レベル30 仲間と共に、挑む新技
終わった……
ヤツがゆっくり、そして――静かに賢具を構える。
その瞬間、時間の流れが……ゆっくりになった。
……ミユキ、ごめん……やっぱり俺、だめだったよ……
再び、死の予感が走った。
……!?……何も起きない……
すると、モニターにメッセージが流れ始めた。
『お前、私の魔法障壁が見えなかったのか⁉︎ そんなことも見抜けなかったのか?そんなんで勇者と言えるのか⁉︎』
『だが、私の炎魔法をギリギリでかわした――お前のスピードだけは認めよう。お前となら、アイツを倒せるかもしれない……』
無機質に流れる文字。
だが、それと同時に――目の前のヤツの口からも発せられていた。
俺は思わず叫んだ。
『俺を倒さないのか?、な、何が起きてるんだ⁉︎』
ヤツはこちらに目を向け、まるで握手を求めるように手を差し出してきた。
無意識にその手を取ると、強く握られ、俺は一気に立ち上がらされた。
『はぁ⁉︎ お前、まだ理解してないのか? 私は敵でもモンスターなんかじゃないぞ。どうせ村のやつに言われて来たんだろ? “モンスターを倒せ”ってな』
……確かにそうだった。
『私も同じだ。村人に頼まれてここへ来た。だが、何もいなかった。
モンスターを探すうちに、アイツがさらに北の洞窟に潜んでいると知った。
それで、アイツが動き出す夜に合わせて一人で立ち向かったんだ。
だが……アイツには私の魔法は効かなかったんだ。
アイツの身体は硬い。だから、私1人では倒せないと悟った。
その時は運良く逃げ延びられたが、二度目は……ないだろう』
『アイツにダメージを与えるには――
アイツの攻撃スピードを上回り、一気に間合いを詰められる剣士の存在が必要だ。
そして、アイツの固い鱗に傷をつけて、内部に私の魔法を打ち込む必要がある。
その剣士役が、そう……それがお前だ。さっきは、悪いがお前をスピードを試させてもらった。
お前は合格だ!』
ヤツが続けた。
『ちなみに、今のレベルでは私も含めて、アイツを倒すことは不可能だ。あのモンスターを倒すには、もっと力が必要になる』
モニターにも、ヤツの言葉がそのまま流れていた。
そして、モニター越しのミユキは、この展開を楽しそうに見ていた。
『あ、そうだ。私の自己紹介がまだだったな。
私のジョブは“賢者”だ
物理攻撃よりも遠隔からの魔法を得意とする。攻撃と回復の両方を扱えるが……私は攻撃特化型だ。
回復は、まあ、あまり期待するな』
『私の名前は――』
ここで、モニターが切り替わった。
おそらくヤツの姿は変えられない。いわゆるNPCというやつだ。
だが、名前だけは自由に付けられるらしい。
……そいて、嫌な予感がした。
そう、“ミユキ”の名前センスが、また発揮されたのだ。
入力されていく名前に、俺はツッコミを入れ続けた。
【ケンジ】
――はぁ? 賢者にケンジはややこしいだろ――
【源氏】
――おいおい、今度は古典かよ。しかも紫式部ネタか――
【クリスタル○イザー】
――出たよ、水! あ、でもこれ商標的にアウトじゃね?――
そして、最終的に決まった名前が――
【名前:カイザー】
――……やっぱり水なんだぁ。まあ、ちょっと変えてるから、大丈夫だろー
それに、悪くない、強そうだし――
『カイザー、よろしく! 俺はアルプスだ!』
『ああ、よろしくな!』
俺に、初めての仲間ができた。
そして俺とカイザーは村へ戻ることになった。
イベントムービーが始まり、俺たちは強制で村まで移動させられた。
それはまるで瞬間移動のような感覚に襲われ、少し気分が悪くなるほどだった。
気がつくと、俺たちは村の中心に立っていた。
そこには村長の姿もあった。
村長が俺たちを見つけると、話しかけてきた。
『おおー! 旅の勇者よ! 我々の願いでもあるモンスター討伐はできましたか?』
俺より先にカイザーが口を開いた。
『いや、まだだ。俺たちはもっと力をつける必要がある。そいつはかなり強大な存在だからな……』
村長は頷き、
『あー、そうでしたか。でしたら、この村の宿屋をあなた方のために無料開放いたしましょう!』
俺はその提案にびっくりした。
まじか……まあ、あのボロ宿屋でもタダならいいか。
カイザーが礼を言った。
『感謝する。では、お言葉に甘えさせてもらおう』
いかにもRPGらしい展開になってきた。
ミユキも楽しそうに会話をスキップせずに、楽しんでいるようだ。
すると、カイザーが思わぬことを口にした。
『なぁ、勇者アルプス。その剣と装備の貧弱さはなんなんだ⁉︎ そんな装備ではアイツを倒すどころか、近づくこともできん。攻撃を喰らえば、一撃でバラバラだぞ!』
ゾッとした。
でも、この装備の結果は――これでもミユキと一緒に戦って、モンスターの身体から出てくるお金を拾って、拾って、拾いまくって手に入れたものなんだ。
決して無駄遣いの結果じゃない。ミユキだって、節約しながら装備を買ってくれたんだ。
『まともな剣と装備、そして少しばかりのギャラを用意してやる。これを受け取れ』
【手専用鎧 銅】
【体専用鎧 銅】
【足専用鎧 銅】
【100ギャラ】
【強化型剣 銅】
俺は涙が出そうになった。
憧れの銀シリーズではないが、銅シリーズのフル装備――。
しかも、既に持っていた装備は自動的にギャラに変わっていた。
俺はそれらの装備を身につけた。
特に素晴らしかったのは――この【強化型剣・銅】だった。
切れ味の良さそうな刃先。
そして、手に馴染む絶妙なバランス。
どれをとっても見事な出来だ。
……この剣なら……何でも斬れそうだ……
そんな確信めいた予感があった。
俺のステータス画面では、全ての数値が一気に上昇した。
しかも――足装備まで手に入っている。
これでスネも守れる。
ミユキもこの状況に喜んでいるようだった。
また、攻撃力も格段に上がった。
あの、伝説の装備とはなんだったのだろうか……
俺たちはそのまま宿屋へ向かっていた。
……いや、正確には“操作されていた”のだ。
そう、ミユキの操作によって。
俺が自由に動けるのは戦闘のときだけ。
今までどおり、それ以外の時間――移動も会話も、俺には権利がない。
宿屋に着くと、いつもの店員がいた。
『いらっしゃいませ、旅のお方ですね?
村長より伺っております。あなた方は無料で何度でもご利用いただけます。
泊まられますか?』
おっ! ちょっとセリフが変わっている。ストーリーに合わせて変化したんだと思った。
実は、このNPCはプログラムされているから、何百回話しかけても同じ答えしか返さない可哀想な奴らだ。
雨の日も風の日も、せっせと働いているんだから、こいつらは本当にすごいと思った。
……俺たちと同じように、感情はあるのだろうか。
宿屋での選択肢が表示された。
そして――ミユキは【はい】を選んだ。
その直後、別のメニューが現れる。
セーブしますか?
【はい:セーブしてプレイを続行】
【はい:セーブしてプレイを終了】
【いいえ:セーブしないで続行】
【いいえ:セーブしないで終了】
矢印は【はい:セーブして終了】を指していた。
……そうか。
今日のミユキの冒険は、ここで終わりなんだな。
「ミユキ、また次の冒険も、一緒に頑張ろうな」
そう呟いた瞬間、モニターがゆっくりと暗転していった。
⁉︎……だが、俺たちの意識は――まだあった。
「……どうしたんだ?」
気づくと、そこは宿屋の部屋の中だった。
時間は“プレイ中”と同じように、ゆっくりと流れている。
しかも、その部屋の中には――カイザーもいた。
「お前はさっきから何をそんなに慌ててるんだ?
まさか知らないのか? プレイヤーがセーブしてゲームを終了した時――
自分たちは“自由”になれるんだよ。
プレイヤーからの支配や操作が、すべて解除されるんだ」
「そんなことも知らなかったのか?
まあ、セーブ地点から勝手に動くことはできないけどな。」
……なるほど……
俺は思わず息を呑んだ。
「なあ、アルプス。この時間だけは自由になれる。だから肩の力を抜いて、ゆっくりしろ。
もう“演じる必要”はない。
プレイヤーの操作も制限も届かない――この時間は、俺たちにとって特別なんだ。
なあ、アルプス。お前はプレイヤーと一緒に、何を求めて冒険しているんだ?」
いきなり訪れた“自由”と、普通に交わされる会話に俺は戸惑っていた。
それはまるで、操り人形の糸が切れ、自分の意思で動き出したような感覚だった。
カイザーの問いに、俺は少し間を置いて答えた。
「そうだな……最初は、正直クソみたいなプレイヤーだと思ってた。
でも――ミユキは俺との冒険を、本気で楽しんでくれている気がしたんだ。
そして気づいた。俺たちは所詮データの塊にすぎない。
だけど、プレイヤーになり代わって冒険することが、プレイヤーの望みなんだってな。
だから、俺は決めたんだ。
ミユキと一緒になって、現実では味わえないような壮大な冒険をしてやろうってな。」
俺の答えに、カイザーがふっと笑ったように感じた。
そして、カイザーは黙り込んでしまった。
俺はいまだにこの状況に慣れずにいた。
すると、カイザーがゆっくり立ち上がり、話した。
「アルプス、明日から私と修行をするイベントになる。それはプレイヤーもかなり苦戦する内容だ。だから今日はゆっくり休め。私も寝ることにする。」
そう言いながら、カイザーが頭の装備と胴装備を外した。
さらりと長い髪がこぼれ落ち、身体のラインが強調される。
――えっ……?
俺は思わず目を見開いた。
カイザーは……女性だったのだ。
あの口調からだと、どうしても男に見えてしまっていたが、
そのしなやかなスタイルは、どこからどう見ても女性そのものだった。
そして、髪をほどいたその姿は、とても――美しかった。
「おい、アルプス。今、何考えた?」
カイザーの声が低く響く。
「勇者でも、寝てる時は無防備だよな! 寝てる最中に燃やされたらどうなるだろうな⁉︎」
俺は――ゾッとした。
カイザーならやりかねないと思った。
もしそんなことになれば、ミユキが悲しむことになる。
ログインした瞬間に俺が死んでいるんだからな。
おそらくミユキはその状況を理解できないだろう……
そして、ミユキが次にログインしたとき、俺はちゃんとミユキと再会できていた。
それは、寝ている間にカイザーに燃やされなかったことを意味している。
ミユキがモニターに表示される内容を確認しながら、ストーリーを進めていく。
今から、カイザーとの連携技のチュートリアルの画面になっていた。
【カイザーの放つ魔法を、アルプスの剣で捉えて、魔法剣攻撃を対象のモンスターに3回当てろ】
これはタイミングが重要だった。
カイザーがある一定間隔で魔法を放つので、その魔法が敵に当たる直前に、俺の剣による攻撃を当てるという方法だ。
決まれば通常攻撃の3倍の攻撃力になる。
そして、アイツとの戦いでは何度かこの連携攻撃を当てることになるのだ。
俺とカイザー、そしてミユキで何度もこの新技の練習を行なった。
戦闘スタイルモードが【オート】になっているとはいえ、多少はタイミングをプレイヤーの操作によって合わせる必要があるのだ。
何度も何度も練習を繰り返した。
そしてミユキの操作も群を抜いて上達していった。
何十回と繰り返したその方法によって、ついに俺たちはこの連携技――ソードマジックアタックをマスターした!
その後、俺たちは村の周辺でモンスターを倒しながら経験を積み、ついにレベル30に達しようとしていたのだった。




