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出来損ない勇者のスキルメーカー ~追放された俺は、地味スキルで世界を裏から支配する~  作者: 悠々


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第104話:合流の狼煙

時計塔の隠れ家。俺は、眼下に広がる王都の地図を睨みつけながら、リリスたちが作戦を開始するのを待っていた。

やがて、王都の西地区から、ひときわ大きな火柱が上がるのが見えた。もちろん、それは本物の炎ではない。リリスたちが作り出した、大規模な幻術だ。


『――なんだ、あの爆発は!? 第二補給倉庫の方角です!』

『馬鹿な、あちらには反乱軍はいないはず……!』

『アイカ様! ご指示を!』


俺の『魔力傍受』が、混乱する王子派閥の通信を次々と拾い上げる。

そして、ついに、俺が待ち望んでいた声が響いた。


『……非合理な動き。でも、無視はできないわ。ゼノン、あなたの部隊の半分を、第二補給倉庫へ向かわせなさい。残りの部隊で、反乱軍の補給路を予定通り叩くのよ』


「――かかったな、アイカ」


俺は、冷たい笑みを浮かべた。

お前の完璧な計算に、予測不能な「ノイズ」を一つ混ぜてやった。これで、マサルたちが攻めあぐねている前線の戦力は、確実に手薄になる。


だが、これだけでは足りない。

膠着した戦況を動かすには、もっと強力な一撃が必要だ。


俺は、隠れ家の影で待機させていたグレイの部下――『黒猫』と呼ばれる情報屋の一人に、声をかけた。


「時間だ。これを、反乱軍の指揮官、聖騎士マサルに届けろ」


俺が差し出したのは、二通の羊皮紙だった。

一つは、第三研究所で行われていた非人道的な生体実験の概要と、犠牲者リストの一部を書き写したもの。民衆の支持を得るための、強力な「弾丸」だ。

もう一つは、今しがた傍受した、ゼノンの部隊が反乱軍の補給路を断つために西地区の裏路地から回り込んでいる、という敵の次なる作戦の全容。


「いいか、誰からかは絶対に悟られるな。謎の協力者を装え。失敗は許さん」

「……御意」


黒猫は、羊皮紙を受け取ると、音もなく闇の中へと消えていった。

これで、駒は全て動かした。あとは、盤上の騎士――マサルが、どう動くか。


---


その頃、王城へと続く大通りで、マサルは焦燥感に駆られていた。

敵のゴーレム部隊の猛攻が、先ほどから少しだけ緩んでいる。だが、それは一時的なものに過ぎず、味方の犠牲は増え続けていた。


(このままでは、ジリ貧だ……! 何か、何か打開策は……!)


マサルが歯噛みした、その時だった。

ヒュン、と風を切り裂く音と共に、一本の矢が、彼のすぐ目の前の壁に突き刺さった。


「マサル様、お下がりください! 伏兵です!」

ゲルハルト副団長が、咄嗟にマサルを庇うように盾を構える。


だが、矢には殺気がなかった。矢羽には、一枚の羊皮紙が巻き付けられている。

マサルは、ゲルハルトの制止を振り切り、その矢文を手に取った。


「……!?」


そこに記されていた内容に、マサルは絶句した。

それは、自分たちが全く掴めていなかった、敵の部隊配置と、次なる作戦――ゼノン率いる別動隊による、補給路への奇襲計画が、詳細に記されていたのだ。


「馬鹿な……。どこから、こんな情報が……」

ゲルハルトが、信じられないというように呟く。


さらに、矢にはもう一通、封蝋された羊皮紙が添えられていた。

マサルがその封を解き、目を通していく。そして、その顔から急速に血の気が引いていった。

そこには、王子の命令で行われていたという、おぞましい生体実験の真実が、犠牲者の名前と共に、克明に記されていた。


「……これが、王子殿下の……『正義』の正体……」


マサルは、わなわなと震える手で、羊皮紙を握りしめた。

そして、直感した。

この情報は、あの市場で出会った、謎の青年からもたらされたものだと。

『あんたの言う正義とやらが、誰かを不幸にしていないと、どうして言い切れる?』

あの時の、冷たい声が、脳裏に蘇る。


「マサル様、敵か味方かも分からぬ情報を、鵜呑みには……!」

ゲルハルトが、当然の懸念を口にする。


だが、マサルは、力強く首を振った。

「いいえ、ゲルハルト殿。俺は、この情報を信じます」


彼の瞳には、もう迷いはなかった。

「これが罠だとしても、俺たちにはもう、これに賭けるしか道は残されていない。それに……この情報は、俺たちにとって、唯一の『希望』だ」


マサルは、顔を上げた。その瞳には、再び聖騎士としての、力強い光が宿っていた。

「全軍に告ぐ! 作戦を変更する! ゼノンの部隊を、逆に待ち伏せ、これを叩く! そして、この証拠を掲げ、王都の民に真実を訴えるのだ!」


謎の協力者の存在に戸惑いながらも、マサルはその情報を信じ、反撃の作戦を立案する。

それは、盤上の外から戦況を操るユウキと、盤上で命を懸けて戦うマサル、二人の勇者の意志が、初めて重なり合った瞬間だった。


互いの顔も、名前も知らぬまま。

王都奪還のための、共同戦線の狼煙が、今、静かに上がった。


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