第20話:初めての共闘
左腕に走る激痛で、思考が麻痺する。
俺がゴブリンの棍棒を受け止め、その隙に一体を仕留めた直後、通路の奥から新たなゴブリンが二体、仲間が殺されたのを見て興奮した様子で駆け寄ってきた。
「チッ……!」
まずい。腕がまともに動かないこの状態で、二体相手は無謀すぎる。
俺は負傷した腕を押さえながら、じりじりと後ずさる。だが、背後には腰を抜かして動けないルナがいる。逃げ場はなかった。
ゴブリンたちが、下卑た笑い声を上げながら、じわじわと距離を詰めてくる。絶体絶命。死が、すぐそこまで迫っているのを肌で感じた。
(ここまで、か……)
俺が奥歯を噛みしめた、その時だった。
「……っ!」
背後で、ルナが息を呑む音がした。
そして、彼女は震える手で、足元に転がっていた石を拾い上げた。恐怖で顔は真っ青になり、体はガタガタと震えている。今にも泣き出しそうな顔で、それでも彼女は、俺の前に立ちはだかるゴブリンを睨みつけていた。
やめろ、動くな。
そう叫ぼうとしたが、声が出なかった。
ルナは、その小さな体で、ありったけの力を込めて石を投げつけた。
ひゅん、と情けない音を立てて飛んだ石は、ゴブリンの一体の肩に、こつん、と当たった。
それは、ダメージと呼ぶにはあまりに非力な一撃だった。
だが、ゴブリンの注意を引くには、それで十分だった。
「ギィ!?」
石を当てられたゴブリンが、苛立ったようにルナの方を向く。その醜い顔が、新たな獲物を見つけた喜びに歪んだ。
――一瞬の、隙。
俺は、その千載一遇の好機を逃さなかった。
残る力を振り絞り、床を蹴る。狙いをルナに向けたゴブリンの、がら空きになった脇腹に、俺は右手の短剣を深々と突き立てた。
「ギ……ア……ッ!」
断末魔の悲鳴を上げ、ゴブリンが崩れ落ちる。
残る一体が、仲間の死に怯んだのか、一瞬だけ動きを止めた。俺はその隙にもう一体の背後に回り込み、躊躇なくその首を掻き切った。
どさりと、二つの体が床に転がる。
洞窟に、再び静寂が戻った。残っているのは、俺の荒い息遣いと、鉄錆のような血の匂いだけだ。
俺は、負傷した左腕を押さえながら、その場に崩れるように座り込んだ。
背後では、ルナがまだ腰を抜かしたまま、呆然と目の前の光景を見つめている。
これが、俺と彼女の「初めての共闘」だった。
あまりに拙く、危うい、共闘と呼ぶのもおこがましいような連携。
だが、事実として、俺は彼女に助けられた。
(……余計なことを)
胸の中に、言葉にならない感情が渦巻く。
怒りでも、感謝でもない。もっと複雑で、面倒な何か。
道具が、主人のために動いた。その事実が、俺が築き上げてきたはずの壁を、容赦なく侵食してくる。
調査の続行は不可能だ。俺は壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「……帰るぞ」
俺は、振り返らないまま、それだけを告げた。
洞窟を出て、森を抜ける帰り道。俺たちは、一言も言葉を交わさなかった。
俺は、ズキズキと痛む腕を押さえながら、先を歩く。
ふと、ルナに何か言わなければならない気がした。
礼を言う? ありえない。
よくやったと褒める? 冗談じゃない。
結局、俺の口から出たのは、いつもと同じ、冷たい言葉だった。
「……余計なことをするな」
だが、その声には、自分でも分かるほど、以前のような完全な拒絶の色は含まれていなかった。
ルナは、何も答えなかった。ただ、俺の少し後ろを、離れずについてくるだけだった。




