16話 愛するレディ?(気持ち悪い)
「噂話が裏目に出たわ。公爵が正式に抗議を進めている。どうしたらいいの」
帝城の豪華な部屋で皇妃が苛立ちながら歩き回った。
「落ち着いてください、母上」
「落ち着いていられるわけがないでしょう!
公爵が敵に回れば、あなたの皇位継承は難しくなるのよ!」
そう、今まで皇子の皇位継承権が優位だった理由にエミリアとの婚約もあったのだ。
皇妃が苛立つのはむりもない。
けれど皇子は笑って答えた。
「方針は変わりません。あの光属性の少女を妃にします」
「その前に公爵に追及されて終わりよ!?
あの“録音”を公表されたらあなたは——」
皇妃が言うが
「公表させなければいいのです。もう手は打ってあります」
と、答える皇子のその声音には、年相応とは思えぬ冷酷さがあった。
「皇妃と皇子には圧力をかけておいた。
皇帝陛下がお戻りになるまで公爵家への追及は止むだろう。
これは全部君のおかげだ、リアナさん。この礼は改めてさせてほしい」
公爵閣下が穏やかに微笑む。
ここはエミリア様の別荘地。
闇の森にほど近いが、結界が張られた静かな避暑地だ。
夏休みの間、私はエミリア様の家に泊まらせてもらうことになった。
「わぁ〜、避暑地なんてすごいです〜♡ お招きいただきありがとうございます♡」
「帝都ではどんな嫌がらせがあるかわからないからね。ここは安全だよ。ゆっくりしてほしい」
アルバート様が柔らかく微笑む。
「それでは私は闇の森の定期巡回に行ってくる。アルバート、屋敷のことは任せたぞ」
と、手を振って離れていく公爵様。
「はい、父上」
「お気をつけて」
「いってらしゃ~い♡」
私たちは各々の言葉で見送るのだった。
「うわぁ〜★ すごいごちそうですぅ♡」
テーブルいっぱいの料理に、思わず声が弾む。
「どうぞ好きなだけ食べてくださいね」
エミリア様が嬉しそうに言うと、私は頬に手を添えながらぱくぱく食べ始めた。
全部美味しい。最近パン一個生活だったから、幸せが染みる。
しかも夏休み中は毎日これが食べられる……?最高では?
そんなことを考えながら食べていると
「デザートも今すぐ運ばれてきますから、遠慮なくどうぞ」
と、アルバート様が執事にお菓子を持ってくるように指示する。
「はぁい♡」
アルバート様の言葉に、私は幸せいっぱいで微笑んだ。
***
「……公爵閣下」
闇の森で見回り中の兵士が、険しい顔で駆け寄った。
「ああ、おかしいな」
公爵も地面を見つめる。
そこには、明らかに複数の馬の蹄跡が残されていた。
「我々の管理する領地だと知っての狼藉か……皇子派か」
公爵の瞳が鋭く細まる。本来ならこの規模の集団が森にはいるなら公爵に許可をとらないければいけないが、ここ最近そのような話はない。
「閣下、一度お戻りください。こちらで調査を——」
その瞬間。
がんッ!!
大地が――揺れた。
土煙が上がり、森の奥から“何か”が蠢く気配--そしてそれは現れるのだった。
***
「アルバート様、大変です!!」
私たちがほくほく顔で夕食に舌鼓をうっていると、部屋に騎士がなだれ込んできた。
「何事ですか?」
「公爵閣下が魔物の大群に取り囲まれました! 結界で守っていますが数が多すぎます! いますぐ援軍を!!」
「え……」「そんな……!」
エミリア様は蒼ざめ、震える手で口元を押さえる。
「わかった! すぐ行く! 兵士を集められるだけ集めてくれ!」
アルバート様が立ち上がった瞬間——
「はい、ちょっと待ってくださいね♡」
私がアルバート様の腕をがしっと掴んだ。
「え?」
「もちろん私たちも連れていってくださいね♡
特にエミリア様は、とっても役に立ちますよ♡
エミリア様の闇魔法バフをまとわせれば敵に襲われませんし」
私がウィンクすると、エミリア様もこくんと頷いた。
***
「……エミリアとリアナも救助に向かいました」
帝城の一室。皇妃と皇子の前で魔法使いが魔道具を操作し、映像を映し出す。
そこには、アルバートと共に森へ向かう二人の姿。
皇子はその光景を見て、口元を歪めた。
「ねぇ、リアナ。今まで君に後れをとったのは……それは僕が君の実力を知らなかったからだ」
ゆっくりと首を傾げ、笑う。
「実力を知った今、もう手加減しないよ。
愛するレディ?」
にんまりとした微笑みが、底知れない狂気を帯びていた。




