レベル20 敵か味方か!?最強の相手
いま、俺は最大のピンチに陥っていた……
村の畑で――ヤツに遭遇しているからだ。
今まで出会った中でも最強……かもしれない……
そして、そいつはいま……俺の目の前にいる。
ヤツの顔は、男女どちらにも似つかない中性的な顔をしていた。
昔から悪いヤツっていうのは、だいたいこういう顔してることが多い……
それに――
目が合っただけで、額に汗が滲み、剣を握る手が震えた。
……そして……なんだ、この殺気!
今までの敵とは格が違う!
見ただけでわかる。
周囲の空気からでもヤツの強さが伝わってくる!
『ヤツは……ただもんじゃねぇ……!』
俺は息を呑んだまま、動けなかった。っていうか、操作されなかった。
おそらくモニター越しの“こいつ”も、戦闘に向けて何か秘策を考えているんだろう。
緊張が続く。
ヤツを相手に、“こいつ”の操作で勝てるのか?
俺は少し不安だった。――初めて、死を予感したのだ。
俺とヤツ、そして“こいつ”、三者がこう着状態になっていた――
……と思ったが。
……?
動かねぇじゃねぇか?
なぜ、俺を動かしてくれない?
まさか……モニターの前にいねーのか?トイレでも行ってんのかよ?
行く時ちゃんと俺に言えよー!
嫌な予感がして、モニター越しに“こいつ”の様子を見た。
……すると、居た、そして……まさかの電話中!?
はぁー?、おいおい、誰だよ!
こんなときに電話って、ありえねぇだろ!!
もう戦闘BGM流れてんだぞ!?
この雰囲気ぶち壊すなよ!
普通ここは、プレイヤーが高揚してストーリーにのめり込むところだろーが!
しかもこのギターベースのアップテンポのBGMは、
どう考えても「苦戦確定イベント」系だぞ!?
あーもう、マジしらけた……。
ゲームってのは“雰囲気”が大事なんだよな……。
まぁ、よくあるけど、これからって時に、宅急便がきたり、「ご飯できたよー」とか、呼ばれるやつ。
あれ、やめて欲しいんだよなぁー、頼むからプレイヤーを現実世界に強制的に戻すやつ。
――あれ、辛いんだよな!
俺とヤツは、いまだに互いに動かぬまま立ち尽くした。
そして――
“こいつ”の声が、なぜかこっちにも聞こえてきた。
…………
「うん、うん、そーなんだー。へぇー」
……何話してんだよ。っていうか、長げぇー
まさか、これが噂の“女の長電話”ってやつか?
さらに十数分が過ぎた。
「え? 今、何してるか? だって?」
「えっとね、新しく買ったゲームしてるんだ」
「キャラメイクで作ったキャラがね、めちゃイケメンなんだよ!」
「でさ、“アルプス”って名前にしちゃった」
「え? なんでその名前にしたかって? たまたま水飲んでて、ラベル見たら“これでいいや”って、てへっ!」
……はぁ。
俺の名前って、そんなノリで決まったのかよ……。
ショックすぎる……
でも、さらに会話は続いた。
「でもさ、私ねー、アルプスが攻撃されると“頑張れー”って応援したくなるし、かわいそうにもなるんだよね」
「うんうん、そうそう。このキャラ、めっちゃ好きになってるんだ」
――え?
今、“好き”って言った?
まじか……。
俺、好かれてたのか……?
ずっと文句ばっか言ってたけど、こいつ……意外といいやつなのかもしれん。
そーいえばこの前だって、俺の頭を守れるように鎧買ってくれたしな。
そうだ、“こいつ”なんて――もう呼べねぇよな。
俺は“こいつ”の名前が知りたくなり、さらにモニター越しに耳を澄ませた。
すると、電話の向こうの相手が小さく言った。
……“ミユキ“、ゲーム頑張ってね……
そうか。
“こいつ”の名前は――“ミユキ“、っていうのか
だったらもう、“こいつ”じゃない。
俺のことも名前で呼んでくれてる。
だったら、俺も今日から、ちゃんと名前で呼ぶことにする。
ミユキ……
今までごめん。
でも……早く俺を操作してくれー!
……と思ったら。
あのクソ長ぇ電話、やっと終わったようだった。
ミユキが操作を再開する。
俺は全力で叫んだ。
「おせぇんだよ!! 今、最大のピンチなんだぞー!!」
まぁいいや!
よっしゃ、ミユキ!
「今までの戦闘を思い出せ! 一緒にヤツを倒すんだ!」
「行くぞーーッ! ミユキーー!!」
その瞬間、俺は背中の剣を抜いた。
伝説の剣を振りかざし、ヤツめがけて突進する!
ヤツが身構えた。
……防御か? 遅ぇ! 防御する前に仕留めてやる!
ミユキの操作が俺の身体を動かす。
俺は全力で飛び込んだ――。
だが。
ヤツは防御などしていなかった。
手にしていた“木の棒”を、高く振り上げていた。
木の棒だと? ハッ、そんなおもちゃで俺が止められるか!
俺は笑った。
もっとゴツいこん棒を持ったゴブリンに、俺はスネを殴られながらも勝ったんだぞ!
俺に恐れるものなど――
その瞬間だった。
世界が、真っ赤に染まった。
俺は炎に包まれていた。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
だが、確実に燃えていた。
熱い。
HPがみるみる減っていく。
倒れかける俺に、さらに追撃の炎が降り注ぐ。
HPバーが一瞬で真っ赤になり――ゼロになった。
こいつ……つえー……
しかも……めちゃくちゃ……痛てーよー、熱いしー……
……そして、俺は静かに、畑の土の上に倒れた。
BGMが止まり、“いかにも”って感じの悲しい曲が流れた。
そして、モニターには無情な文字が浮かぶ。
【勇者アルプスは しんでしまった……】
そして……
ゆっくりと……
モニターが……
暗転する……
ああ……俺は死んだ……
…………
…………
…………
――すると。
モニターに“リトライ画面”が現れた。
選択肢が出る。
【はい】 【いいえ】
→ 点滅するカーソルが、ゆっくりと動く。
そして――
カーソルは、もちろん【はい】を選んでいた。
さっきの戦闘前の高揚するBGMと共に、戦闘開始前の画面がモニターに映し出された!
そうだよな、そう来なくっちゃ、ミユキー!
もう一度だ。
今度こそ勝つ!
俺も、そしてミユキも――もう負けない。
ヤツの攻撃はもうわかっている。
あれは、木の枝なんかじゃねー 賢具だぁ!
――魔法を操るための杖のような武器だ。
ヤツが振りかざした方向に、おそらく、炎の魔法が飛んでくる。
その軌道を見切れば……勝てる。
絶対に勝てる!
俺は自信満々だった。
だが、勝負を決めるのは――俺じゃない。
操作するのは、ミユキだ。
頼むぞ、ミユキ。
お前の操作で、俺を――勝たせてくれーー!!
でも……
――そこから……俺は、地獄を見るのだった……
「あ! だめだ、ミユキ、そっちじゃない! 熱っ!」
「だから、そっちじゃないって! 痛っ!」
「いやいや、真っ直ぐ向かったら当たるって! うげっ!」
「魔法は少し追っかけてくるから、すぐに避けんなって! ぎゃー!!」
俺は……何度……死んだのだろうか……
……本当は……俺、弱かったのかな……
俺の心は完全に折れていた。
でも、それでも……俺は……動かされる。
何度死んでも。
やっぱ、今のミユキじゃ……無理かも……。
俺はそう思った。
ミユキ……ごめん……。
そして、モニター越しにミユキを見た。
「あー難しいー……アルプス、ごめん……私が下手すぎて……」
「やっぱり……私には……ゲーム、無理なのかな……」
俺はハッとした。
そうか――落ち込んでるのは、俺じゃない。ミユキだ。
ゲームっていうのは、ただデータを動かすものじゃない。
プレイヤーはこの世界で“もう一人の自分”として生きて、
現実では味わえない体験を、俺と一緒に感じてるんだ。
そうだ。
ゲームとは――プレイヤーと心を通わせて、一緒に作る物語なんだ!
でも、俺にはどうすることもできない。
一体どうすれば――。
すると、また……戦闘開始前の画面から動かなくなった!
ん? また電話か?
俺はそう思って、ミユキを見た。
……が、違った。
ミユキはスマートフォンで、何かを一生懸命調べているようだった。
しばらく待つと、モニターに“基本設定画面”が現れた。
そこには、こう書かれていた。
・戦闘スタイルモード選択
▶︎【マニュアル】:上級者向け(全ての操作がプレイヤー)
【アシスト】 :中級者向け(防御のみオートAI)
【オート】 :初心者向け(攻撃・防御の全てがオートAI)
……!? 戦闘スタイルっ!!
そうか――この手があったか!
俺は、ミユキが導き出した答えをすぐに理解した。
そうだよ、俺も忘れてたんだ!
これなら……勝てるかもしれない!
点滅するカーソルが、ゆっくりと下へ動く。
▶︎【オート】 :初心者向け(攻撃・防御の全てがオートAI)
戦闘スタイルモードとは、アクションが苦手なプレイヤーでも戦闘を楽しめるように、
AIが自動で攻撃・防御などを行ってくれる機能だ。
どこまでAIに任せるかは、その選択次第。
そして――ミユキが選んだのは、【オート】モード。
つまり、戦闘は完全にAI任せ。
プレイヤーの操作は、ほとんど必要ない。
だが、俺にとっては違う。
ミユキにとってはオートでも……俺にとっては“マニュアル”なんだ!
俺が、自分の意思で戦えるってことだ!!
そして、BGMが再び鳴り響く。鼓動が高鳴る。
この音が、俺の心をさらに――燃え上がらせた!
いいぞ!ミユキ!最高のプレイヤーだ!
俺は、もう負けない!こいつを倒して、ミユキと一緒にこれからも冒険をするんだー!
秘策は決まっている。
……ヤツの魔法を引きつけ、ギリギリでかわす。
そして、一気に間合いを詰めて、ヤツに剣を振り下ろす……
すると、ついにミユキの操作ではなく、俺の意思〔AI〕による戦闘が開始された。
俺はヤツめがけて走り出し、一気に間合いを詰めた。
すると、ヤツがいつものように炎の魔法を放ってきた!
俺は、さっき考えた秘策どおり――
ギリギリのタイミングで身をひねり、ヤツの炎魔法をかわした!
炎が頬をかすめ、視界が赤く染まる。
『やったー! 成功だぁ!……って、あっつ!!
ちょっと焦げたけど、我慢だ!』
そして、間合いを一気に詰める。
スキだらけになったヤツの体勢へ――
俺は全力で剣を振りかざした。
『決まれーーッ!!』
……その瞬間。
シャキンッ――!
甲高い音とともに、俺の剣が弾かれた。
「う、嘘だろ……?」
完全にヤツを捉えたはず……なのに、なんでだ!?
……見えた。
ヤツの周囲に、薄く光る魔法の膜――。
魔法防御……!?
俺の剣は、その障壁に弾かれたのだ。
……くっ……!
俺はバランスを崩し、剣が手から離れて遠くへ鋭く回転しながら吹っ飛んだ。
そして、反動の勢いで――ヤツの目の前に、膝をついていた。
俺は完全に無防備だった……
終わった……。
ヤツが静かに賢具を構える。
その杖の先に、再び炎の光が宿る。
その瞬間、時間の流れが――ゆっくりになった。
……ミユキ。
ごめん……




