに来るんだよ。リアナ」……と。
***
魔石の中心に亀裂が走り、闇の光が天を突き破った。
次の瞬間——
――黒い巨竜が誕生した。
大地を揺らすほどの咆哮。
漆黒の鱗、溢れ出す闇気、広がる翼――。
誰が見ても、一国どころか大陸すら滅ぼし得る“災厄”だった。
「ひっ……」「う、嘘だろ……!」
兵士たちが絶望で膝をつく。
皇子と皇妃は、勝利を確信したかのように息を飲んだ。
「ふふ……これで、公爵家は――」
「リアナ君のことだから、君だけは生き残ると信じてるよ」
皇子は優しげな声で呟く。
「これで死ぬなら……僕の運命の人じゃなかっただけのことさ」
その時だった。
竜が、ゆっくりとエミリアへと顔を向けた。
エミリアは力を吸われてふらふらと立つことすらできない。
「逃げろ!!エミリア!!」
アルバートが叫んだその瞬間。
巨大な竜は——エミリアに向かって首を垂れた。
そして。
「ぴぎゃぁ♪」
……嬉しそうに、鳴いた。
場の空気が止まった。
竜は、子犬のようにエミリアにすり寄り、頭をこつんと押しつけてくる。
「「…………へ?」」
その場にいた兵士たちの声がはもる。
皇子と皇妃の顔も、映像越しに固まった。
闇のドラゴンは、
——まるで“親を見つけた子ども”のように、
エミリアの足元にくっついて離れないのだった。
森に訪れた静寂。
破滅の象徴は、まったくの 無害(?) な従魔としてエミリアに懐いていた。
皇子の口元が、ぴくりと引きつる。
「……は?」
皇妃も青ざめる。
「ちょ、ちょっと……どういう……こと……?」
あまりに衝撃的すぎる光景に、
森中の誰もが言葉を失っていた。




