17話 罠?それとも……?
「エミリア様ぁ♡ みなさんにバフをお願いしまぁす♡」
森の中。アルバート様と同じ馬で、私はくねっとしてエミリア様に頼む。
「はい、いきます!」
エミリアが胸に手を当て、そっと瞳を閉じる。
次の瞬間——静寂を震わせるような澄んだ音が、森の空気に広がった。
光の粒が溢れ、アルバート様の部隊を包み込む。
「なるほど、これが話に聞いていたエミリアの闇のバフだね……」
アルバート様は驚きながらも納得したように頷く。
「はい! こちらから攻撃しなければ敵は向かってきません。
安全な道を通って、早くお父様を助けに行きましょう!」
エミリア様が心配そうにアルバート様に言う。
「わかった。みな、父上の捜索を最優先だ! 敵になるべく気づかれることなく森を進むぞ」
騎士たちが一斉に走り出す。
私はその背を見つめながら、内心で小さく息を吐いた。
(さて、あちらはどうでてくるかしら?)
森に満ちる闇気の中。私はアルバート様と一緒の馬に乗りながら森の中を駆け抜けた。
***
「計算通りだ」
帝城の一室で皇子は通信映像の中で、アルバート達が森へ駆けていく背中を見ながら低く笑った。
「本当にうまくいくの? アルバート。
もし失敗したら、皇位どころではなく……断頭台行きよ……?」
皇妃は蒼白になり、震える指で口元を押さえていた。
皇子は母に近づき、甘い声で囁く。
「安心してください、母上。
最終的には……必ずうまくいきます」
微笑みは優しいのに、瞳だけは一瞬も笑っていなかった。
「……わかったわ」
その言葉に、皇妃はしぶしぶうなずくのだった。
***
「くそっ!! 閉じ込められた!!」
公爵は怒号をあげ、目の前の結界を拳で叩いた。
透明な膜が歪むたびに光が弾ける。しかし破れない。
ここは森の中腹。
魔物と戦っていた瞬間、突如として強力な結界が展開し、彼らを閉じ込めたのだ。
そして——その中央には、さらなる結界に守られた巨大な魔法石。
その後方には《魔物生成核》が脈動している。
「公爵様……魔道士たちを総動員しても、結界がまったく溶けません!」
報告に来た騎士の顔は土気色に染まっていた。
「まずいなあそこにあるのは、国宝級の魔法石ではないか!」
公爵は息を呑む。
(エミリアの話では、“安物の魔法石”でさえエミリアの力を吸い上げて魔物を生み出した……。
もしあの国宝級の魔石がエミリアの力を吸い取ったら……公爵領どころか帝都すら壊滅する魔物が生まれかねない……!)
「……まさか、それが狙いなのか……!」
皇子の顔が脳裏をよぎり、公爵は顔を歪めた。
今ここで“エミリアが来てしまえば”——
彼女の莫大な闇属性が核に吸い上げられ、恐るべき魔物が誕生する。
「なんとしても破壊して——エミリアが来るのを止めねば!!」
公爵が叫んだ、その刹那。
「父上!!」
森を駆け抜ける足音。
アルバートが剣を抜きながら走りこんでくる姿があるのだった。
***
「来るな!! 罠だ!!!」
公爵の絶叫が森中に響き渡る。馬に乗って駆け付けたアルバートとリアナ、そしてエミリアに叫ぶ。
「何か言ってます!」
リアナが言って公爵の後ろに魔石があることに気づく。
「止まってください!もしかしてー!!」
リアナが言った瞬間——
結界中央に置かれた魔法石が、突如として禍々しい光を放った。
ごぉぉぉぉぉん——!!
空気が震え、黒い渦が魔石を中心に巻き起こる。
次の瞬間。
魔石が“エミリアの闇の力”を吸い始めた。
「っ……!」
エミリアの身体から黒い光が引き抜かれ、糸のように魔石へ吸いこまれていく。
「エミリア様!!」
「いや……来ちゃだめ……そんな、私……!」
膝が崩れ落ちるエミリア。
アルバートは即座に抱きとめながら、血の気が引くのを感じた。
(これは……まずい……!)
公爵が慌てる中、魔石の色が、不吉な深紅へと変わっていく。
まるで巨大な“何か”が胎動するように。




