第25話:相棒としての初仕事
「相棒」として、俺たちは再出発した。
だが、その関係はまだ、ひどくぎこちなく、形のないものだった。俺はルナへの接し方に戸惑い、ルナは俺の顔色を窺うように、まだどこかおどおどしている。
この関係を確かなものにするには、実績が必要だ。
二人で何かを成し遂げるという、共通の経験。
俺は、左腕の傷が癒えるのを待って、再びギルドの依頼ボードの前に立っていた。隣には、新しいワンピースを着たルナが、静かに佇んでいる。
「……これにするか」
俺が指差したのは、『盗賊団のアジトの偵察』という依頼だった。
近隣の街道で商人を襲っている盗賊団がいるらしい。ギルドは討伐隊を組む前に、まず彼らのアジトの場所と規模を正確に把握したいようだ。報酬は金貨十五枚。ゴブリン討伐に比べれば見劣りするが、今の俺たちにはちょうどいい。
「討伐じゃないのか?」
依頼書をカウンターに持っていくと、受付の猫人族の女性が意外そうな顔をした。
「偵察だけだ。戦闘は避ける」
「ふぅん。あんた、この前のゴブリンの件で懲りたのかと思ったけど。まあ、そっちの方が賢明な判断かもね」
彼女の言葉を適当に聞き流し、俺は依頼を受注した。
宿に戻る道すがら、俺は隣を歩くルナに声をかけた。
「ルナ。今回の依頼は、お前にも働いてもらう」
彼女の肩が、びくりと震えた。だが、すぐに俺の顔を見上げ、こくりと頷く。その瞳には、以前のような怯えではなく、緊張と、そしてわずかな決意の色が浮かんでいた。
宿の部屋に戻り、俺は地図を広げて作戦を説明する。
「盗賊団のアジトは、この辺りの岩場にあるらしい。俺が潜入して内部の様子を探る。お前は、その間、俺の援護をしろ」
「援護……?」
ルナが、か細い声で問い返す。
「そうだ。お前は、俺の『目』と『耳』になるんだろう?」
俺はそう言うと、意識を集中させて【無名のスキルメーカー】を発動させた。ルナの能力を補助し、彼女を本当の意味で俺の「目」と「耳」にするためのスキルを作成する。
(「概念:聴覚」と「概念:増幅」を組み合わせる)
> **【合成中…】**
> **【生成完了:『【無名:聴覚強化 Lv.1】』】**
> 説明:対象の聴覚を一時的に強化し、微かな物音を聞き取りやすくする。
(「概念:気配」と「概念:察知」を組み合わせる)
> **【合成中…】**
> **【生成完了:『【無名:気配察知(微弱) Lv.1】』】**
> 説明:対象の感覚を鋭敏にし、敵意や殺気といった微弱な気配を感知しやすくする。
俺は、生成した二つのスキルを、ルナに向かって付与した。彼女の体が淡い光に二度包まれる。
「……!」
ルナが、驚いたように目を見開いた。自分の耳に手を当て、きょろきょろと周囲を見回している。
「……いろんな、音が……聞こえる……」
「人の、気配が……わかる……?」
彼女の聴覚と感覚が、スキルによって強化されたのだ。
俺は、そんな彼女の目を見て、はっきりと告げた。
「いいか、ルナ。俺は、潜入中は目の前のことに集中する。だから、お前は俺の死角をカバーしろ。俺に近づく敵の足音、殺気、俺が見逃し、聞き逃すすべての危険を、その耳と感覚で捉え、俺に知らせるんだ」
それは、俺が初めて、誰かに自分の背中を預けるという宣言だった。
俺の言葉に、ルナはごくりと唾を飲み込んだ。そして、緊張に強張っていた彼女の顔に、確かな意志の光が灯る。
「……わかった。やって、みる」
その力強い返事に、俺は静かに頷いた。
主と道具ではない。
俺とルナ。二人で一つの、相棒としての初仕事。
俺たちは、新たな決意を胸に、盗賊団が潜むという岩場へと向かった。




