レベル50 仲間と共に、次の日街へ
洞窟内に、爆発的な光と熱風が吹き荒れた。
大地が揺れ、周囲の岩が次々と崩れ落ちていく。
土煙と爆風に混じる蒸気が立ちこめ、視界を完全に奪った。
――やった、のか……?
俺は剣を地面に突き立て、その柄にもたれかかった。
立っているのがやっとの状態だった。
耳鳴りだけが響き、世界の音が遠ざかっていく。
…………
やがて、ゆっくりと白いもやが晴れていく。
その向こうで、崩れた岩の隙間から巨大な影が見えた――。
黒煙の中、ドラゴンが最後の咆哮を上げた!
……まだ、生きていたのか……?
……だが、もう、俺たちには力が残っていない……
ここで終わりになってしまうのか……
そう思った瞬間、その巨体が頭からゆっくりと崩れ落ちた。
『⁉︎……ついに……やった……倒したんだ……』
かすれた声でそう呟く。
俺たちの連携技が、奴の咆哮とぶつかり合い、逆流する形で内部からヤツを砕いたのだ。
通常の攻撃では決して届かない。――まるで奇跡のような勝利だった。
「運が……良かっただけかもな……」
呟いた瞬間、全身の力が抜け、膝から崩れ落ちた。
床に倒れたまま、かろうじて視線をカイザーへ向ける。
彼女もまた、地面に伏して動かない。
腕に力を込めても、もう動かない。
――ああ、ここまでか。
意識がゆっくりと闇に沈んでいく。
最後に見えたのは、カイザーの傍に歩み寄る――白い装束の女性の姿だった。
……カイザー……どうか……無事でいてくれ……。
……………
……………
……………
――夢を見ているようだった。
ここは……どこだ? 見たことがある場所だ、最初の城か⁉︎
誰かが泣いている。いや、城の中の全員が泣いている。
なぜだ……何があった?
黒衣をまとった人々――皆顔を伏せている……
まさか、誰かが死んだのか?
その光景はモヤがかかったようにハッキリと認識できない……
……まさか……俺が……?
その瞬間、背中に温かいものを感じた。
『アル……アルプス! おい、起きろ! アルプス!』
……誰だ……この声は……?
背中の温もりが少しづつ強くなる。
――これは、カイザーの声だ。
……よかった……カイザーは無事だったんだな……
『おい! アルプス! ふざけんなよ……こんなとこで……早く目を覚ましてくれよ……!』
その声が、闇の奥で灯りをともすように響いた。その感覚は、誰かに手を繋がれて、光がある方へ引っ張られるそんな感じだった……
すると、俺はゆっくりと意識を取り戻し、目を開けた。
『おっ! アルプスが目を覚ましたぞ!』
『アルプス⁉︎ よかった……生きてたのか!?』
カイザーが駆け寄る。
その目には、涙が滲んでいた。
『……よかった……ほんとによかった……』
その表情は、やっぱり女性らしかった。
『……カイザー……ありがとう……』
装備はボロボロで、体には無数の傷。
――そして、背中に感じていた温もりは、回復魔法の光だった。
まだ完全ではないが、確かに命が戻ってくるのを感じた。
『あなたたち、やるじゃない! まあ、私がいなければ危なかったけどね』
柔らかな声が響いた。
声のする方を見ると、あの白い装束の女性が、微笑みながら立っていた。
『あのドラゴンを倒すなんてね……あれは本来、この世界には存在しないモンスターよ。おそらく闇の王が召喚した“異界のドラゴン”ね』
……俺たちはそんなヤツを相手にしてたのか……
『あ、そうだ。自己紹介をしなきゃね。
私のジョブは“白魔導士”。回復と防御の魔法が得意なの。攻撃も少しはできるけど……まあ、回復特化型かな』
『私の名前は――』
その瞬間、モニターが切り替わった。
どうやら彼女も、外見を変えられないNPCらしい。
カイザーと同様に――名前だけはプレイヤーが入力できるようだ。
そして、嫌な予感がした。
そう、“ミユキ”のネーミングセンスが、再び火を吹く時が来たのだ。
俺は痛みに耐えながら、精一杯ツッコミを入れた。
【シロ】
――はい、出ました、わんちゃん系。しかもそのまんま!
【クロ】
――はい、また犬!お手!白にクロって、どういうセンスだ!
【エビ○ン】
――だから!水か!あと商標的に危ないって!
そして最終的に決まった名前が――
【名前:ビアン】
――……やっぱり水系。でも、ちょっとだけセンスが上がった気がする。
『ビアンか。ありがとう、助かったよ。すごいタイミングだった』
『ふふっ、タイミングばっちりだったでしょ? なぜだか分かる?
……私、ずっとアルプスの後をつけてたの。気づかなかった?』
……えっ、マジで? それ、ストーカーって言うんだぞ
『まぁまぁ。それには理由があるの。
私も王様の娘だから、“勇者に何かあったら助けてあげなさい”って言われてたの』
……そういうことか。あの王様、怪しいと思ってたけど、案外いいやつかもな。
『王様の娘だって⁉︎ じゃあ、ビアン。つまり君も姫ってことか?』
『ううん、私はそうじゃない、“姫の影武者”よ』
……影武者? なんかややこしくなってきたな。
『まぁいいや。ビアン、これからよろしくな!』
『うん!よろしく!』
ビアンの声は明るく、まっすぐで、どこか安心できる響きがあった。
ふとカイザーを見ると、ほんの少し寂しげな表情をしていた。
――こうして、俺たちは三人になった。
モニター越しのミユキも、新しい仲間に嬉しそうだ。
……本来なら、二人旅がもう少し続くはずだった。
だが、予定より早く仲間が増えた。それもまた、運命なのかもしれない。
『一旦、村に戻ろう、カイザー、そして、ビアン』
『……ああ、そうだな』
『うん、帰ろう!』
洞窟を出た瞬間、外の空気が信じられないほど澄んでいた。
――この世界には、まだまだ強い敵がいる。
もっと力をつけなければ。
帰る途中で村長の息子がいた場所を確認したが、そこにはいなかったので、おそらく、村にもどっていると思った。
村へ戻ると、村長たちが駆け寄ってきた。
『おおーー!勇者様たちよ、やっと戻られた、その傷は大丈夫ですか?もしや、やったのか⁉︎ ついにモンスターを倒したのか⁉︎』
『ああ、ちょっと苦戦したけどな。バッチリ討伐してきたぜ。
あいつは普通のモンスターなんかじゃなかった。悪いやつが召喚した闇のドラゴンだったんだ。理由は不明だけどな、それに新しい仲間も増えた』
『なんと!そんな強大なモンスターだったとは……!
おおっ、勇者様たちよ! これで、我らの畑が守られます!これで食の心配事がなくなりました。
なんと、礼を言ったらいいか、
どうか、我々からの最大の贈り物を――』
……嫌な予感しかしない。
この村で“最大の贈り物”といえば――。
『どうか、これをお受け取りください!』
……やっぱりだ。
【勇者アルプスは「村の水」×3を手に入れた】
……出たよ、それ……
俺が呆れ声で呟くと、ビアンが吹き出した。
『ふふっ! もう、村の人たちの気持ちなんだから、素直に受け取ってあげて。
もしかしたら、“神聖な村の水”かもしれないよ?』
……そうは見えないけどな……ただの井戸水じゃねーか……
――はぁ。あんな激闘の後だってのに、報酬がこれかよ。せめて金か装備が欲しかった……
『勇者様達、今夜は宿屋でお休みを。明日からまた旅が続くのでしょう、どうかゆっくりしていってください、この村から脅威がなくなりましたから』
俺たちは村人の厚意を受け入れ、宿屋へ向かった。
メニューが表示される。
【はい:セーブして続行】
【はい:セーブして終了】
【いいえ:セーブしないで続行】
【いいえ:セーブしないで終了】
矢印は――【はい:セーブして終了】を指していた。
……そうか。今日の冒険は、ここまでか。
……ミユキ、また次の冒険、楽しみにしてるぜ……
そう呟いた瞬間、モニターがゆっくりと暗転していった。
――ここから、俺たちは自由になった。
操り人形の糸が切れたように、静かで、穏やかな時間が流れ出す。
『ねぇ、ビアン。さっき“影武者”って言ってたけど、どういうこと?』
『えっとね……姫が病気とかで式典に出られない時、私が代わりに出るの。
私は姫とそっくりだからね。唯一見分けられるのは、お父様とお母様、それに召使いの三人だけよ、
でも、今はもう影武者の必要がないの。姫が攫われたことは、多くの民が目撃してるから……。
それで父上が言ったの。“今は、影武者である必要はない、だから、勇者の力を借りて姫を救え”って』
『姫が狙われた理由は、おそらく特別な力を持っているから。
きっと、闇の王はその力を利用しようとしているのよ。だから、その力を手に入れる前に倒す必要があるわ、だけど、奴には、二人の強力な手下がいるの』
『手下?』
『うん。闇の王の左腕“レグリノ”と右腕“エリぺ”。この2人は最恐の存在であり、2人の力は、最悪よ。
レグリノは重力を、エリぺは時間を操る。
そして、闇の王“オルデ”自身は――破壊と闇を司るのよ』
俺とカイザーは顔を見合わせた。
……やれやれ、ラスボスの香りしかしねぇな。
『もし三人が力を合わせたら……重力と時間、そして闇と破壊。
何が起こるかは誰にもわからないわ。けど、想像したくもない。』
『なぁ、その姫の特別な力ってのは、どんな力なんだ?それに、闇の王はこの世界をどうする気なんだろうか?』
『それは……今の私にも分からない。ただ、闇の王にとって姫の力は“必要な力”であることだけは確かよ』
……俺たちは、そんな強大な相手に勝てるのか?
その沈黙を破るように、ビアンが明るく言った。
『さあ、次は世界中の商人と職人が集う街――ヴィックボルよ!
ここには世界各地から冒険者もたくさん集まるの。ここで新しい力を手に入れる必要があるわ。
この世界を守るためにね』
すると、ビアンは窓から見える月に向かって、何かを祈るように目を閉じていた……
――なんか、その街の名前は聞き覚えある名前だな……。
ビアンがゆっくりと目を開け俺たちに向かって言った。
『さぁ、みんな、明日に備えて今日は休もうよ、ヴィックボルまでの道のりは長いからね』
……⁉︎ 俺は気づいた。
この部屋には、カイザーとビアン、そして俺。
つまり――美人二人とイケメンの俺!
……ドキドキする夜になりそうだ。
――と思った瞬間。
『なぁ、アルプス。明日も安全に冒険したいよな?』
カイザーが怖い顔で睨んでくる。
『もし、今夜……何かあったら、分かってるよな?』
『どうしたの、カイザー?そんな怖い顔して。ねぇ、アルプス?』
『うん、絶対になにもありません。俺が保証します!』
――そして、その夜も何事もなく終わった。
翌朝、俺が生きていたということが、その証拠だ。
モニターが明るくなり、ログイン画面が表示される。
そう、ミユキと次の冒険が――始まったのだ。
――――次の朝。
よし、いざ、出発だ!
村長たちが村の入り口で手を振る。
俺たちは、西の都――ヴィックボルを目指して歩き出したのだった。




