第27話:連携と信頼
「チッ……!」
奇襲を仕掛けてきた盗賊の体勢が崩れた一瞬を、俺は見逃さなかった。床を蹴り、懐に潜り込むと同時に、右手の短剣を奴の心臓めがけて深々と突き立てる。盗賊は声にならない呻きを上げて崩れ落ちた。
だが、安堵する暇はなかった。
ルナの叫び声と、俺が敵を仕留めた物音で、アジトの奥にいた連中がこちらの存在に気づいた。複数の荒々しい足音が、洞窟の通路に響き渡る。
「ユウキ、もっと来る!」
背後から、ルナの切羽詰まった声が飛ぶ。
「どこからだ!数は!」
俺は、死体の陰に身を隠しながら、短く問い返した。
「あっち!……角の向こう、二人!」
ルナが、震える指で通路の先を指差す。スキルで強化された彼女の聴覚が、壁の向こうの敵の数を正確に捉えていた。
二人。同時に相手にするのは危険だ。
俺は、腰のポーチから煙幕用の玉を取り出し、ルナが指差した方向へと投げつけた。パン、と乾いた音を立てて、通路が濃い白煙に包まれる。
「ゲホッ、ゲホッ! なんだこりゃ!」
「クソッ、目が見えねえ!」
煙の中から、盗賊たちの狼狽した声が聞こえる。
「右の一人、壁際まで後退した!」
ルナの声が、煙の中の敵の位置を正確に知らせる。
俺は、その言葉だけを頼りに、煙の中へと飛び込んだ。そして、ルナが告げた通りの壁際にいた盗賊の首筋を、一閃のもとに切り裂く。
「なっ……!?」
もう一人の盗賊が、仲間が殺されたことに気づいて短剣を振りかぶる。だが、その動きは俺の目には止まって見えた。
(こいつは、俺の背中に目を持っているのか……?)
驚くべきことだった。
俺は、ルナの言葉を一切疑っていなかった。彼女が「そこだ」と言えば、そこに敵がいる。その絶対的な確信が、俺の動きから一切の迷いを消し去っていた。
これまで、俺は常に一人だった。
誰にも頼らず、誰も信じず、自分の五感だけを頼りに生き延びてきた。背後を預けるなど、自殺行為に等しいと思っていた。
だが、今は違う。
ルナという、もう一つの「感覚」が、俺の死角を完全にカバーしている。
この感覚は、奇妙な高揚感を俺にもたらしていた。それは、信頼という、俺がとうの昔に捨てたはずの感情。
「……左! もう一人、来た!」
ルナの鋭い声が、俺を現実に引き戻す。
見ると、別の通路から、新たな盗賊が一人、こちらへ向かってきている。
俺は、煙幕から飛び出した盗賊と、新たな増援との挟み撃ちになる形だった。
「ルナ、下がってろ!」
俺は叫びながら、まず目の前の盗賊を仕留めるべく剣を構える。
だが、その盗賊は、俺を通り過ぎてルナの方へと向かおうとした。非力な彼女を人質に取るつもりだ。
「――させるか!」
俺は、地面を蹴って盗賊の進路に割り込む。
そして、俺が目の前の敵に集中している、その背後から。
もう一体の盗賊が、音もなく忍び寄り、剣を振り上げていた。
「ユウキ、うしろ!」
ルナの叫びと、俺が振り返る動作は、ほぼ同時だった。
俺は、背後の敵の姿を確認することさえせず、ただルナの言葉を信じて、体を捻りながら短剣を振るう。
ガキン! と、甲高い金属音が響く。
俺の短剣が、見えない位置から振り下ろされた敵の剣を、完璧なタイミングで弾き返していた。
信じられないほどの、連携。
まるで、長年組んできた相棒のように、俺たちの思考と感覚は、完全に一つになっていた。
俺は、体勢を崩した敵の喉元に、容赦なく短剣を突き立てた。
これで、ひとまずは片付いたか。
俺は、荒い息を整えながら、背後のルナを振り返った。彼女は、まだ恐怖で顔を青くしていたが、その瞳は、まっすぐに俺を見つめ返していた。
その瞳に宿る、絶対的な信頼の色を見て、俺は、この関係からもう逃れられないことを、はっきりと悟った。




