レベル1 冒険の始まり
その女性が薄いビニールを取り外し、パッケージを開ける。
誰もがワクワクする瞬間。
そして、パッケージから取り出して、ゲームの本体に入れた。
Blu-ray Discに収められた私のデータが、本体に読み取られる。
読み込み音とともに、私の意識は高速で回転を始めた。
ディスクが回るたび、世界が遠のく。目が回るどころではない
……意識そのものが引きずり回されているようだ。
やがて、あまりの速度に意識を保てなくなり、
私はその回転に飲み込まれて、暗闇の中へと沈んでいった……。
……そして、気がつくと。
目の前がパッと明るくなった。
そこには、いくつもの文字と数値が並んだ画面。
どうやら“キャラメイク”の画面らしい。
あぁ、ということは
……最初のオープニングムービーは終わったんだな。
これから私の姿が決められるわけだ。
モニターの向こうでは、一人の女性がコントローラーを握っていた。
彼女が、私の運命を決める“プレイヤー”。
……いや、“こいつ”と呼ぶことにしよう。
最初に表示されたのは性別選択の画面
【男性】 【女性】
こいつは矢印を右に行ったり左に行ったり、
ずっと迷っている。イライラする。私は優柔不断が一番嫌いなんだ。
――もう!早く選べよ――
私の思いは、もちろん、誰にも聞こえない。
私の声は画面の中に閉じ込められている。
そして……矢印が止まった。
【男性】
よし、俺だ!
続いては容姿設定。
こいつは髪型を変えたり、目の色をいじったり、
何度もスライダーをいじっては戻してを繰り返している。
ようやく完成した俺の顔を見て、こいつは満足そうだった。
俺はその顔を見て思った。
――めっちゃイケメンじゃん!いや、こんなやつ現実世界にいねぇよ――
俺は画面の中でそう呟いた。
そして、最後の項目……名前
俺は悟った。ここからが地獄の始まりだと。
最初にこいつが入力したのは、
【ナイト】
――そのまんまじゃねーか!――
あ、文字が消えた。
どうやら変える気らしい。
よし、見せてもらおうか……そのセンス。
そこから俺は、何分も名前が決まるまでじっと待っていた。
入力されていく名前にツッコミを入れながら。
(ちなみに、この時点で俺の名前はもう決まってる。
だが、そこに至るまでが長ぇんだ……)
【ケント】
――はぁ? 今の彼氏か? 俺に投影すんなよ――
【太郎】
――おいおい、昔話かよ!まさか犬の名前じゃねーだろーな――
【天然水】
――……俺、水か?――
そして……最終的に決まった名前がこれだ。
【アルプス】
……やっぱ水じゃねーか! ……けど、……悪くねぇな……
こうして俺は完成した。
【性別:男】
【ジョブ:knight(剣士)】
【特徴:超イケメン】
そして、【名前:アルプス】
――おー、意外とイケてんじゃん。最初はクソだと思ったけど、
案外気に入ったかもな――
――こうして、ようやく俺の冒険が始まった。
最初に訪れる場所は決まっていた。あの、ややこしい城だ。
ストーリーはよくわかってねぇけど、どうせ一番上に王様みたいなやつがいて、「平和にしろ」とか「ドラゴン倒せ」とか言ってくるんだろ?
モニターの向こうのこいつは、やけに楽しそうに俺を操作している。それに、浮かれてんのか知らねぇけど、さっきからジャンプしすぎなんだよ。
そんなに跳ねさせたら、こっちが疲れるっつーの。
俺は意に反して、城の中を隅々まで走らされた。
あっちの店、こっちの店……どうせ金なんか持ってねぇのに。
最初はお決まりなんだよな、金はねーんだよ、俺は何度も言った。
買えねぇもんばっか見せんなよ。マジで疲れる。
――っていうか、俺、まだただの服じゃん。
これで戦ったら一撃で死ぬだろ。
それに、この城のBGMもいかにも「最初の出発」って感じで、やけに明るい。
テンポが良いのはいいけど、今の俺には正直どうでもいい。
早く王様のとこ行けよ……と、俺は心の中で何度も呟いた。
そして我慢すること二十分。
ついに、こいつは諦めて城の最上階へ向かい始めた。
――いたよ、やっぱり。王様。
絶対いると思ったんだよな。
王様は言った。
『勇者アルプスよ、囚われた姫を救い出すのじゃ!』
はいはい、出たよお約束。どうせ行くしかねぇんだろ?
逆らえない運命ってやつだ。
それに、囚われたのは俺のせいじゃねーだろ、知らねーし!
さらに王様が続けた。
『勇者アルプスよ、我が一族に伝わる伝説の剣と鎧を授けよう!』
……中古じゃねぇだろうな? それに、まさか臭くねぇよな?
一族とか伝説とか知らねぇけど、
俺は勝手にストーリーに沿って進まされ、
いつの間にかボロい鎧を着せられ、錆びた剣を握らされていた。
やっぱ、くせーじゃん!
おいおい、こんなんで最初のスライムにも勝てねぇぞ。
その時、またムービーが始まった。
しかもこれ、今の映像じゃなくて、前撮りのやつだ。
俺はただ、ムービーが終わるのをじっと待っていた。
――そして、やっと終わった。
ムービーが長すぎて、ちょっと眠くなったわ。
「どれ、いくか。次の村に」
俺はこいつの意識に逆らうことができず、次の村へ向けて歩き出していた。
外にはモンスターがうじゃうじゃいる。
っていうか、こんなにいたら普通おかしいだろー。
その時――お約束のBGMと共に戦闘が始まった。
『スライムが三匹、現れた』
最初の戦闘だ。こいつのコントローラーさばきを見せてもらおうじゃねーか。
よし、どうせスライムだから、一気に倒せよ……と俺は思った。
……なのに、こいつは逃げてばっかりだった。
「おいー! 攻撃出せよ!」
逃げ回りながらも、俺はスライムの攻撃を受けていた。
スライムのくせに意外と痛い。
いや、ちょっとイラッとするくらい痛いんだけど!
なんだよ、こいつ操作知らねーのか?
最初のチュートリアル見てねーのか?
戦闘の練習しただろ、さっき!
「あ! そこで勝手にジャンプすんなっての!」
痛っ……! 俺のHPがどんどん減っていく。
はぁー、マジで最初の戦闘で死ぬとかありえねーから!
その時、偶然スライムの背後をとった俺は、剣を振りかざした動作をした。
そう、攻撃をしたのだ。それは、
――クリティカルヒット! 一撃でスライムを倒した。
「やるじゃん、俺!」
……いや、俺じゃなくて偶然なんだけどな。
「もっと攻撃しろー!」と心の中で叫びながら、なんとかスライム三匹を撃破した。
疲れた……
HP、もう1しかねーじゃん。
達成感のあるBGMが流れてるけど、俺は全然うれしくねぇ。
モンスターを倒すとお金が出るらしいが、別に俺が自由に使えねーし。
しかも、あれ実は“モンスターの体から出てくる”んだよ。
どうせ、みんな知らねーだろうけど。
倒したあと、俺が律儀に拾ってんだからな。
……勇者が恥ずかしいわ。
ギリギリで生き残った俺は、ため息をついた。
「こいつ、あまりにも下手くそじゃね……?」
こんなんで最後のボス、倒せんのかよ。
――不安しかねーし。
そこから、こいつはスライムばっかり倒すようになった。
ひたすら、スライム。スライム、スライム、スライム。
どんだけスライム好きなんだよ。
でも――操作に慣れてきたせいか、だんだんスムーズに倒せるようになっていた。
……俺は、ちょっとだけ思った。
「どんなヤツでも、練習すりゃいけんじゃん」って。
で、そんなスライム狩りの日々のせいで、気づいたらレベル10になっていた。
――あり得ねぇ。
スライムだけでレベル10って、どんなバランス調整だよ!
俺の体力も腕力も、素早さも防御力もぐんぐん上がってきた。
まぁ、こいつのおかげ……なのかもしれない。
でもそのせいで、問題が出てきた。
鎧と剣が、やけに使いづらくなっていたのだ。
装備のレベルが、もう俺の強さに追いついてねぇ。
俺は心の中で、いや、ほぼ叫んでいた。
「次の村で! 新しい装備買ってくれー! 頼むからー!!」
……聞こえてねぇよな、やっぱり。
「っていうか、……村に装備売ってんのか?」




