14話 報復怖い(にんまり)
「はぁい♡ それではここがポイントでぇす♪
小麦粉だけだと高くつくので、ここで“ハワの実”を混ぜると格安でお菓子が作れちゃいますぅ♡」
撮影機から流れてきた映像は――
可愛いポーズを連発しながら節約料理を作るリアナの映像だった。
「……な、なんだこれは……」
寝室で念のため映像を確認した皇子の顔は、見る見るうちに青ざめていく。
大聖堂で撮ったはずの映像が、一つもない。
そのとき、ビーッと通信魔道具が青く光り、カインの声が響いた。
『皇子、大変です! アルバートに……あの子が “皇子が虐めている” と告げ口したようです――』
再生された声に皇子は愕然とし、膝をついた。
(……は? まさか、まさか……
この僕が……“はめられた”というのか……!?)
がんっ!!
皇子は近くの花瓶を壁へ投げつけた。
派手な音とともに割れ、破片が床へ飛び散る。
「ありえない!! ありえない!!
この僕が後れを取るなんて――ありえないッ!!
あんな平民女に……っ!!」
『お、皇子……!?』
通信越しのカインの声は、皇子にはもう届かない。
(誇り高いこの僕が……平民女に劣る? そんなこと……あるはずが――)
しかし、崩壊しかけた矜持を必死で繋ぎとめようと、皇子の思考はねじれていく。
(……そ、そうだ。
あの女は珍しい“光属性”の持ち主。
特別な存在……?だから僕が負けたのか……?)
「そうだ……彼女は特別なんだ……」
『皇子?』
「ふ……ふふふ……ふふふふふ……そうだ。
彼女こそ……僕の運命の人……」
『……』
「運命の相手だよ、リアナ。
逃がさないからね」
そう言って録音機を踏みつけた。
***
「これは……酷い」
録音された皇子の声を聞き、エミリアの父は深く頭を抱えた。
皇子には何度も会ったことがある。
気配りができ、民想いで、優しい――
そう信じていた。
「学校でいじめられていたうえに、それを主導していたのが皇子だなんて……」
エミリアの母は悔しそうに唇を噛む。
「はい……私も驚きました。まさか学校で、こんな……」
アルバートは拳を握りしめた。
父はしばらく沈黙し、重く息を吐く。
「……今すぐエミリアを帰そう。
この件が片付くまでは休学だ。
第一皇子への支援も打ち切る。
皇帝陛下にも早急に伝えねばならんが……」
しかし皇帝は療養中。あと三ヶ月は戻らない。
「今、療養中の陛下に心労を与えるわけにはいかない……。
戻られてから報告するべきだな」
父は静かに結論を出した。
「リアナ嬢には……改めて礼をしなければ」
「はい。まったくその通りです」
アルバートの胸に浮かぶのは、あの時のリアナの笑顔。
『だって、友達が困ってるときに何かするって当然じゃないですか〜♡』
本当に――いい子だ。
「どう報いたらいいのか。謝礼は……受け取ってもらえませんでした」
兄が苦笑する。
「それなら……お菓子はどうかしら?」
母の言葉に、父と兄は同時に初日の“ほくほくお菓子リアナ”を思い出し、
「ああ……それだ」と頷いた。
***
「エミリア様が休学?」
お昼に誘いに行ったその日に、エミリア様のクラスで聞かされた。
「はい。学校で不当な扱いを受けている可能性があるため、公爵様が迎えに来られたとか」
「わかりました〜♡ ありがとうございますぅ♡」
教えてくれたクラスの子にお礼を言うと彼女がほっと微笑む。
エミリアのクラスメイト数名は真っ青な顔。
そりゃエミリア様にいままでやったことを公爵にチクられたら人生終わるもんね。
学校という閉鎖空間で感覚がマヒしてしまったのではあろうけど……
(いい気味♡)
内心で舌を出しつつ、私は立ち去るのだった。
――そう、原作でも家族は“気づくのが遅かっただけで味方だった。
虐めが露呈すれば、こう動くのが自然だ。
(……原作だと、この時期どうなってたっけ?)
私は記憶を探る。
物語の冒頭は“私と結婚したくて、邪魔なエミリアを冤罪にして婚約破棄した”ところ。
この“過去の詳細”は作中で断片的に語られるだけだった。
(でも……今は違うルートに入ってる。
エミリアの家族がちゃんと動いてくれてる……なら大丈夫――)
そこで私は立ち止まった。
(……待って。
エミリアを失ったらもしかして小説と同じで次のターゲットは私になる?)
血の気が引く。
皇子は窮鼠猫を噛むタイプ。
追い詰められればエミリア様が無理なら光属性の平民と!となる可能性は0じゃない。
(いや、まじあんなモラハラ男玉の輿だとしてもごめんだわ)
そんなとき――視界の端に“皇子の取り巻き”の生徒たちがいることに気づいた。
尾行されている。
(……ちゃんと悪い子には、最後まできっちり“お仕置き”しないとね。
それも――ズタズタになるまで。悪の芽は摘み取っておくのが大人としての義務ですもの♡)
私は心の中でほくそ笑んだ。




