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出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


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第59話:再会とすれ違い

グレイが手配した潜入ルートは、王都の下水道を経由するという、お世辞にも快適とは言えないものだった。だが、そのおかげで俺たちは誰にも気づかれることなく、再びこの忌々しい王都の土を踏むことができた。


隠れ家は、下町の雑然としたアパートの一室。窓からは、白亜の王城が遠くに見える。あの場所が、全ての元凶。俺は、静かに燃える憎悪を胸に、改めて気を引き締めた。


「ルナ、行くぞ。姿を変える」


俺は【無名のスキルメーカー】で以前生成した『【無名:ミスディレクション】』を発動させる。俺の黒髪と黒い瞳は、この世界ではありふれた茶髪と茶色の瞳に。顔立ちの印象も、どこにでもいる平凡な青年へと誤認されるように変化した。ルナにも同じスキルをかけ、彼女の美しい銀髪を、くすんだ亜麻色へと偽装する。


「これで、俺たちはただの田舎から出てきた兄妹だ。いいな?」

「……うん」


俺たちは、王立魔道具研究所の場所と、周囲の警備体制を確認するため、人混みの中へと紛れ込んだ。

活気のある大通り。行き交う人々。何も知らずに笑い合う家族連れ。

この平和な光景の裏で、世界を破滅させかねない計画が進行している。その事実に、俺は言いようのない吐き気を覚えた。


研究所の周辺は、予想通り警備が厳重だった。俺は、建物の構造や衛兵の交代時間を冷静に分析していく。

その、帰り道だった。

市場の雑踏の中、俺はふと、見覚えのある後ろ姿に気づき、足を止めた。

陽の光を浴びて輝く、見事な金髪。そして、その背中がまとう、聖騎士の称号を持つ者だけが許される、白銀の鎧。


「……マサル……」


思わず、その名が口をついて出た。

俺と同じ、日本から召喚された勇者の一人。猪突猛進で、お人好しで、誰よりも正義感の強い男。

【聖騎士】の職業クラスと、【聖剣技】のスキルを与えられた、正真正銘の「勇者」。


関わるべきではない。俺はすぐに踵を返そうとした。

だが、運命とは皮肉なものだ。人波に押された子供が、マサルの足元にぶつかって転んでしまう。


「おっと、大丈夫かい、坊や」


マサルは、嫌な顔一つせず、屈んで子供を助け起こし、優しく頭を撫でている。

相変わらずの、お人好し。

その光景に、俺の足は縫い付けられたように動かなくなっていた。


その時、マサルが立ち上がろうとして、近くにいた商人の荷車にぶつかり、積み上げられていたリンゴが数個、地面に転がり落ちた。


「おっと、すまない!」


マサルが慌ててリンゴを拾おうとする。俺は、ほとんど無意識に、その一つを拾い上げていた。


「……どうぞ」

俺がリンゴを差し出すと、マサルは「ああ、すまないな、助かる!」と、屈託のない笑顔を俺に向けた。

その笑顔は、俺が知っている、裏切りを知らない善良な男の、そのままの笑顔だった。


「君、見ない顔だが、旅の人かい? 王都は初めてか?」

「……まあ、そんなところだ」


「そうか。近頃は物騒だから、気をつけるんだぞ。……特に、王城から逃げ出したっていう、勇者の噂もあってな」

マサルは、声を潜めて、どこか悲しそうに言った。

「俺は、あいつが良い奴だったと信じている。何か、深い事情があったはずなんだ。もし、あいつが生きていたら……俺は、もう一度話をしたい。そして、王子殿下の誤解を解くために、力を貸したいんだ」


その言葉に、俺の心が、ぐらりと揺れた。

こいつは、信じてくれていたのか?

俺が、いなくなった後も。


だが、その感傷を打ち砕くように、【概念の翻訳者】が、彼の思考を無慈悲にテキスト化する。


> **【概念:対象マサルの思考】**

> **【概念:友人ユウキの身の上への純粋な同情と憐れみ】**

> **【概念:王子殿下の正義への絶対的な信頼】**

> **【概念:出来損ないの勇者を正しい道へ導きたいという善意】**


……ダメだ。

こいつの善意は、本物だ。だが、それは、王子が「正しい」という前提の上に成り立っている、独りよがりな善意。

今の俺が真実を話したところで、こいつは俺ではなく、王子を信じるだろう。そして、俺を「哀れな友人」として、王子の元へ連れて行こうとするに違いない。


俺たちの間には、もう決して埋めることのできない、深い溝ができてしまっていた。


「……人違いじゃないか。あんたの友人は、もう死んだのかもしれないぜ」


俺は、凍るように冷たい声で、そう言い放った。


「え……?」

マサルが、俺の豹変した口調に、戸惑いの表情を浮かべる。


「あんたの言う正義とやらが、誰かを不幸にしていないと、どうして言い切れる?」


俺はそれだけを告げると、リンゴをマサルの手に押し付け、ルナの手を引いて人混みの中へと歩き出した。


「あ、おい! 待ってくれ!」


背後からマサルの声が聞こえたが、俺はもう振り返らなかった。

再会と、すれ違い。

かつての仲間は、もう、俺の敵でしかない。

俺は、心の奥で何かが軋むのを感じながら、雑踏の中へと姿を消した。


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