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出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


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第22話:解放の儀式

ゴブリン討伐の依頼は、リーダーを討伐できなかったため「失敗」に終わった。しかし、巣窟の位置と内部構造、そしてホブゴブリンの存在を報告したことで、ギルドは「偵察任務」としては成功とみなし、金貨十枚の報酬を支払ってくれた。


だが、魔道具師に支払う金貨三十枚には、まだ足りない。

俺が金策に頭を悩ませていると、俺たちの噂を聞きつけたゲオルグが宿を訪ねてきた。そして、ルナ様の首輪を外すためならばと、金貨二十枚を「アルテミス家への最後の奉公」として差し出してきたのだ。


俺は一度は断ろうとした。他人の善意に頼るなど、俺の信条に反する。だが、ゲオルグの「これは、私の自己満足なのです」という言葉と、その隣で静かに俺を見つめるルナの瞳に、俺は結局、その申し出を受け入れてしまった。


ゲオルグの紹介で訪れたのは、ザラームの職人街の片隅にある、古びた魔道具工房だった。

「ここの主、バルトロは腕は確かだが、気難しくてな。わしの名を出せば、話は聞いてくれるはずだ」

そう言われて訪れた工房の主は、熊のような体躯をした、無口なドワーフの老人だった。


バルトロは、ルナの首輪を一瞥すると、低い声で唸った。

「……王家特製の、厄介な代物だな。外せなくはないが、リスクは承知の上か?」


「リスク?」


「うむ。この手の首輪は、対象の魂に直接干渉する。解除の儀式中に少しでも魔力の流れが乱れれば、首輪が暴発して対象に激痛を与えるか、最悪の場合、精神に回復不能なダメージが残る。そうなっても、わしは責任は取らん」


精神に、回復不能なダメージ。

その言葉に、俺の心臓が冷たく締め付けられるのを感じた。

もし、失敗したら? ただでさえ壊れかけている彼女の心が、今度こそ本当に、二度と戻らないほど砕け散ってしまったら?


(何を考えている。これは道具の修理だ。損失のリスクを計算しているに過ぎない)


俺は必死に自分に言い聞かせた。だが、胸の奥で鳴り響く警鐘は、ただの「損失」に対するものとは明らかに違っていた。これは、明確な「不安」と「恐怖」だった。


「……構わん。やってくれ」


俺が絞り出すように言うと、バルトロは黙って頷き、工房の奥にある儀式用の小部屋へと俺たちを案内した。床には複雑な魔法陣が描かれ、周囲には用途不明の魔道具がいくつも置かれている。


「嬢ちゃんは、魔法陣の中央へ」

ルナは、バルトロの言葉に、俺の顔を不安そうに見上げた。俺は何も言わず、ただ頷きで応える。彼女は意を決したように、ゆっくりと魔法陣の中央に座った。


「儀式を始めたら、何があっても声をかけるな。集中が途切れる」

バルトロはそう言うと、魔法陣の周りにいくつかの魔石を配置し、呪文の詠唱を始めた。


魔法陣が淡い光を放ち、ルナの体を包み込む。彼女の首にある鉄の首輪が、光に呼応するように、カタカタと小刻みに震え始めた。

ルナは、苦痛に耐えるように、ぎゅっと目を閉じている。その小さな体が、恐怖に震えているのが分かった。


時間が、やけに長く感じる。

俺は、ただ固唾を飲んで見守ることしかできない。

頼む。無事でいてくれ。

そんな、俺らしくもない願いが、心の奥から湧き上がってくるのを、もう止めることはできなかった。


その時だった。

ルナの首輪が、ひときわ強い光を放ったかと思うと、


――カチン。


乾いた、小さな音が響いた。

魔法陣の光が消え、静寂が戻る。見ると、今まで彼女の首を縛り付けていた鉄の首輪が、二つに割れて床に転がっていた。


「……終わったぞ」

バルトロの疲れたような声が、部屋に響く。


俺は、自分が止めていた息を、大きく吐き出していることに気づいた。全身から、どっと力が抜けていく。安堵。そうだ、これは、純粋な安堵だ。


ルナは、恐る恐る自分の首筋に手を伸ばした。

そこにはもう、冷たい鉄の感触はない。彼女は、何度も、何度も、自分の肌の温もりを確かめるように、その場所をそっと撫でた。


やがて、彼女の顔がゆっくりと上げられる。

そして、その瞳から、一筋。

ぽろり、と大粒の涙が、静かに頬を伝って流れ落ちた。


それは、彼女が俺の前で初めて見せた、感情の涙だった。


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