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出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


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第3話:壊れた道具

王城を脱出して、数日が過ぎた。


昼は森に隠れ、夜の闇に紛れて移動する。食料は、道中で見つけた木の実や、かろうじて狩れた小動物。追手の気配はもう感じないが、心身は確実にすり減っていた。孤独と疲労が、じわじわと俺の精神を蝕んでいく。


このまま一人で生きていくのは、いずれ限界が来るだろう。


そんな考えが頭をよぎった頃、俺は国境近くの荒れた街――ザラーム自由都市の衛星都市の一つにたどり着いた。城壁はなく、様々な人種が入り乱れ、活気と同時に危険な匂いが渦巻いている。衛兵の姿もまばらで、ここでは力が全てなのだと肌で感じた。


だが、俺はその空気にむしろ居心地の良ささえ覚えていた。誰も他人に無関心。ここでは、俺が元勇者だろうと逃亡者だろうと、誰も気にしないだろう。


宿を取り、数日ぶりにまともな食事と寝床を手に入れた俺は、今後のことを考えた。

仲間が欲しい、などとは微塵も思わない。信じれば裏切られる。あの地獄は二度とごめんだ。


だが、孤独は思考を鈍らせる。一人ですべてをこなすのは非効率だ。荷物持ち、見張り、雑用……誰かが必要だ。しかし、感情を持つ人間は不要だ。


――そうだ、道具を手に入れよう。


命令に忠実で、文句を言わず、そして決して裏切らない「道具」。

壊れても心が痛まず、惜しげもなく捨てられるような、安物の「道具」が。


その冷たい結論にたどり着いた俺は、街の裏通りにある奴隷市へと足を運んだ。

鉄の檻に入れられた獣人、鎖で繋がれたエルフ、力なく座り込む人間。様々な種族が「商品」として並べられ、値踏みする客たちの汚い欲望に晒されている。反吐が出る光景だが、俺の心は何も感じなかった。


俺はただ、自分の目的に合致する「道具」を探す。

屈強な戦士奴隷は高いし、反抗のリスクがある。美しい女奴隷は、面倒な感情のもつれを生む可能性がある。


そんな風に品定めをしながら市場の奥へ進んだ時、俺の足が止まった。

隅の方に、まるで打ち捨てられたガラクタのように、一人の少女が座り込んでいた。年の頃は十五、六だろうか。薄汚れたローブをまとい、長い銀髪は艶を失ってパサパサになっている。痩せ細り、頬はこけ、顔色は土気色だ。


だが、何より目を引いたのは、その瞳だった。

虚ろで、何も映していない。喜びも、悲しみも、怒りも、絶望さえも。ただ、そこにあるだけのガラス玉のようだ。


首にかけられた木札には『ルナ』という名前と、『銀貨五枚』という破格の値段が書かれていた。他の奴隷が金貨で取引されている中で、明らかに異常な安さだ。


俺がルナに意識を向けると、視界の隅に無機質なテキストが流れ込んできた。


> **【概念:対象個体ルナ】**

> **【概念:国政の裏切り者の娘】**

> **【概念:精神崩壊による言語機能の欠損】**

> **【概念:長期の虐待による極度の衰弱】**

> **【概念:商品価値皆無と判断されたための最低保証額】**


【概念の翻訳者】が、彼女の全てを「データ」として俺に提示する。

なるほど。元貴族で、裏切り者の烙聞を押され、精神が壊れて喋ることもできない。だから、この値段か。


普通なら、憐れみや同情を抱く場面なのだろう。

だが、俺の心は凪いでいた。それは俺にとって、ただの「情報」でしかなかった。


壊れている。

心が無い。

安い。


――完璧だ。

これこそ、俺が求めていた「道具」そのものじゃないか。


これなら、裏切られる心配はない。感情を向けられることもない。もし壊れたとしても、銀貨五枚の損失で済む。俺の心が傷つくことは、決してない。


俺は懐からなけなしの銀貨を数え、迷うことなく奴隷商人の元へ向かった。


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