第10話:呪われた廃鉱
グレイから受け取った前金で、俺は最低限の調査用具と数日分の食料を買い揃えた。そして翌朝、俺はルナを連れてザラームの西門を後にした。
「これを持て」
俺が背負っていた荷物の一部を無造作に差し出すと、ルナは黙ってそれを受け取り、小さな背中に背負った。彼女の役割は、荷物持ち。それ以上でも、それ以下でもない。ただの、便利な道具だ。
地図を頼りに荒野を進むこと二日。やがて、ごつごつとした岩山が連なる荒涼とした風景の中に、ぽっかりと口を開けた巨大な穴が見えてきた。あれが目的地の廃鉱だろう。
入り口に近づくにつれて、空気が重くなっていくのを感じる。そして、鼻をつく微かな異臭。入り口付近の木々は枯れ、地面には不気味な紫色の靄がうっすらと漂っていた。
「……なるほど。これが『呪い』か」
普通の人間なら、この時点で恐怖を感じて引き返すだろう。だが、俺の心は冷めていた。未知の現象も、俺のスキルにかかればただの「データ」に過ぎない。
俺は意識を集中させ、【概念の翻訳者】を発動させた。
> **【概念:高濃度の魔力瘴気(毒性)】**
> **【概念:生命活動への継続的ダメージ(軽度)】**
> **【概念:長時間吸引による身体機能の麻痺、および死亡リスク】**
呪いの正体は、毒性のある魔力の瘴気。一種の毒ガスのようなものか。対策なしに内部へ進めば、調査から生還した者がいないというのも頷ける。
だが、原因が分かれば対策は立てられる。
俺は【無名のスキルメーカー】を起動し、頭の中に概念を組み上げた。
(「概念:毒」と「概念:分解」を組み合わせる)
> **【合成中…】**
> **【生成完了:『【無名:毒素分解 Lv.1】』】**
> 説明:吸い込んだ軽度の毒素を、体内で無害な魔力に分解する。持続時間は約半日。
完璧だ。
俺はまず自分自身にスキルを付与し、次いで隣に立つルナにも同じスキルをかけた。彼女の体が淡い光に一瞬だけ包まれるが、本人は何も気づいた様子はない。
「行くぞ」
瘴気渦巻く廃鉱の中へ、俺は躊躇なく足を踏み入れた。
内部はひんやりと涼しく、静まり返っている。壁にはつるはしで掘られた跡が生々しく残り、あちこちに錆びついたトロッコや道具が打ち捨てられていた。
俺は戦闘を避け、あくまで調査に徹する。瘴気の発生源はどこか。鉱床の状態はどうなっているか。グレイに報告すべき情報を、冷静に集めていく。
壁の所々が、ぼんやりと光を反射しているのが見えた。鉄鉱石だろうが、中には違う種類の鉱石も混じっているかもしれない。
(「概念:鉱石」と「概念:価値」を組み合わせる)
> **【合成中…】**
> **【生成完了:『【無名:簡易鑑定 Lv.1】』】**
> 説明:鉱石や素材の大まかな価値と名称を判定する。
俺は壁に手を触れ、スキルを発動させた。
> **【名称:鉄鉱石(低品質)】**
> **【名称:銅鉱石(並)】**
予想通りの結果だ。だが、さらに奥へ進むと、ひときわ強く輝く青みがかった鉱石の層を見つけた。
> **【名称:ミスリル鉱(低純度)】**
> **【付加価値:魔力伝導性が高く、武具や魔道具の素材として高値で取引される】**
ミスリル。この世界のことは詳しくないが、ファンタジーの定番から考えれば、希少な金属のはずだ。
瘴気のせいで誰も寄り付かないこの廃鉱には、まだ手付かずの鉱脈が眠っている。この情報は、グレイへの報告の価値を大きく引き上げるだろう。
派手な魔法で怪物をなぎ倒すわけでも、聖剣で悪を断罪するわけでもない。
地味なスキルで情報を集め、分析し、利用する。
これこそが、俺の戦い方だ。俺は、自分の持つ力の本当の価値を再認識し、口元に確かな手応えを感じていた。




