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出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


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第1話:偽りの聖域

目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。


ひんやりとした石の床の感触。鼻をつく、嗅いだことのない香の匂い。そして、やけに高い天井には、シャンデリアと呼ぶにはあまりに豪奢な、巨大な光る結晶が吊り下げられていた。


「……どこだ、ここは」


俺――ユウキは、ゆっくりと身を起こした。周囲には、俺と同じように呆然とした表情を浮かべる、見知らぬ日本の若者たちが十数人。皆、俺と同じような現代的な服装をしている。


状況が全く飲み込めない。確か俺は、薄汚いアパートの一室で……。


「おお、目覚められたか、異世界の勇者たちよ!」


荘厳な声が、広間に響き渡った。声の主は、一段高い場所に設置された、いかにもな玉座に腰掛ける初老の男。金の刺繍が施された真紅のローブをまとい、頭には豪奢な王冠を戴いている。


王、か。馬鹿馬鹿しい。まるで出来の悪いファンタジーだ。


王と名乗る男は、魔王の脅威に晒されたこの世界を救うため、古の儀式によって我々を召喚したのだと、芝居がかった口調で語った。


勇者? 救世主? 反吐が出る。

人間不信の塊である俺に、誰かを救えと? これ以上の冗談があるものか。


やがて、侍従たちが俺たち一人ひとりの前に革袋を差し出してきた。

「勇者様方へ、王からのささやかな支度金でございます。当面の活動資金としてお役立てください」

中には、金貨が数枚ほど入っているようだった。他の勇者たちは、突然手にした大金に戸惑ったり、あるいは目を輝かせたりしている。俺は、ただ無感情にそれを受け取り、懐にしまった。どうせ、これも奴らの掌の上の出来事だ。


やがて、召喚された者たちの「ステータス」を確認する儀式が始まった。一人ずつ名前を呼ばれ、祭壇に置かれた巨大な水晶に手をかざしていく。


「おお! 攻撃力1200! スキルに【聖剣術】が!」

「こちらは魔力1500超え! 【大賢者】の称号持ちだ!」


水晶に触れるたび、騎士や文官たちが歓声を上げる。他の勇者たちは、自分の持つ強大な力に高揚し、あるいは戸惑い、様々に表情を変えていた。


くだらない。どうせこいつらも、いずれ裏切るか、裏切られるかだ。


やがて、俺の番が来た。

「次、ユウキ殿」

俺は無感情に立ち上がり、水晶へと歩み寄る。期待など、欠片もしていない。ただ、この茶番が早く終わることだけを願って、無造作に手をかざした。


瞬間、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。


> 名前:ユウキ・****

> 職業:勇者(★☆☆☆☆)

> スキル:

>  **【概念の翻訳者】**:文字の羅列

>  **【無名のスキルメーカー】**:無名

> 攻撃力:35

> 魔力:12

> ……


その表示を読み上げた文官が、困惑したように口ごもる。ざわめきが、さざ波のように広がっていく。


「攻撃力35、魔力12……? なんの冗談だ!」


甲高い声が響いた。王の隣に立つ、金髪の王子だった。彼は侮蔑の視線を俺に突き刺し、吐き捨てるように言った。


「一般兵でも攻撃力は100を超えるぞ! スキルも意味不明な文字列ではないか! こんなものが勇者だと? 間違いであろう!」


嘲笑が、侮りが、悪意が、一斉に俺に突き刺さる。

ああ、知っている。この感覚はよく知っている。

結局、どこへ行っても同じなのだ。人間とは、こうも容易く他人を見下し、切り捨てる。


その瞬間、俺の視界の隅で、ノイズのような光が走った。


> **【概念:勇者システムによる意図的な能力の低評価】**

> **【概念:王族による生贄候補の選定】**

> **【概念:召喚された勇者たちからの無価値な存在としての認識】**


それは、感情ではなかった。ただの無機質な「文字データ」の羅列。俺のスキル、【概念の翻訳者】が、この場の人間たちの思考や状況の本質を、無慈悲に翻訳した結果だった。


やはり、か。

俺の唇の端が、皮肉に歪んだ。この世界に来てさえ、俺は「生贄」で「役立たず」らしい。


俺の心の中で、かろうじて残っていた最後の何かが、プツリと音を立てて切れた。もういい。何も感じなければいい。何も信じなければいい。俺は、俺以外の全てを拒絶する。


「陛下、このような出来損ないは不要です。地下牢へ」

「……うむ。やむを得まい。そやつを地下牢へ連れて行け」


王の冷たい宣告が下される。騎士たちが無言で俺の両腕を掴んだ。俺は一切抵抗しなかった。


引きずられていく道すがら、俺は一度だけ振り返った。そこには、憐れむ者も、気にかける者も一人もいなかった。誰もが、厄介払いができたと安堵したような、あるいは無関心な顔で、次の勇者のステータスに期待の目を向けているだけだった。


> **【概念:騎士たちの思考:出来損ないの所持品などどうでもいいという侮り】**


【概念の翻訳者】が、俺を連行する騎士たちの思考を読み取る。奴らは俺を完全に侮りきっており、懐に入れたままの革袋を没収することさえ頭にないようだった。

好都合だ。この金が、俺の最初の武器になる。


偽りの光に満ちた聖域。

俺の異世界での人生は、またしても裏切りと絶望から始まった。


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