表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/113

第92話:王都の胎動

ユウキたちが、魔族領の奥深くで世界の運命を左右する「鍵」を手に入れていた、その頃。

遥か東のアークライト王国王都では、巨大な権力構造を内側から揺るがす、小さな胎動が始まっていた。


夜の王城。

若い衛兵レオンは、心臓が張り裂けそうなほどの緊張を押し殺し、聖騎士団の副団長執務室へと続く廊下を歩いていた。

懐にしまった、小さな騎士団の印。それが、投獄された英雄マサルから託された、あまりに重い希望の証だった。


「――失礼します! ゲルハルト副団長閣下!」


レオンが扉の前で声を張り上げると、中から「入れ」という、低く、そして疲労の滲んだ声が返ってきた。

部屋の中では、聖騎士団副団長ゲルハルトが、机に山と積まれた書類を前に、苦虫を噛み潰したような顔で座っていた。齢五十を超え、歴戦の傷跡が刻まれたその顔には、最近の王城の空気を反映したかのような、深い心労の色が浮かんでいる。


「……何の用だ、小僧。今は取り込み中だ」

ゲルハルトは、顔も上げずに言った。


「はっ! 緊急にご報告したい儀が! どうか、人払いをお願いできないでしょうか!」

レオンの必死な声に、ゲルハルトは初めて訝しげに顔を上げた。一介の衛兵が、副団長に人払いを要求するなど、前代未聞だ。だが、レオンの瞳に宿る、ただならぬ覚悟の色を読み取ったのだろう。彼は、しばらくレオンを無言で見つめた後、小さくため息をついた。


「……分かった。下がれ」

その一言で、室内にいた他の側近たちが、一礼して静かに退出していく。


二人きりになった部屋で、ゲルハルトは探るような目でレオンを睨みつけた。

「で、話とは何だ。つまらんことなら、ただでは済まさんぞ」


レオンは、ごくりと唾を飲み込むと、懐からマサルに託された騎士団の印を取り出し、震える手でゲルハルトの机の上に置いた。


「……! これは、マサル殿の……!」

ゲルハルトの表情が、驚愕に変わる。


レオンは、マサルから教えられた合言葉を、一言一句間違えぬよう、はっきりと告げた。

「『偽りの太陽は沈み、真実の夜明けが来る。星の導きを待て』……と」


その言葉を聞いた瞬間、ゲルハルトの顔から、完全に血の気が引いた。

それは、かつて彼が、若き日のマサルに騎士の心得を説いた際に、冗談半分で交わした合言葉。二人しか知らない、誓いの言葉だった。

マサルが、生きている。そして、戦おうとしている。

その事実が、ゲルハルトの心に、激しい衝撃となって突き刺さった。


「……そうか。あやつ、まだ……」


ゲルハルトは、マサルの投獄に、誰よりも強く反対していた。王子のやり方は、あまりに横暴で、正義にもとる、と。だが、彼の声は、王子の絶対的な権力の前では、あまりに無力だった。

しかし、マサルは諦めていなかった。牢獄の中から、この国の正義を取り戻すための、反撃の狼煙を上げようとしていたのだ。


「……若者よ。よく、届けてくれた」

ゲルハルトは、レオンの肩を強く掴んだ。その目には、再び騎士としての、闘志の炎が燃え上がっていた。

「マサル殿の真意、確かに受け取った。我らも、もう黙ってはおれん」


その日を境に、王都の水面下で、静かな、しかし確実な動きが始まった。

ゲルハルトは、王子派閥の横暴に不満を抱き、マサルの無実を信じる騎士たちを、一人、また一人と、密かに集め始めた。それは、王国の心臓部で育つ、反乱の火種だった。


---


一方、王城の最上階。

大賢者アイカは、第三研究所での一件を、第一王子に報告していた。その隣には、『影の猟犬』のリーダー、ゼノンが静かに控えている。


「――私のゴーレムが、破壊された、と?」

王子の声には、苛立ちの色が隠せない。


「はい。ユウキの未知のスキルによるものです。私の計算を、完全に超えていました」

アイカは、淡々と、しかしその声にはわずかな悔しさを滲ませて答えた。


「全く、使えん男だと思っていたが、とんだ置き土産を残してくれたものだ」

王子が舌打ちする。


そこに、ゼノンが静かに口を挟んだ。

「殿下。我らの情報網が、ユウキたちの新たな足取りを捉えました。彼らは、国境を越え、魔族領へと入った模様です」


「何? 魔族領だと?」

その報告に、アイカが眉をひそめる。

「……なるほど。王国に追われ、今度は魔族に助けを乞う、というわけですか。どこまでも非合理で、感傷的な男ね」


彼女は、心底つまらなそうに、しかしその瞳の奥には冷たい光を宿して言った。

「ですが、好都合ですわ。魔族と手を組んだとなれば、もはや彼らは王国にとって完全な『敵』。魔族もろとも、まとめて消去すればいいだけの話」


ゼノンが、優雅に一礼する。

「はっ。すでに、手は打っております。魔族領に精通した、新たな『駒』を、彼らの元へ送り込みました。今度こそ、逃しはしません」


ユウキたちが、魔族領で新たな「鍵」を手に入れたことなど、知る由もなく。

王国では、着実に、そして静かに、内乱の足音が響き始めていた。

物語は、誰にも予測できない、新たな局面へと、向かおうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ