第51話:記憶のペンダントと地味チートの真価
父の遺言を受け止め、ルナは静かに涙を拭った。その顔にはもう、悲しみだけの色はない。父の意志を継ぎ、戦うことを決意した者の、静かな強さが宿っていた。
俺たちの視線は、テーブルの上に残された、もう一つの遺産へと注がれる。
蒼い鉱石が埋め込まれた、銀細工のペンダント。
日記が「意志」を継ぐものだとしたら、このペンダントは、それを実行するための「力」となるもののはずだ。
「長老、このペンダントについて、何か他に言い伝えは?」
俺が尋ねると、長老は静かに首を振った。
「いえ……。ただ、アルテミス家の血を引く姫君にしか扱えぬ『鍵』であるとしか。我らも長年、その力を解き明かそうと試みましたが、叶いませんでした」
俺はペンダントを手に取り、意識を集中させる。【概念の翻訳者】を発動させ、その本質を読み解こうと試みた。
> **【概念:魔力増幅器(未覚醒)】**
> **【概念:記憶再生の鍵(不活性)】**
> **【概念:アルテミス家の血との同調が必要】**
断片的な情報。だが、重要なキーワードがそこにはあった。
未覚醒。不活性。そして、同調。
ただ持っているだけでは、これはただの装飾品に過ぎないということか。
「ルナ、これを」
俺はペンダントをルナに手渡した。彼女がおずおずとそれを受け取ると、ペンダントに埋め込まれた蒼い鉱石が、ふわりと一度だけ、微かに光を放った。
「おお……!」
長老たちが、息を呑む。
だが、変化はそれだけだった。ペンダントはすぐに元の静かな輝きに戻り、沈黙してしまう。
「……どうやら、ただ触れるだけじゃ駄目らしい」
必要なのは「同調」。彼女の魔力と、このペンダントを、完全に一つにする必要がある。
だが、そんな都合のいい魔法など、この里の者たちが知らないのなら、俺が知るはずもない。
――いや、違う。
知らなくても、俺には「創る」ことができる。
俺は、自分の持つ力の本当の価値を、改めて認識した。
伝説の武器でも、強力な魔法でもない。
だが、この【無名のスキルメーカー】は、どんな伝説や血筋でも解き明かせなかった謎を解く、唯一無二の「鍵」になり得る。
「ルナ、もう一度それを握って、魔力を流し込んでみろ。できるだけ強く」
「え……? うん、わかった」
ルナが言われた通りにペンダントを強く握りしめる。
俺は、その彼女の手の上に、自分の手を重ねた。そして、意識を集中させ、頭の中に新たな概念を組み上げる。
(「概念:魔力」と「概念:同調」を組み合わせる!)
> **【合成中…】**
> **【生成完了:『【無名:魔力同調 Lv.1】』】**
> 説明:二つの異なる魔力の波長を強制的に同期させ、一体化させる。
俺は、生成したスキルを、ルナとペンダントに向かって発動させた。
「――今だ、ルナ!」
俺の言葉に、ルナがペンダントに魔力を注ぎ込む。
スキルが、彼女の魔力とペンダントが発する魔力の波長を、無理やり一つの流れへと束ねていく。
「……っ!」
ルナの手の中のペンダントが、これまでとは比べ物にならないほどの、眩い蒼い光を放ち始めた。
まるで呼吸をするかのように、鉱石が脈動し、その輝きを増していく。
「な、なんということだ……!」
「ペンダントが……覚醒していく……!」
長老たちが、信じられないものを見るように、その光景に釘付けになっている。
やがて、光が収まった時。
ペンダントは、その姿をわずかに変えていた。銀細工はより複雑な紋様を描き、中央の鉱石は、深淵を思わせるほどの深い蒼色を湛えていた。
俺は、再び【概念の翻訳者】を発動させる。
> **【名称:記憶のペンダント『アストライアー』】**
> **【機能:記憶再生の鍵(覚醒済)】**
> 説明:特定の場所や物に残留した、強い思念(記憶)を再生する。
> **【機能:魔力増幅(アルテミス限定)】**
> 説明:アルテミス家の血を持つ者の魔力を増幅し、術の行使を補助する。
これだ。これこそが、遺産の真の姿。
過去の記憶を再生する鍵と、ルナの力を増幅させる触媒。
これさえあれば、父君が遺した日記の情報を補強し、王子派閥の悪事を暴くための、さらなる証拠を掴めるかもしれない。
俺の地味なスキルが、何百年も眠っていた遺産を、ついに目覚めさせた。
それは、派手な戦闘能力よりも、よほど価値のある「力」の証明だった。
俺は、覚醒したペンダントを手に、静かに、しかし確かな手応えを感じていた。




