第97話:覚醒の代償
「――ルナ!」
俺は、意識を失い、ぐったりと倒れ込むルナの体を、必死に抱きとめた。
腕の中に収まった彼女の体は、驚くほど軽く、そして熱かった。ペンダントの力を無理やり解放した代償か、その小さな体は、生命力そのものを燃やし尽くしたかのように、深く、深く消耗しきっていた。
「ルナ! しっかりしろ、ルナ!」
俺は何度も彼女の名前を呼ぶが、その瞼は固く閉じられたまま、開く気配はない。ただ、荒い呼吸だけが、彼女がかろうじて生きていることを示していた。
「ユウキさん、ルナさんは……!」
爆風で吹き飛ばされ、壁に体を打ち付けていたリリスが、ふらつきながら駆け寄ってくる。彼女の顔にも、絶望の色が浮かんでいた。
俺は、意識のないルナを抱きしめながら、ただ、呆然としていた。
スキルを封じられ、絶体絶命だった俺を救ったのは、彼女の力だった。
守られるだけだったはずの少女が、俺を守るために、その命を懸けた。
その事実が、俺の胸を、万力で締め付けるかのように痛めつけた。
これは、俺のせいだ。
俺が、もっと強ければ。俺が、アイカの刺客の対策を、もっと完璧に読んでいれば。彼女に、こんな無茶をさせることはなかった。
(……守る、と誓ったはずなのに)
結局、俺はまた、守られる側になってしまった。
この少女の、優しさと強さに、またしても救われてしまった。
自責の念が、黒い泥のように、俺の心にまとわりつく。
「……クソッ!」
俺は、自分の無力さに、心の底から悪態をついた。
だが、今は後悔に浸っている場合じゃない。
ルナの体は、どんどん熱を失い、冷たくなっていっている。一刻も早く、安全な場所で手当てをしなければ。
「リリス、立てるか」
「は、はい……! なんとか……」
「隠れ家まで、案内しろ。最短ルートでだ」
俺は、意識のないルナを慎重に背負い、立ち上がった。
驚くほど軽い。この小さな体に、あれほどの力が眠っていたというのか。そして、その力の代償が、これほどの消耗だというのか。
俺は、彼女の存在の重さを、その計り知れない力の大きさを、改めて痛感していた。
彼女は、もう俺の「パートナー」という枠にさえ、収まりきらない存在なのかもしれない。
リリスは、そんな俺たちの様子を、複雑な表情で見つめていた。
彼女もまた、ルナの覚醒を目の当たりにした一人だ。
アルテミス家の血が持つ、伝説の力。それが、ただの言い伝えではなかったという事実。そして、その力が、どれほど大きな代償を伴うものなのか。
その全てが、彼女の肩に、新たな責任としてのしかかってきているようだった。
俺と、ルナと、リリス。
三人の関係は、この一件で、より深く、そしてより複雑に絡み合っていく。
俺は、背中でか細い寝息を立てるルナの温もりを感じながら、固く、固く、誓った。
(……もう二度と、お前にこんな無茶はさせない)
俺が、お前を守る。
今度こそ、絶対に。
そのためなら、俺は悪魔にだってなってやる。
俺は、自責の念を、彼女を絶対に守り抜くという、新たな決意へと変え、リリスの先導で、隠れ家へと続く暗い荒野を、ひたすらに歩き始めた。




