第90話:地味チートVS伝説
「さあ、始めようか。伝説の壊し方を、教えてやる」
俺の言葉を合図に、リリスが覚悟を決めた顔で印を結び、幻術の詠唱を開始した。
彼女の足元から淡い光が広がり、ゴーレムの巨大な水晶の瞳――そのセンサーの前に、俺たち三人とそっくりな、しかし実体のない幻影を複数作り出した。
「――グォォ……?」
ゴーレムは、突如として現れた複数のターゲットに戸惑うように、その動きをわずかに止めた。そして、最も近くにいた幻影に向かって、その巨大な鉄球を振り下ろす。
もちろん、その攻撃は空を切り、轟音と共に地面を砕くだけだ。
「よし、かかった!」
その隙を、俺は見逃さない。
「ルナ、頼む!」
「うん!」
ルナから流れ込んでくる魔力を全身に巡らせながら、俺は【無名のスキルメーカー】で、この「解体作業」に必要なスキルを即座に生成する。
(「概念:短剣術」と「速度」を組み合わせる!)
> **【生成完了:『【無名:短剣術強化 Lv.1】』】**
(「概念:精神」と「概念:集中」を組み合わせる!)
> **【生成完了:『【無名:一点集中 Lv.1】』】**
二つのスキルを同時に発動させ、俺は地面を蹴った。
『構造解析』によって青いラインで可視化された、ゴーレムの弱点。まずは、その巨体を支える右足の膝関節だ。
俺は、幻影に気を取られているゴーレムの死角に滑り込むと、『一点集中』で狙いを定め、強化された短剣を、関節の継ぎ目に寸分の狂いもなく突き立てた。
ガギィィン!
耳障りな金属音が響き渡る。
派手な破壊ではない。だが、確かに、何かが断ち切れるような手応えがあった。
ゴーレムの右足の動きが、ほんのわずかに、しかし確実に鈍くなる。
「すごい……本当に、動きが……」
リリスが、信じられないものを見るように呟いた。
「私の幻術が、あの伝説の守護者に通用してる……!」
「当たり前だ。お前は、俺が認めた幻術の使い手なんだからな」
俺は、息を切らしながらも、彼女に檄を飛ばす。
「気を抜くな、リリス! 次は左だ! あいつの注意を左に引きつけろ!」
「は、はい!」
俺の言葉に、リリスは再び集中力を高め、幻影を巧みに操ってゴーレムの意識を左側へと誘導する。
巨体が、ぎこちない動きで左を向いた。そのがら空きになった背後から、俺は再び駆け寄り、今度は左足の膝関節を同じように破壊した。
これを、何度も、何度も繰り返す。
リリスが幻術で敵のセンサーを狂わせ、俺がその隙に弱点である関節部を一つずつ、確実に破壊していく。
右腕の肩、左腕の肘、腰の回転軸。
派手な魔法も、強力な剣技もない。ただひたすらに、地味で、地道な解体作業。
伝説の守護者は、その圧倒的なパワーを振るうこともできず、まるで手足をもがれる虫のように、徐々にその動きを失っていく。
ガコン、と音を立てて右腕がだらりと垂れ下がり、ギチギチと悲鳴を上げていた腰の動きが完全に止まる。
「なんて……なんて戦い方なの……」
リリスは、その光景に完全に言葉を失っていた。
一族の誰もが、その圧倒的な力の前にひれ伏すしかなかった伝説の存在が、目の前で、まるでただの機械を解体されるかのように、無力化されていく。
それは、彼女が今まで見てきたどんな戦いとも違う、あまりに常識外れで、そして狡猾な戦術だった。
やがて、ゴーレムは両手両足の関節をほとんど破壊され、ただの巨大な石の塊となって、その場に立ち尽くすだけとなった。
「……終わりだ」
俺は、動きの止まったゴーレムの胸部――装甲のわずかな隙間から、その内部へと侵入した。
内部は、複雑な歯車とパイプラインが迷路のように入り組んでいる。そして、その中央で、全ての動力を司る巨大な制御核が、禍々しい紫色の光を放っていた。
俺は、そのコアに、そっと右の手のひらを当てる。
そして、アイカのゴーレムを葬った、あのスキルを発動させた。
『【無名:共振破壊】』
「――眠れ。古の鉄クズ」
スキルが発動すると、コアが持つ固有の振動数に、俺の魔力が共振していく。
ピシ、ピシッ、と。
コアの表面に、無数の亀裂が走り始めた。
そして、次の瞬間。
キィィィィン! という、全ての音を塗り潰すような甲高い共振音と共に、制御核は内部から弾けるようにして、光の粒子となって霧散した。
主を失ったゴーレムの巨体が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
頭部の水晶の瞳から、すぅっと赤い光が消えていくのを、俺は静かに見届けた。
伝説の、終わり。
俺は、完全に沈黙した鉄の塊の中で、静かに勝利を確信した。




