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出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


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第77話:魔族の隠れ家

リリスに導かれるまま、俺たちはタルガの街の地下に広がる、迷路のような下水道を進んだ。湿った空気と、時折響く不気味な水音。追手の気配はもう感じないが、緊張の糸は緩められなかった。


やがて、リリスは古びたレンガの壁の一角で足を止めた。彼女が壁の特定の場所に手を触れると、ゴゴゴ、と低い音を立てて、壁の一部が横にスライドし、隠された通路が現れた。


「……こちらです」


通路の先は、下水道の悪臭が嘘のような、乾燥した空気で満たされていた。そこは、天然の洞窟を拡張して作られたであろう、広大な地下空間だった。壁には淡い光を放つ苔が植えられ、いくつかの区画に分かれて、人々が生活している痕跡が見える。子供たちの小さな笑い声や、食事の支度をする匂い。ここが、追われた魔族たちの隠れ家か。


俺たちの姿を認めると、隠れ家にいた魔族たちが一斉に警戒の表情を浮かべ、武器に手をかけた。人間。それも、王国側の人間。彼らにとって、俺たちは敵以外の何物でもないのだろう。


「待って、みんな! この人たちは、私を助けてくれた恩人よ!」

リリスが、慌てて皆の前に立ちはだかる。


その時、隠れ家の最も奥から、杖をついた一人の老魔族がゆっくりと姿を現した。その顔には深い皺が刻まれ、頭の角は片方が根元から折れている。だが、その瞳には、一族を率いる者だけが持つ、厳しい威厳と深い知性が宿っていた。


「……リリス。その者たちは?」

長の低い声が、洞窟に響く。


「お爺様。この方たちが、私を王国兵から……」

リリスが事情を説明すると、長は俺たち、特に俺の顔をじっと見据えた。その視線は、俺の本質まで見透かそうとするかのように鋭い。


「……礼を言う、人間の若者よ。孫娘が世話になった」

長は、ゆっくりと頭を下げた。

「わしはこの『月影』の一族を束ねる、オルデンという。して、なぜ『影の猟犬』に追われるお主らが、この街に?」


俺は、隠す必要はないと判断し、単刀直入に答えた。

「王子派閥の悪事を暴き、奴らの計画を阻止するためだ。そのために、この街にある『記憶』を探しに来た」


俺の言葉に、オルデンと名乗った長は、目を見開いた。

「……王子派閥を、阻止する、だと?」


彼は、何かを決意したように、俺たちを隠れ家の奥にある小さな部屋へと招き入れた。そして、重い口を開き、自分たちの身の上を語り始めた。


「我ら『月影』の一族は、代々、幻術を得意とし、森の奥で静かに暮らしてきた。だが、数年前から、王子直属の騎士団による『魔族狩り』が始まった。多くの同胞が、理由もなく捕らえられ、連れ去られていった」


その話を聞きながら、俺は王立魔道具研究所の地下で見た、あの地獄のような光景を思い出していた。


「我らは、必死に抵抗し、そして逃げた。なぜ、我らが狙われるのか、分からぬまま……。だが、最近になって、捕らえられた同胞の一部が、命からがら逃げ出してきたのだ。そして、語ってくれた。自分たちが、王都の研究所で、何の『材料』にされたのかを」


生体実験。

その言葉を、オルデンは憎悪に満ちた声で口にした。

「そして、その実験を主導しているのが、勇者の一人、【大賢者】アイカであるということもな」


やはり、繋がった。

王子とアイカは、禁忌の魔道具を復活させるための実験材料として、特殊な能力を持つ魔族を狩っていたのだ。


「我らは、復讐を誓った。同胞の無念を晴らし、我らの故郷を奪った、王子と大賢者に、必ずや報いを……」


オルデンの話を聞きながら、俺の心の中では、冷たい計算が始まっていた。

共通の敵。共通の目的。

彼らは、俺たちにとって、この上ない協力者になり得る。


だが、同時に、人間不信の俺が、警鐘を鳴らしていた。

こいつらも、人間ではないが、結局は同じだ。俺たちを利用するだけ利用して、目的を果たせば切り捨てるかもしれない。信じるな。期待するな。


俺が、警戒心と打算の狭間で揺れていると、ふと、隣に立つルナの気配に気づいた。

彼女は、オルデンの話を聞きながら、リリスの手を、いつの間にか強く握りしめていた。その瞳には、同じように家族を奪われた者への、深い共感と悲しみの色が浮かんでいる。彼女は、彼らを信じている。心の底から。


(……また、こいつか)


俺の心を揺さぶるのは、いつも、この少女の真っ直ぐな瞳だ。


「……いいだろう」

俺は、大きく息を吐き、決断した。


「あんたたちの話、信じてやる。だが、これは同盟じゃない。あくまで、利害の一致による、一時的な共闘関係だ。俺たちは、俺たちの目的のためにあんたたちを利用する。あんたたちも、好きに俺たちを利用すればいい。それで、いいな?」


俺の、あまりに打算的な物言いに、リリスは戸惑いの表情を浮かべた。

だが、長のオルデンは、俺の目をじっと見つめ返すと、やがて、深く頷いた。


「……それで、構わん。若者よ、お主のその濁った目、気に入った。信じられるのは、綺麗事よりも、剥き出しの利害だ」


こうして、俺たちと魔族の一族との間に、奇妙な共同戦線が張られた。

それは、信頼ではなく、打算と共通の憎悪によって結ばれた、脆く、しかし確かな絆だった。


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