第49話:遺産の正体
『導きの灯火』は、不思議な炎だった。
燭台ごと手に持っても熱くなく、その光は、まるで生きているかのように、俺とルナの心に直接温もりを伝えてくるようだった。
俺たちは、その灯火を掲げ、迷いの洞窟を後にした。
入り口で待っていた長老は、俺たちが二人揃って、そして灯火を手にしている姿を認めると、深く刻まれた皺をさらに深くして、安堵の息を漏らした。
「……お見事でございます。これでお二人が、アルテミス家の遺産を継ぐに値する、正統な後継者とそのパートナーであることが証明されました」
長老は、俺たちを里の最深部へと案内した。
そこは、大樹の根が絡み合うようにして形成された、天然の祭壇のような場所だった。中央には、苔むした石造りの台座が一つ、静かに鎮座している。
「さあ、姫君。その灯火を、台座へ」
長老に促され、ルナは緊張した面持ちで頷くと、ゆっくりと台座に近づいた。
そして、燭台を台座の中央にある窪みへと、そっと置く。
その瞬間。
台座に刻まれていた複雑な紋様が、灯火の光に呼応するように、一斉に青白い光を放ち始めた。ゴゴゴ、と地響きのような低い音が響き、台座がゆっくりと沈み込んでいく。
やがて、台座があった場所には、一抱えほどの大きさの、黒曜石で作られた箱が現れた。
これが、アルテミス家の「遺産」。
反撃の狼煙となる、希望。
長老が厳かに箱の蓋を開けると、中には、二つのものが納められていた。
一つは、分厚く、そしてひどく古びた革張りの日記。
もう一つは、手のひらほどの大きさの、蒼く輝く特殊な鉱石が埋め込まれた、銀細工のペンダント。
「……これが、遺産?」
俺は、思わず拍子抜けしたような声を上げた。
金銀財宝でも、伝説の武具でもない。ただの日記と、ペンダント。これが、一体どうやって反撃の狼煙になるというのか。
長老は、そんな俺の心中を見透かしたかのように、静かに言った。
「富や力は、いつか失われます。ですが、意志と記憶は、受け継がれ、未来を創る力となる。辺境伯様は、そう信じておられました」
ルナが、震える手で、その古びた日記をそっと手に取った。
それは、彼女の父親が遺した、最後の想い。
彼女は、日記を胸に抱きしめ、再び瞳に涙を浮かべていた。
俺は、もう一つの遺産であるペンダントを手に取った。
埋め込まれた蒼い鉱石は、ひんやりとしており、内部で淡い光が明滅している。魔力を帯びていることは確かだが、その用途は全く分からない。
「このペンダントは?」
俺が尋ねると、長老は静かに首を振った。
「我らにも、分かりませぬ。ただ、辺境伯様の日記と共に、アルテミス家の血を引く者にしか解き明かせぬ『鍵』であるとだけ、伝えられております」
日記と、鍵。
謎は、まだ解けていない。
だが、俺たちの手の中には、確かに、未来へと繋がる「何か」があった。
俺は、涙ぐむルナの肩をそっと抱いた。
「……大丈夫だ。俺が、必ず解き明かしてやる」
俺のスキルがあれば、この日記も、ペンダントの謎も、きっと解読できるはずだ。
俺たちは、顔を見合わせ、強く頷き合った。
父が遺した意志を胸に、二人は、この国に隠された真実と、そして王子派閥の黒い野望に、立ち向かう決意を新たにする。
反撃の時は、近い。




