13話 本当の勝者はだーれ☆?
小さい頃から、僕は何でも思い通りにできた。
優しい言葉をかけて相手を安心させ――
その裏では、自分の思う方向へそっと誘導する。
誰も僕の内心など知らない。
皆、僕の計画通りに動いてくれる。
それは、とても心地よい世界だった。
特にエミリアは、面白いほど掌の上で踊ってくれた。
ほんの少し傷つくよう仕向けて、
「君は悪くないよ」と優しい言葉をかければ――
簡単に僕に心酔してくれた。
公爵令嬢として申し分なく、将来の結婚相手としても完璧。
なのに――
あのリアナとかいう平民女が現れてから、すべてが狂った。
エミリアの僕への依存度は、明らかに減った。
そして今度は、虐めの証拠を“録音する”だって?
そんなものを掴まれたら……
エミリアは僕ではなく、あの平民女に心を開いてしまう。
(思い通りになると思うなよ、平民女)
最近、魔物騒動以降、エミリアに目に見えるいじめは一度止まっている。
このままでは録画のチャンスなどないだろう。
だったら、
録画されるように舞台を整えてあげればいい。
僕の掌の上で踊るのは――あの平民女だ。
皇子は自分の手のひらをみつめにんまりと笑うのだった。
***
びりびりびり――。
学園内の大聖堂室で、エミリアの教科書が無残に破られていく。
「最近、貴方ちょっと図に乗りすぎなのよ?」
虐め主犯の令嬢が、心底嬉しそうに紙を破りながら笑う。
(どうして……どうして、また……)
エミリアは悔しさで唇を噛み、視線を落とした。
“先生が呼んでいる”と聞いて来てみれば、
待っていたのは、この子たちだった。
「この間の魔物騒動も、貴方が呼び寄せたんじゃないの?
少し褒められたくらいで調子に乗らないで」
びりびりに破られた教科書を、令嬢はヒールで踏みつける。
ばりっ。
音だけで胸が痛くなる。
女生徒たちは、くすくすと笑いながら部屋を出ていった。
(……また皇子に……頼らなきゃ……)
エミリアは破れた教科書を拾い集める。
脳裏に浮かぶのは、皇子が微笑む顔。
『大丈夫だよ。全部僕が補填するから。
君の家族を心配させたくないだろう?』
(そうだ……皇子が、守ってくれる……)
追い詰められた心が、そこに縋る。
そうして彼女は気づかなかった。
――大聖堂の片隅に、本来いるはずのない人物が潜んでいることを。
***
「うふふ〜☆ 証拠ばっちり〜☆」
ピンク髪の平民女――リアナは、録画魔道具を手に小躍りしていた。
日時・撮影者の魔力・状況をすべて記録し、改ざんも不可能な高価品。
「これをお兄様に渡せば――」
リアナが言った瞬間。
「どうなるんだい?」
男の声。
「!?」
背後から聞こえた声に、リアナの体が跳ねる。
「……皇子!? なぜここに?」
「そんなこと、どうでもいいだろう?」
皇子は優雅に微笑んでいる。
だが瞳は、氷のように冷たい。
「君、自分が何をしたか理解しているのかい?」
「な、なんのことですか〜♪」
リアナはこっそり録画機を背に隠し、ぶりっ子ポーズでごまかす。
しかし皇子はにっこりと微笑んだまま――
その腕を掴み、録画機を奪い取った。
「あっ!?」
「これでもまだ白を切るつもりかい?」
「!?」
「大聖堂はね、“撮影禁止”なんだよ。
神への冒涜になるからね。
これは学園創立以来、誰にも覆せない決まりだ」
「な、何のことかわからないですぅ♡」
「この機材には撮影日・撮影者の魔力・時間が記録される。
つまり――君が“学園法違反をした決定的証拠”だ。
平民の君なら、一発退学だね?」
リアナは歯を食いしばった。
その姿が皇子の気分を高揚させる。
「どうして邪魔するんですか!?
エミリア様のために――家族に知らせたほうがいいに決まってるのに!!」
リアナの問いに皇子は冷たく笑った。
「ねぇリアナ。この撮影日撮影者までが記憶される録画機、誰に勧められて買ったか覚えてる?」
「それは……アルバート様の戦友の……」
その瞬間、リアナの顔色が青ざめた。
皇子は確信したように笑う。
「そういうこと。
“君のことなんて、全部把握している”ってことだよ。
これをばらされたくなかったら――僕に従いなさい。
エミリアにも、彼女の兄にも近づくな」
リアナは崩れ落ちた。
「もちろんこれで終わりだなんて思うなよ?
君にはこれから、“僕のために働いて”もらうからね?」
皇子は残忍な微笑みを浮かべ、部屋を後にした。
***
かつ、かつ、かつ。
勝利を確信した足取りで去っていく皇子。
私はその背中を見送り――ぎゅっと唇をかみしめた。
(……くるしい。なんで……)
胸が締め付けられる。
演技じゃない。
あの男の支配欲と嘲笑を目の前にするのは、本当に苦しかった。
でも。
扉が閉まり、皇子の気配が完全に消えた瞬間――
私は、
ずっと押し殺していた感情を、解き放つ。
「…………ぷっ…………ぶ、ぶふふふふっ……!!」
こらえきれず、声を漏らした。
つらかった。
本当に本当に、つらかった。
笑いをこらえるのマジきつかった!
だって。
皇子が自信満々に奪い取った“録画機の中身”は、
私がひたすら可愛く料理している三分クッキング映像♡
そして。
本命は、
私のポケットにこっそり忍ばせた《録音魔道具》。
確かに大聖堂は、“撮影”は禁止だけど、“録音”は禁止されてない。
つ・ま・り・私大勝利☆
それなのにあの勝利宣言は恥ずかしすぎて草生える。
私は録音機をそっと撫でた。
手に入れた音声は――
皇子がエミリアを依存させていた“マインドコントロールの告白”。
これで。
彼の悪行を、エミリアの家族に突きつけられる。
「坊やが、中身オトナの私に勝とうなんて……
100万年はやいですよぉ〜♡」
私はにっこり微笑んだ。




