表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/65

第62話:闇を照らす光

その夜、俺は悪夢にうなされていた。

アイカの冷たい声が、頭の中に響き渡る。

『出来損ないの勇者ユウキの排除は合理的判断だった』


違う。そんなはずはない。

俺たちが日本にいた頃、彼女はいつも図書室の隅で静かに本を読んでいた。クラスの誰とも馴染もうとしない俺に、唯一、気さくに話しかけてくれたクラスメイト。

『黒崎君の考え方、面白いね』

そう言って、屈託なく笑っていたはずじゃなかったのか。


場面が切り替わる。

親友だった斎藤が、恋人だった美咲が、俺を裏切ったあの日の光景。

『あなたって、最低の人間ね』

軽蔑しきった視線が、俺の心を抉る。


やめろ。

もう、やめてくれ。


俺は、底なしの闇の中を、ただ一人で落ちていく。

誰も信じられない。誰も愛せない。

孤独。絶望。憎悪。

黒い感情が、俺の意識を完全に飲み込もうとしていた。


その、深い闇の底で。

ふと、自分の手が、温かい何かに包まれているのを感じた。

それは、か細く、しかし確かな温もり。

この温もりを、俺は知っている。


---


ルナは、眠りながらも苦しげに呻くユウキの姿を、ただ黙って見つめていた。

自暴自棄になり、自分を突き放そうとした彼の姿は、かつての自分と重なって見えた。

信じていたものに裏切られ、全てを失い、心を閉ざすしかなかった、孤独な自分。


(……一人に、しない)


彼女は、どうすればいいか分からなかった。

気の利いた言葉をかけることも、彼を慰める魔法を使うこともできない。

彼女にできるのは、ただ一つだけ。


ルナは、床に投げ出されたユウキの冷たい手を、自分の小さな両手で、そっと包み込むように握りしめた。

そして、一晩中、その手を離さなかった。

かつて、彼が自分の心の闇を照らしてくれたように。

今度は自分が、彼の闇を照らす光になるのだと、心に誓いながら。


---


夜が明け、窓の隙間から差し込む朝の光が、俺の瞼を優しく揺さぶった。

重い意識が、ゆっくりと浮上してくる。

悪夢の残滓が、まだ頭の中にこびりついていたが、不思議と、昨日までの絶望感は薄れていた。


最初に感じたのは、自分の右手が、温かいものに包まれているという感覚だった。

俺は、ゆっくりと視線をそちらへ向ける。


そこには、俺の手を両手で大事そうに握りしめたまま、すぐそばの床で、こくりこくりと小さな寝息を立てているルナの姿があった。

どうやら、一晩中、こうしていてくれたらしい。


その、健気な姿を見た瞬間。

俺の意思とは関係なく、【概念の翻訳者】が、眠っている彼女の無意識の思考を拾い上げた。


> **【概念:対象ルナの思考】**

> **【概念:ユウキへの揺るぎない信頼と献身】**

> **【概念:彼が再び立ち上がってくれることへの絶対的な肯定】**

> **【概念:何があっても、彼と共に在りたいという純粋な願い】**


悪意も、打算も、憐れみさえもない。

ただ、ひたすらに純粋で、温かい、光のようなデータ。

アイカの裏切りによって再び凍り付いた俺の心が、その温かい光に照らされて、ゆっくりと、しかし確実に溶かされていくのを感じた。


馬鹿な奴だ。

あんなに突き放したのに。

裏切られるかもしれないと、あれほど言ったのに。


それでも、こいつは俺を信じると言うのか。

俺の、パートナーでいると。


俺は、空いている左手で、眠るルナの亜麻色の髪を、そっと撫でた。

彼女は、くすぐったそうに、少しだけ身じろぎした。


そうだ。

俺は、一人じゃなかった。

たとえ世界中の人間が俺を裏切ったとしても、この少女だけは、きっと俺のそばにいてくれる。

この温もりがある限り、俺はまだ、戦える。


「……ありがとう、ルナ」


俺は、誰に聞かせるともなく、そう呟いた。


「……もう、大丈夫だ」


俺は、静かに立ち上がった。

心に巣食っていた闇は、まだ完全には消えていない。

だが、その闇の底で、確かに燃える一つの小さな光があった。


俺は、その光を道標に、再び立ち上がる決意を固めた。

裏切った者たちへ、正当な報いを。

そして、俺を信じてくれる、このたった一人のパートナーのために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ