10話 手作りお菓子で殿方のハートを射止めます♡(射止めてない)
「アルバート様、お菓子作ってきました♡ 食べてください♡」
「は、はぁ……ありがとう」
アルバート様が所属する騎士団の訓練場で、私はアルバート様にそっとお菓子を差し出した。
私の手作り(安上がり)お菓子に、アルバート様はほんのり頬をひきつらせつつも、礼儀正しく受け取ってくれる。
アルバート様は妹の友人である私を無碍にはできず、かといって恋仲になる気もない。
どう扱えばいいか困りながらも、誠実に対応してくれていた。
そして――これこそが、私の狙い。
エミリアのお兄ちゃんに媚び媚びしつつ、
さりげなく“エミリア様が虐められている”事実を家族へ伝える大作戦☆
気に入られたい一心で、いろいろ学校情報をチクっちゃいます♡ 作戦である。
エミリア様は性格的に、家族には心配をかけまいと黙り込む。
皇子の圧力があるから学友も動けない。
そして私が「虐められてます」といきなり言っても、平民の私では説得力が弱い。
ならば――
“媚び売り女だからこそ知り得た情報”として伝えるのが一番自然!
もともと媚キャラ設定なので違和感なし。
むしろヒドインのリアナだからこそ成立する戦略♡
我ながらヒドインの解像度が正確で完璧である。
「おー、今日もまた彼女か」
アルバート様の親友、カイン様が茶化すように近づいてきた。
「い、いや、そういうわけじゃ――」
アルバート様が慌てて否定しようとする。
私はうふっと手を胸の前で組み、
「いつかそうなる予定です♡ 応援してくださいね?」
とウィンクしてみせる。
カイン様はひゅうっと口笛を吹き、
「モテモテでうらやましいなぁ」
と楽しげに笑った。
「あ、あの……リアナ。お菓子を持ってきてくれるのは嬉しいんだけれど」
「もしかして……迷惑、ですか?」
うるうると上目遣いで見上げると、アルバート様は途端に困り顔になる。
うふふ。妹の友達を邪険にできない“兄心”、思う存分利用させていただきます。
「それにアルバート様。ここだけのお話なのですが……」
そっと目配せし、
「エミリア様、学園でいじめに遭っている可能性があります」
耳打ちすると、アルバート様の眉間がぐっと寄った。
「それは、本当かい?」
「私だけの話では信じてもらえないかもしれませんので……。
アルバート様のほうでも調べてもらえますか?
私も出来るだけ守りますけど~、平民だと限界があって……」
そう言って彼の腕に軽く抱きつき、上目遣いで甘える。
アルバート様は真剣な表情で、強く頷いた。
***
「エミリア。君……あの平民の子を家に呼んだって本当かい?」
学校の帰り、馬車の中でエミリアは皇子に問い詰められていた。
「は、はい……。その、断る間もなく話が進んでしまって。でも、変にたかられるとかはありませんでした」
慌てるエミリアに、皇子はふっと優しげに笑う。
「もちろん、君の友人関係に口を出すつもりはないよ。ただ心配しただけだから、誤解しないで。でも最近、彼女を見かけないね」
「それが……兄のことをとても気に入ったみたいで」
「お兄さんを?」
「はい。学校帰りに、直接兄の訓練場へ行っているみたいです」
そう言って、エミリアはどこか寂しげに微笑む。
皇子はわずかに目を細めた。
(……くそ。逆に厄介だ。
エミリアと仲良くしているなら、どうにでも“管理”できたのに。
エミリアにとって一番信頼の厚い“兄”と接触されたら――
学園でのいじめを伝えられる可能性がある)
「そっか。君が大変じゃないならいいんだよ」
優しく微笑みながら、
(――あの女、潰さないと)
と心の奥で静かに決意した。




