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出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


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第75話:投獄された正義

その頃、アークライト王国の王城では、一人の男が己の信じる正義を胸に、無謀ともいえる行動を起こしていた。

勇者【聖騎士】、マサル。


彼は、聖騎士の権限を使い、第一王子への謁見を強く求めた。

玉座の間で、大理石の床に膝をつきながら、マサルは固く拳を握りしめていた。彼の心の中では、王子への忠誠心と、聖騎士としての正義感が、激しくせめぎ合っていた。


(王子殿下は、断じて不正を働くようなお方ではない。だが、あの研究所の金の流れは、あまりに不自然すぎる。俺は、聖騎士として、この国の正義を守らねばならない……!)


やがて、玉座の間の重い扉が開き、第一王子が悠然とした足取りで姿を現した。


「顔を上げよ、マサル。聖騎士であるそなたが、これほど性急に余との謁見を望むとは、一体何事かな?」

王子の声は、いつもと変わらず、威厳と優しさに満ちているように聞こえた。


マサルは意を決して顔を上げ、王子の目をまっすぐに見据えた。

「はっ。恐れながら、王子殿下に申し上げたき儀がございます」


「申してみよ」


「先日、王立魔道具研究所を視察した際、会計記録に不自然な点を発見いたしました。『第三研究所』なる、存在しないはずの施設へ、毎月のように巨額の資金が流れております。これはいかなる理由によるものでしょうか!」


マサルの、実直で、揺るぎない声が、玉座の間に響き渡る。

その言葉を聞いた瞬間、王子の表情から、すっと笑みが消えた。


「……ほう。そなた、そこまで調べたか」

王子の声の温度が、数度下がったのをマサルは感じた。


「して、その情報をどこで得た? まさかとは思うが……先日、王都から逃亡したという、あの『出来損ない』に唆されたのではあるまいな?」


ユウキ。

その名前を出された瞬間、マサルの心臓が大きく跳ねた。市場で出会った、あの謎の青年の顔が脳裏をよぎる。


「なっ……! それは、違います! 私は、聖騎士として、この国の正義を……!」


「黙れ」


王子の、凍るように冷たい一言が、マサルの言葉を遮った。

玉座の間の空気が、一瞬にして張り詰める。


「そなたの言い分はこうだな。反逆者として追われるユウキと接触し、その甘言に乗せられ、王家に対して疑念を抱いた。そして、国家の機密を暴こうとした。違うか?」


「違います! 俺は、ユウキとは……!」


「まだ言うか。衛兵!」


王子の号令と共に、玉座の間の四方から、屈強な近衛兵たちが姿を現し、マサルを取り囲んだ。


「聖騎士マサルを、反逆者として捕らえよ! 奴は、出来損ないの勇者ユウキと共謀し、この王国を転覆させようと企んだ、大罪人だ!」


「な……!? お待ちください、王子殿下! 何かの間違いです!」


マサルは、必死に叫んだ。だが、その声は、王子の冷酷な笑みの前では、あまりに無力だった。

近衛兵たちに腕を掴まれ、床に押さえつけられる。聖騎士としての誇りも、力も、絶対的な権力の前では何の意味もなさなかった。


「残念だよ、マサル。そなたの正義感は、美徳だと思っていたが……時には、それは愚かさの裏返しでしかないのだな」


王子は、心底がっかりしたというように、しかしその瞳の奥では楽しむように、マサルを見下ろしていた。

「地下牢へ連れて行け。いずれ、ユウキと共に、民の前でその罪を償わせてやろう」


---


冷たく、湿った地下牢。

マサルは、手足に重い枷をはめられ、独房の冷たい石の床に打ち捨てられた。

自分が信じていた「正義」が、いかに脆く、権力者の都合の良いように捻じ曲げられるものだったか。それを、彼は今、骨の髄まで痛感していた。


絶望が、彼の心を支配する。

俺は、間違っていたのか。

王子殿下を疑った、俺が。


だが、その闇の中で、彼の脳裏に、あの青年の言葉が鮮明に蘇った。

『あんたの言う正義とやらが、誰かを不幸にしていないと、どうして言い切れる?』


そうだ。

ユウキは、生きていた。

そして、彼は、この国の腐った闇と、たった一人で戦っていたのだ。

俺は、その戦いから目を逸らし、権力者の甘い言葉だけを信じていた、ただの愚か者だった。


「……ユウキ……」


マサルの口から、かつての友人の名前が、懺悔のように漏れた。

絶望の闇の底で、しかし、彼の瞳には、新たな光が灯り始めていた。


(まだ、終われない)


たとえ、この牢獄の中からであろうと、俺にできることがあるはずだ。

聖騎士としての力は奪われた。だが、俺にはまだ、この国の内情を知る知識と、そして、ユウキという希望がいる。


マサルは、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、もはや絶望の色はなかった。

それは、偽りの正義と決別し、真実のために戦うことを決意した、一人の戦士の目だった。


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