表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/113

第80話:奪われた魔石、そして新たな『鍵』

「どうしたんだい、ユウキ君。君のその場しのぎのスキルでは、私の練り上げた戦術は、超えられないようだね」


ゼノンの嘲るような声が、渓谷に響き渡る。

まずい。完全に、手詰まりだ。俺の奇策は、この男の知略の前にことごとく見破られ、無力化されていく。このままでは、俺たちが消耗しきるのが先だ。


(……まだだ。まだ、手はある)


俺は、この絶望的な状況の中で、最後の賭けに出ることを決意した。

それは、俺のスキルと、魔族の幻術、そしてこの地形を組み合わせた、一か八かの奇策。


「リリス! 聞こえるか!」

俺は、岩陰から叫んだ。

「もう一度、幻術を! 今度は、奴の足元に、底なしの沼の幻を!」


「えっ……!? でも、そんなことをしたら……」

リリスの戸惑う声が聞こえる。同じ幻術は、一度見破られた相手には通用しにくい。


「いいからやれ! 俺を信じろ!」


俺の必死な声に、リリスは一瞬だけためらった後、「……わかった!」と力強く答えた。

再び、ゼノンと兵士たちの足元で、空間が陽炎のように揺らめき始める。


「また幻術か。芸がないな」

ゼノンは、鼻で笑った。

「そんなものに、二度も――」


彼が、そう言いかけた、その瞬間。

俺は、ルナから供給される最後の魔力を振り絞り、スキルを発動させた。


「――お前の立っている『理屈』ごと、崩れてしまえ!」


『【無名:地盤沈下】』。

だが、狙いは兵士たちではない。ゼノン、その本人の足元、ただ一点。

そして、俺が操作したのは「地面」の強度だけではなかった。


(「概念:地面」と「概念:幻術」を、強制的に『同調』させろ!)


ズブッ、と。

ゼノンの足元が、本当に沼に沈むかのように、不自然に陥没した。

リリスが見せた「沼の幻」と、俺が起こした「地盤沈下」という現実。二つの事象が同調し、彼の認識を、ほんの一瞬だけバグらせたのだ。


「なっ……!?」


初めて、ゼノンの顔に、純粋な驚愕の色が浮かんだ。

彼が、足元の異変に気を取られた、そのコンマ数秒の隙。

それこそが、俺が作り出した、唯一にして最大の勝機だった。


「――今だッ! 全員、かかれぇぇぇっ!」


岩陰から、オルデンの咆哮が響き渡る。

その号令を合図に、今まで息を潜めていた魔族の戦士たちが、獣のような雄叫びを上げながら、一斉に王国兵たちに襲いかかった。


指揮官であるゼノンの思考が、一瞬だけ途切れた。

その隙を突かれた王国兵たちは、もはや統率の取れた精鋭部隊ではなかった。魔族たちの、人間離れした身体能力と、復讐の炎に燃える猛攻の前に、次々と薙ぎ倒されていく。


渓谷は、あっという間に、血と断末魔の悲鳴に満たされた。


「……見事だ、ユウキ君」


部下たちが全滅していく中で、ゼノンは、陥没した地面から体を引き抜きながら、まるで美しい芸術でも見るかのように、俺に拍手を送っていた。

「私の負けだ。まさか、幻術と君のスキルを同調させ、私の認識を誤作動させるとは。私の計算を超えていたよ」


俺は、魔力を使い果たし、ふらつく体を壁に預けながら、荷馬車を指差した。

「……魔石は、渡してもらう」


すると、ゼノンは、不敵な笑みを浮かべた。

「ああ、それかい? 残念だが、それはただの『おとり』だよ」


「何……?」


オルデンが、荷馬車の扉をこじ開ける。

だが、その中は、空っぽだった。あるのは、ただの重石代わりに積まれた、ガラクタの山だけ。


「本命は、とうの昔に、別のルートでこの渓谷を抜けている。君たちがこのおとりに夢中になっている間にな」

ゼノンは、優雅に衣服の埃を払う。


「今回は、部隊を失った私の負けだ。だが、君たちの目的も、潰させてもらった。痛み分け、といったところかな」

彼はそう言うと、懐から転移用の魔道具を取り出した。


作戦は、失敗した。

魔族たちの間に、落胆と怒りの空気が広がる。

だが、俺は、ゼノンのその余裕綽々の態度を見ながら、最後の情報を引き出すために、【概念の翻訳者】を発動させ続けていた。


(……今回は、な。だが、この程度の『石』は、まだいくつもある)

(所詮、あれらは『天を穿つもの』を共鳴させるための、ただの増幅器に過ぎん)

(本当の『鍵』は、もっと別の場所……。確か、魔族領の奥深くにあるという、始祖の祭壇に……)


ゼノンの、勝利を確信した思考の断片。

それが、俺の脳内に、新たな情報として刻み込まれていく。


「では、また会おう、ユウキ君。次に会う時は、君のその面白いスキルも、完全に対策させてもらうよ」


光と共に、ゼノンの姿が消える。

後に残されたのは、壊滅した輸送部隊の死体と、作戦が失敗したという、重い現実だけだった。


「クソッ! 逃げられたか!」

オルデンが、悔しそうに地面を殴りつける。


だが、俺は、静かに口元に笑みを浮かべていた。


「……いや、勝ちだ。俺たちの、な」


俺は、ふらつく足で立ち上がった。

「魔石は奪えなかった。だが、俺はもっと重要な情報を手に入れた」


俺は、オルデンとリリスに向き直り、告げた。

「魔石は、一つじゃない。複数ある。そして、それらを共鳴させるための、別の『鍵』が、あんたたちの故郷――魔族領の、さらに奥深くにあるらしい」


その言葉に、オルデンとリリスは、息を呑んだ。

失われた魔石。そして、新たに示された、希望の在処。

俺たちの戦いは、まだ終わってはいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ