第52話:反撃の狼煙
「記憶の再生……。そして、魔力の増幅……」
俺は、覚醒したペンダント『アストライアー』の機能と、辺境伯の日記に記されていた内容を、頭の中で反芻する。
点と点が、線として繋がっていく感覚。
王子派閥の最終目的は、禁忌の魔道具『天を穿つもの(ロンギヌス)』の復活。
そのために、奴らは古代遺跡の発掘を進めている。
そして、辺境伯は、その動きを秘密裏に調査していた。
このペンダントは、その調査の過程で、父君が訪れた場所や、触れた物に残留した「記憶」を再生するための鍵なのだ。
日記に記された情報が「線」だとしたら、このペンダントで再生される記憶は、動かぬ「証拠」となる。
「……そういうことか」
俺は、全てを理解した。
これは、もはやアルテミス家の復讐という、個人的な問題ではない。
もし、王子たちが本当に『天を穿つもの』を復活させれば、その力で他国への侵攻を開始するだろう。そうなれば、この国だけでなく、世界中が戦火に包まれることになる。
それは、世界全体を巻き込む、巨大な災厄の始まりだ。
「ユウキ……?」
俺が黙り込んだままなのを見て、ルナが不安そうに俺の顔を覗き込む。
俺は、彼女の目を見て、静かに、しかし力強く言った。
「……戦うぞ、ルナ」
「え……?」
「これはもう、あんたの家の復讐だけの話じゃない。俺たちが、この世界の不条理に、反撃するための戦いだ」
俺の心に、黒い炎が再び燃え盛るのを感じていた。
だが、それはもう、ただの人間不信や絶望からくる冷たい炎ではなかった。
俺を裏切り、絶望の淵に突き落とした、この世界そのものへ。
そして、同じように、理不尽に全てを奪われたこの少女の運命へ。
その全てに、抗うための、熱い怒りの炎だった。
「俺は、もう逃げない。奪われるだけの人生は、もう終わりだ。俺は、俺の力で、この腐った運命を、世界を、変えてみせる」
俺の宣言に、ルナは息を呑んだ。
だが、すぐに、その瞳に俺と同じ、強い決意の光を宿した。
「……うん。私も、戦う。ユウキと、一緒に」
俺たちは、長老に向き直った。
「長老。俺たちは、行く。王子たちの野望を阻止するために」
長老は、俺たちの覚悟を認めると、深く、深く頷いた。
「……承知いたしました。姫君と、そのパートナー殿の意志、確かに見届けました。この里の者一同、お二人のご武運を、心よりお祈りしております」
俺は、覚醒した『アストライアー』を、ルナの首にそっとかけた。
蒼く輝くペンダントが、彼女の胸元で、確かな存在感を放っている。
「最初の目的地は、どこだ?」
俺が尋ねると、ペンダントに触れたルナの脳裏に、ぼんやりとしたイメージが流れ込んできたようだった。
「……古い、砦……。石造りの、大きな……」
古い砦。
おそらく、辺境伯が最初に調査した、古代遺跡の一つだろう。
そこへ行けば、新たな「記憶」が、そして次なる道筋が示されるはずだ。
俺たちは、里の者たちに見送られ、再び旅支度を整えた。
もう、追手に怯えるだけの逃亡じゃない。
これは、反撃の狼煙を上げるための、俺たちの最初の戦いだ。
俺は、隣に立つパートナーの手を強く握りしめた。
「行くぞ、ルナ」
「はい、ユウキ」
二人は、守りから攻めへと転じるための、新たな旅へと、決意を胸に踏み出した。




