レベル10 村での出来事
俺はいまだにスライムばかり倒していた、あの草原――出発したばかりの城のすぐ近くにいた。
やっと歩き出した……いや、正確には歩かされていた。
そこから先に現れた敵は、どれも楽勝だった。
レベル3のゴブリン、レベル5のサソリ、レベル7の巨大アリ。
俺はレベル10だ。
敵じゃない。
――はずなんだけど、装備がクソすぎる。
攻撃も防御も紙みたいに弱い。
「伝説の装備」って聞いたけど、本当か? 正直、疑ってる。
あぁ、早くまともな装備を買ってくれよ……。
そんなアンバランスな戦闘を続けながら歩くうちに、目的の村が見えてきた。
でも、なんか嫌な予感がする……
近づくにつれてそれは確信に変わる――さびれすぎだろ、これ。
村の入口に立った瞬間、思わず口から出た。
「……これ、本当に村か?」
最悪だ。
絶対、装備なんて売ってねぇ。職人もいねぇだろ……。
帰りてぇ。
でも俺は歩かされる。こいつには逆らえない。
村に着くと、いきなり村人が話しかけてきた。
真剣に耳を傾けていたのに、突然――村人が早口で話し始めた。
俺は突然の出来事にびっくりした、そして理解できなかった。
一瞬、村人が発狂したのかと思った。
でも違う。原因はモニター越しの“こいつ”だ。
こいつが、会話をスキップしやがったのだ。
「おい! やめろ! 村人の話、聞かせろって!」
昔から言うだろ?
“おばあちゃんやおじいちゃんの話はちゃんと聞け”って!
……結局、村人が何を話していたのか、俺にはわからなかった。
もう、全てが最悪だった。
この村のBGMは、この寂れた景色にぴったりなほど悲しげだった。
さっきまでいた城のほうが、よっぽどマシだ。
今の最悪な気分と、この寂しいBGMが妙にシンクロして、泣きそうになった。
俺はさらに村の中を歩かされていた。
しばらくすると――道具屋が見えた。
「ラッキー!」と思った。
こいつは、いつもこういうとき必ず店をチェックする。
だから、ここはチャンスだ。
回復薬くらいは買ってくれるはず……。
少しずつ道具屋に近づいていく。
もう目の前だ――と思った、そのとき。
俺はいきなりジャンプをし始めた。
なんだ? どうした? バグったのか?
でも、すぐに理由がわかった。やはり“こいつ”だ
ジャンプを繰り返しながら、まさかの――道具屋、スルー。
俺は思わず叫んだ。
「おーい! なんでだよ!!!」
もう疲れた……マジ最悪だぁ……。
すると、今度は宿屋が見えてきた。
やっと休める――そう思った。
いまだにHP1だし、さすがに一晩休ませてHPを回復させてくれるだろうと思った。
俺は宿屋までまっすぐ進み、宿屋の店員に話しかけた。
『いらっしゃいませ、旅のお方ですか? 一晩100ギャラになります。泊まりますか?』
はぁ? 100ギャラってなんだよ。
しかもお金の単位が“ギャラ”ってなんだよ。
それに、こんな汚ぇ宿で高すぎだろ。
選択肢が出る。
【はい】【いいえ】
→ 点滅するカーソルが動いた。
カーソルは、まさかの【いいえ】を選んでいた
はあ、なんでだよ!
俺は泣きそうになりながら、こう思った。
――もう……冒険、やめたい。
俺、一応、勇者でヒーローだけど、もういいや、普通の人でいいやって思った。
最初の城に帰って、王様に「やっぱ無理でした」って言いてぇ。
……けど、俺はこいつには逆らえないのだった。
そして次の瞬間、また無理やり歩かされて、村長との会話になっていた。
どうやら、この村に入って最初に俺に話しかけてきたのは村長の息子らしい。
しかも、これから進むストーリーで重要なことを言ったらしい。
だから俺は言ったんだよ。
「人の話はちゃんと聞け」って。
村長の話では、その息子はこう言ったらしい、
この村の大切な畑にモンスターが出て、仕事ができず、食べ物を育てられないと。
そして俺に、それを討伐してほしいと頼んできた。
……で、倒してくれたら何かをくれるらしい。
はいはい、分かりましたよ。どうせ強制でしょう。
これ、倒さないと先に進めないやつね。
俺はこいつに言いたいことがある。
新しい鎧と剣を買ってくれ、もう贅沢は言わねーから、せめて鎧だけでもいい。
だって最近、敵の攻撃が痛すぎて気絶しそうなんだよ。
こいつには、俺の痛みなんて絶対わかんねーし。
それに、体力も回復させてくれー!
HP1のままじゃ即死だって!
一撃で終わっちゃうから!
叶えてくれたら、ちゃんとモンスター倒してやるから頼む!
……そんな俺の思いも無視されて、また歩かされた。
そして今度は、さっき村の入口にいた村人にもう一度話しかけていた。
ちょっと待て。今から話を聞くと、時系列的におかしいだろ。
「食べるものがなくて困ってる」?
ああ、知ってる知ってる。畑にモンスターが出るんだろ。
それを村長と相談して、俺に倒してほしいって話だろ?
……もう聞いたから!
で、場所はどこだ?
なになに、「村の北のはずれ」だって?
だよね、中心じゃないよね。
はいはい、分かりましたよ。
おーい!まさか忘れてないよな?
俺の願い――鎧と回復だぞ!
これ、絶対条件だからな!?
……そう思った瞬間、また勝手に歩かされた。
進む方向を見ると、道具屋の方だった。
お! もしかして、願いが届いたか!?
そして俺の操作、いや、こいつの指示で道具屋に話しかけた。
「旅のお方、何をお探しですか?」
【回復薬・小:50ギャラ】
【回復薬・大:90ギャラ】
【毒消し薬:40ギャラ】
【目薬:100ギャラ】
【村の水:120ギャラ】
……は?【村の水】ってなんだよ。しかも一番高ぇし。
飲んで大丈夫なのか?
どう見てもそこらの井戸水だろ、これ。ぼったくりかよ。
まぁ、この村の様子を見れば納得だけどな。
でも今は買わねぇ。
スライムばっかりで金もたまってねぇんだよ。
それに【目薬】ってなんだ?なんの薬だよ、まったく怪しいモノ売りやがって!
そして、
→ 点滅するカーソルが動いた。
【毒消し薬】決定。
……はぁ。なんで毒なんだ?今いらねぇだろ。
俺毒に侵されてねーから!
誰がどう見ても、今は回復薬だよなぁーー。
絶対、金、無駄にしたわ。
滅多に使わねーし、
はぁ、もう最悪。
まぁいい。せめて宿屋には行けよな。
じゃないと、一撃で死ぬぞ。これは自信ある。
すると、また歩かされた。
――そう、それでいいんだよ。
そう、俺は宿屋に向かっていた。
そして、あの汚ねぇ宿屋に泊まるように【はい】を選んだ。
宿屋の主人が言った。
「では、ゆっくりおやすみください」
俺はやっと一晩ゆっくりできると思った。
今夜は一人で、“こいつ”について考えようと思ってた。
心を癒すようなBGMが流れる。
ゆっくり休もう――そう思った。
『ぴろっ』という音とともに、一瞬で朝になった。
はぁ……なんでだよ。
なんで朝まで一瞬なんだよ。
俺は理解できなかった。
でもHPは全回復していた。
……俺に時間を返せ。そう思った。
俺のHPはすっかり回復していたが……
――次の悩みが残っていた。
そう、装備だ。
「早く、この村の武器屋か防具屋に行けよな……」
俺はずっとそう思っていた。
だけど、こいつも同じことを考えてるのか、村の中をうろうろ探している。
……でも、どこにもない。
そりゃそうだ。
こんなちっぽけな村に、武器屋も防具屋なんてあるわけねー
と思った、その時。
村の北のはずれに、「防具屋」と書かれた看板が見えた。
「おい、嘘だろ〜!?」
俺は目を疑った。
本当に、防具屋があったのだ。
信じられねぇ。
この村の雰囲気からするとおかしいだろー
すると、こいつは迷いもせず俺を操作して、店主に話しかけていた。
「旅のお方、何をお探しですか?」
【頭専用鎧 銅:100ギャラ】
【手専用鎧 銅:100ギャラ】
【体専用鎧 銅:150ギャラ】
【足専用鎧 銅:100ギャラ】
【眼鏡:100ギャラ】
【村の水:120ギャラ】
【頭専用鎧 銀:200ギャラ】
【手専用鎧 銀:200ギャラ】
【体専用鎧 銀:300ギャラ】
【足専用鎧 銀:200ギャラ】
たっけぇぇぇ!!
銅の鎧だけでも全部揃えたら、けっこうな額になるじゃねぇか!
しかも銀シリーズまであるし、倍の値段ってどういうことだよ。
絶対ムリだわ。
ますます、おかしいわ、バランスおかしいって!
この防具屋は、絶対この村の出身じゃねーだろ!
こんな村の隅っこで営業しやがって、
てかさ――【眼鏡】って何だよ。
装備品なのか?何から守るんだよ!
しかも、誰が買うんだよ!
……ん? 【村の水】?
また出たよコレ! しかも鎧並みに高ぇし。
ありえねー。
俺は確信した。
この村、全員グルだ。そこらへんの井戸水を詐欺価格で売ってる。
……だから、こんな寂れた村なんだよ。
はぁ。
金がねぇって、ほんとつれぇな。
もし俺にもう少し余裕があったら、
二、三個ぐらい買ってやってもよかった……
……って、何だよ俺。
詐欺だってわかってんのに、買ってやりたいとか思ってんのか。
ちょっと自分が恥ずかしくなった。
で、こいつは俺に何を買ってくれるつもりだ?
画面のカーソルが上下にチカチカ動いている。
はい、出ました。――優柔不断。
こいつの得意技だ。
まぁ、なんでもいい。贅沢は言わねぇ。
銀の鎧は流石に高すぎるから……
せめて、一箇所だけでも買ってくれ。
――そうだな。
強いて言うなら、足専用鎧が欲しい。
足のスネってマジで痛ぇんだよ。
あそこだけは勇者とか関係ねぇーから。
この前のゴブリン戦だって、こん棒でモロにスネ殴られたときはマジで悶絶したからなぁ。
あの痛みって地味に効くんだよ。
ジンジンして、いつまでも残るタイプのやつ。
あー! 思い出しただけでも痛てーわ。
で、こいつは何を買ってくれるんだ?
→ 点滅するカーソルが、ピタリと止まった。
【頭専用鎧 銅】――決定。
……はぁ。やっぱり、わかってねーよな。
いや、でも待てよ。
確かに俺、頭は完全に無防備だったわ。
スネで死ぬことはないけど、頭は死ぬかもしれん。
もしかして――意外と、俺のこと考えてくれてんのか?
俺はそう思った。
そしてついに、俺は新品の「頭専用鎧 銅」を、あの怪しい防具屋から受け取った。
「あー新品はいい匂いだー、ありがとー……」
と、つい口走りながら、それを頭に装備した瞬間――
一気に防御力が上がった。
体の中から力が湧き上がってくるような感覚だった。
……まぁ、実際には力のステータスの数字は一切変わってなかったけどな。
でもいいんだよ。
こういうのはイメージが大事なんだ。
防御力が上がり自信満々の俺はさらに北へと歩かされていた。
――そう、あの村長の息子が言っていた場所。
「村の北のはずれ」を目指した。
しばらく歩くと、畑のような場所に出た。
畑が荒らされ、枯れてしまった作物がところどころ残っている。
おそらく……ここだな……
風が妙に冷たく感じる……
そして、よく見るとその真ん中に――人影があった。
一瞬、俺は身構えた。そして、剣の柄に手をかけた!
人間……か?
いや、まさか新手のモンスターか?
まさか、こいつが……
わからねぇ。
この世界じゃ、どんな見た目してても油断できねぇ。
だがそいつは、じっと俺を見ていた。
目だけがやたらと鋭く、まるで敵を見るような目だった。
……こえぇ。
俺は思わず一歩引いた。




